第81話 直後と苦慮と
その後はこれといった問題も出てこず、淡々と三者面談を終えて。
「人見さん、本日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそありがとうございました。引き続き、よろしくお願い致します」
そんな定型に近い挨拶と共に薊教諭と頭を下げ合った後、春輝は教室を後にした。
「あざっしたー」
あくまで軽い調子で頭を下げて、露華がそれに続く。
「……春輝クン、先生の言ったことは気にしないでいいからね。ウチ、全然大丈夫だから」
薊教諭によって教室の扉が閉められたところで、そんなことを言ってくる露華。
「いや、大丈夫ってことはないだろ……」
春輝は眉根を寄せながら返す。
「まだ入学したばっかだし? グループ形成に乗り遅れるなんて、よくあることっしょ」
「けど、君の場合は例の噂の件があるじゃないか」
「人の噂も七十五日、とか言うじゃん? そう考えると、一学期中にはなんとかなるんじゃない?」
「んな、適当な……」
学校の廊下を歩きながら、二人は小声でそんなことを言い合った。
「あのさー、春輝クン」
早足で数歩先行した後に、露華がクルリと振り返ってくる。
「考えてもみてよ? この、ウチだよ?」
自身の胸に手を当て、ニッと笑う露華。
「友達出来なくて寂しいよ~、なんてキャラじゃないっしょ。てか、友達くらい自分で作るっての。こういうの、外野が口を出すことでもないじゃん?」
それから、春輝を見る目を鋭く細める。
「だから、春輝クンの出る幕なんてないわけ。オーケー?」
「それ……は……」
そうなのかもしれない、と少し納得の気持ちが生まれてしまった。
と、そこで。
「あっ、春輝さん、露華」
曲がり角の向こうから、伊織が姿を現した。
「面談、終わったんですね。どうでした?」
笑顔ながら、その顔には少し心配げな色も見て取れる。
「あぁ、うん……」
伊織にも相談すべきか……そう思った春輝だったが。
「………………」
すすっと身を寄せてきた露華が、無言のまま脇腹を肘で軽く突いてきた。
恐らく、「余計なことは言うな」ということだろう。
「……特に、問題なかったよ」
どうにか笑みを浮かべて、伊織にそう返す。
露華の意図を汲んだというよりは、現段階で知らせても心配させるだけだろうという思いによる判断だった。
「成績優秀で生活態度も問題ない、ってさ。それ聞いて俺、思わず『そうなの?』って聞いちゃったよ」
「ふふっ、最初はみんな驚きますね」
「ひっどいなー、二人とも」
なんて、談笑する中。
意識して笑顔を貼り付けながらも、春輝の頭の中は露華の件についてどうすべきかという悩みが大半を占めていた。