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第70話 勝負と嗜好と

 それもまた、とある休日の一コマ。


『~♪』

「はいっ」


 春輝のスマートフォンから音楽が流れ始めた途端に白亜が手を上げたのを受けて、春輝は一時停止アイコンをタップする。


「早いね……これは結構、難易度高いと思うんだけど?」

「ふっ……この程度で高難易度とは、ハル兄はわたしを舐めている」


 挑発的な春輝の物言いに対して、白亜はニッと自信ありげな笑みを浮かべた。


「この特徴的な一小節目……『かっぱらえ河童!』で間違いない」

「おっ、正解。凄いな、ホントに難しいと思ったのに。ただでさえアルバムにしか収録されてない上に、『九時の球児』とちょっと似てるだろ?」

「確かに似てはいるけど、明確に違う。コエダーであれば聞き分けられて当然」

「ほぅ、言うじゃないか」

「今度はわたしの知識を総動員して、ハル兄にはわからないだろう問題を出す」

「受けて立とう」


 なんて、二人で不敵な応酬を繰り広げていたところ。


「……二人で、何してんの?」


 リビングの前を通りがかったらしい露華が、胡乱げな目を向けてきた。


「イントロクイズだよ」

「ただし、小枝ちゃんの曲限定」


 春輝、白亜の順で説明する。


「それ、二人だけでやって面白いわけ……? ていうか小枝ちゃんの曲限定って、縛りがキツすぎてクイズにならなくない……?」

「そんなことはない」


 リビングの扉に背を預けて疑問を重ねる露華に向け、白亜がグイッと身を乗り出した。


「今の声優はアニメとのタイアップが多いから、曲数も多くなりがち。キャラソンまで含めればかなりの数だし、アルバムにしか収録されてない曲もあるしで、マニアックな曲も出てくる。その中で如何に短い時間で該当する曲を言い当てるかはコエダーレベルがダイレクトに問われるところであり、当然選曲側としても……」

「あーはいはい、わかったわかった。とにかく、楽しいってことね?」


 早口で言い募る白亜に対して、露華は辟易とした表情で手を振る。


「むぅ……ロカ姉、本当にわかった?」


 姉に向ける白亜の目は、かなり懐疑的なものであった。


「わかったっての……ちゅーか、それよりアンタさ。今日、お姉と一緒に外の掃除するって話じゃなかった? お姉、もう始めちゃってるよ?」

「っ!?」


 しかし、続いた露華の言葉にハッとした様子で時計を見る。


「しまった、もうそんな時間……!? イオ姉に怒られる……!」


 顔に焦りを浮かべながら立ち上がる白亜。

 どうやら伊織は『怒ると怖い』らしく、しばしばこうして妹たちから恐れられている様が見て取れるのだった。


 春輝からするとあまりピンと来ないところだ……と思いかけたが、時折感じられる謎の『圧』を思い出せば納得出来るような気もしてくる。


「それじゃ、ハル兄……小枝ちゃん限定イントロクイズ、またやろうね」

「あぁ、いつでも受けて立つよ」

「うんっ」


 最後に嬉しそうに頷いてから、白亜はリビングを出ていった。


「……やーっぱり、春輝クンって白亜には特別甘いよねー?」


 白亜と入れ替わる形でリビングに入ってきながら、露華が懐疑的な目を向けてくる。


「いや、そんなことはない……よ?」


 語尾が微妙な感じになったのは、実のところ春輝にも若干の自覚があるためだった。

 姉二人と比べると幼さの目立つ彼女に対しては、どうしても甘くなってしまいがちなのである。

 共通の趣味を持っている、というのも大きいと言えよう。


「えー? ホントかなー?」

「ホントだっての」


 露華の追及も、春輝のそんな内心を察してのじゃれ合いであるように思えた。


「んー……」


 そこでふと顎に指を当てた露華が、隣に座って春輝の手にあるスマートフォンを指す。


「白亜ばっかじゃズルいしさ、ウチにも教えてよ。その、小枝ちゃんの曲っていうの」

「ズルいって……」


 その言い方に、思わず苦笑が漏れた。


「ま、もちろん教えるのは吝かじゃないけどさ」


 小枝ちゃん好きが増えるのであれば、それは喜ばしいことである。


「春輝クンのオススメは? あっ、地下アイドル時代のやつは聴いたからそれ以外でね」

「……聴いてくれたんだ?」


 予想外の言葉に、春輝は瞬かせた。


「聴いて『くれた』って、春輝クンどの立場なのさ」


 くれた、の部分を強調して露華が笑う。


「いや、やっぱ自分の好きなものが広がるのは嬉しいだろ?」

「それはまぁ、わからんでもないけどね」

「にしても伊織ちゃんも聴いてくれたみたいだし、白亜ちゃんの布教力は凄いな……」

「別に、白亜から布教されたからってわけじゃないよ?」

「んんっ……? そうなの……?」


 ならばどういうことなのかと、春輝は首を捻った。


「ウチも……たぶんお姉も、さ」


 そこに答えがあるとばかりに、露華がジッと春輝の目を見つめてくる。


「春輝クンの好きなものが知りたかったから、だよ」


 囁くような声量で、けれどその言葉はハッキリと紡がれた。

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