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第60話 対抗と当惑と

 だいぶ酔いが回ってきている中、貫奈とのサシ飲みは続く。


「いやぁ、こういう楽しみ方が出来るのも大人ならではですよねぇ!」

「だなぁ……」

「先輩もお付き合いされるなら、大人の女性の方がいいですよね?」

「ん……? まぁ、そう……かなぁ……?」


 貫奈への答えも、だいぶ怪しい感じとなってきていた。


「だから」


 ゆえに。


「仮に……小桜さんが告白してきたとしても、先輩は断りますよね?」

「ははっ、まずそんな状況がありえねぇさ……」


 春輝は、今回も見逃していた。


「こないだ『愛してます』って言われたのだって、家族愛的な意味だったしな……」

「……へぇ」


 貫奈の目が、いつの間にか理性的な光を取り戻していることに。


「愛してます……ですか」


 貫奈が、そう呟く頃になって。


(……あれ?)


 ようやく、春輝の頭にも疑問がもたげてきた。


(俺……今、何を言った……?)


 サァッと血の気が引いてくのを自覚する。


「ま、間違えた!」


 思わず、伊織の専売特許が口から出てきた。


「今のはアレだ、ちょっとした言い間違いというか……!」

「わかっていますよ、先輩」


 慌てて言い訳を並べようとする春輝に、貫奈がニコリと微笑む。


「んぉ……? そ、そうか……?」


 妙に物分りの良い貫奈に対して、本来ならば訝しむべき場面だったろう。

 しかしここでも、酔いの回った頭では「わかってくれたのかな?」と納得してしまった。


「えぇ、わかりましたとも……最近の小桜さんの変化についても、よぉくわかりました」


 小さく紡がれた貫奈の言葉も、周囲の喧騒に掻き消されて春輝の耳には届かない。

 ちょうど、どこかから「あははははっ!」という甲高い女性の笑い声が聞こえてきたので尚更だ。


「なら……私は」

「んんっ……? ごめん桃井、なんて……?」


 とはいえ何か言っていることだけは伝わってきて、春輝は貫奈に少し顔を近づけた。


「……ところで先輩、今日の本題に入ってもいいですか?」

「えっ、今……?」


 謎のタイミングに思えて、春輝は疑問の声を口に出す。


「はい、今です」


 しかし、貫奈は躊躇する様子もなく頷いた。


「わ、わかった」


 春輝も、気持ち居住まいを正す。


 もっとも、かなり酔っ払っている状態では体幹がへにょっと曲がったままだったが。


「先輩」


 そんなことを気にした様子もなく、貫奈は春輝のことをジッと見つめてくる。


「……先輩」


 かと思えば、口を何度かパクパクと空振らせてから言い直した。


「……すぅ、はぁ」


 大きく一度、深呼吸。


「先輩」


 再度。

 先程以上に真っ直ぐに、貫奈の視線が春輝を射抜く。




「好きです」




 そして、その言葉は淀みない響きを伴って紡がれた。


「………………えっ?」


 つい先日伊織を相手に出たのと同じような声が、春輝の口から漏れ出る。


「なんて言うと、先輩はきっとLIKEの意味で認識するのでしょうけれど」


 付き合いの長さが、酔っていつも以上に鈍い春輝の思考を先回りした。


「異性として、好きです。小桜さんに対抗して言うならば……愛して、います」


 貫奈の顔に浮かぶのは笑顔で、少しだけ緊張で強張っている様が窺える。


「えっ、いや、だってお前、今までそんな素振り……」


 なかったじゃないか、と言いかけて。


(………………あれ?)


 ふと、気付く。


(よく飲みに誘ってくれるのは俺と一緒にいたいからで、伊織ちゃんとの件を勘繰るのも危機感から……? とか考えると、辻褄は合う………………のか……?)


 この思考が、正しいのか。

 あるいは、酔いがもたらした妄想なのか。


 今の春輝には、判断出来なかった。


「あ、えと……桃井……俺、は……」


 そして。


(俺は……桃井のこと、どう思ってる……んだ……?)


 それもまた、今の春輝には。

 今まで考えたこともなかった春輝には、わからない。


(桃井は頭いいし、飲み込みも早い。頼りになる後輩で、同僚だ。俺にとっちゃ、一番付き合いの長い……たぶん、友達でもあって。でも、異性としては……?)


 グルグルグルグル。

 春輝の思考は巡る。


(美人で、性格もいい。話してて面白いし、なんとなく落ち着いた気分にもなれる。漠然と、まぁ彼氏いるんだろうなぁくらいには考えてたけど……そういや浮いた話の一つも聞かない。もしそれが、俺を好いてくれてのことなんだったら……)


 胸が、妙にむず痒くザワめいた。


(嬉しい……と、思ってるのか……? 俺は……?)


 その感情に付けるべき名前も、今の春輝にはわからない。


 恐らく、それは。

 たとえ酔っていなかったとしても、わからなかったのではなかろうと思う。


「俺、は……」


 とにもかくにも何か返さねばならないと気が急くが、言葉が出てこない。


「ふふっ」


 貫奈が、微笑みを深めた。


「返事は、今でなくとも構いませんよ」


 そう言いながら、グラスを傾ける。


「今日はお互い、酔ってしまっていますしね」


 そんな貫奈を見て、ふと気付いたことがあった。


(んんっ……? そういやコイツ、いつの間にか酔いが覚めてる感じじゃないか……? ……さっきまでのは、酔ってるフリだった……?)


 何が本当なのか、わからなくなってくる。


(今のも、冗談……だったり、する……?)


 なーんちゃって!


 そんな言葉が貫奈から出てくるのを、待ってみたが。


 結局、その時が訪れることはなかった。

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