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展覧会のアンケート
「小川さん、良い知らせよ!小川さんの絵の場所を知っている人がいたわ!」
展覧会の翌日、会場の撤去作業で展示していた絵を箱に戻していると、田口先生が声をかけてきた。先生は折りたたまれた展覧会の来場者アンケートの紙を私に差し出した。公民館で3日間行われた展覧会には予想以上に多くの人が集まった。先生は大量に回収された来場者アンケートを一枚一枚確認していたらしい。
そのアンケートには習字のような丁寧な字が書かれていた。
『入口に飾られていた絵は私の故郷の村の風景です。良ければ、これを描いた方とお会いしたいです。 ―72歳、原田千恵子』
手紙の一文を何度も読み返しているうちに、目の前が一気に開けていくような気がした。
「この方、水彩画教室の先生をされてるの。私も顔見知りだしすぐに連絡とれるけど、どうする?」
「私もこの原田さんって人に会いたいです! 先生、お願いします!」
やっぱりあの風景は私の想像なんかじゃない。本当にある場所なんだ。ずっと探していた場所が、見つかるかもしれない。
その日の夜は、嬉しくてなかなか眠れなかった。