原田さんの故郷
アンケートから始まった話はすぐに進み、私が原田千恵子さんと会える日は思っていたよりも早く訪れた。
私は原田さんのアトリエに招かれた。自宅の一角を改築したアトリエで、原田さんは月に一度、水彩画教室を開いている。部屋には絵がたくさん飾ってあったけれど、どれも生徒さんの作品らしい。後で原田さんの絵も見せてもらおうと思った。
「小川ゆりなさん、でしたね。お会いできて嬉しいわ。」
原田さんの話し方はいかにも先生らしく、穏やかだが芯が通っていた。
「早速だけど、あなたの絵をもう一度見せて下さる?」
私は脇に抱えていた大きなバッグから絵を取り出した。
「私が描いた絵です。この場所をご存じですか?」
原田さんは目を細めてしばらく絵を見つめていた。
「ああ、懐かしいわ。この家も、田んぼも、空も、全てこの通りだった。」
「教えてください!この場所はどこにあるんですか? これは私の記憶の中にあった風景をそのまま描いただけで…ここがどこかも知らなくて…私、ここに行きたいんです。」
私の言葉を聞くと、原田さんは困ったような顔をした。
「あなた、本当に何も知らないでこれを描いたの? これは私の故郷の村。でも、もう50年以上も前になくなってしまったわ。」
原田さんは少し寂しそうに言った。





