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第57話 猫耳と鳴声と

 既に、夜中と称して良い時刻。


「今日は随分と遅くなっちゃったな……」


 そんな風にボヤきながら、春輝はどこか頼りない街灯に照らされる帰路を歩いていた。


「にしても、まさか社内ネットワークが逝くとはな……今日日、ネットワークが繋がってないと仕事にならんことが実感出来た出来事だった……」


 半笑いで、愚痴なのか感想なのかよくわからない呟きを漏らす。


「ご飯、先に食べててくれって連絡したけど……たぶん待ってくれてるんだろうなぁ……」


 そう考えると、自然と足が早まった。


 程なく、自宅にたどり着き。


「ただいまー」


 挨拶の声と共に、ガチャンと玄関の扉を開ける。


「おかえりにゃさい!」

「にゃんにゃーん!」

「……にゃー」


 すると、猫耳少女たち三人に出迎えられた。


 ──カチャン


 春輝は、開けたばかりの扉をそっと閉じた。


「………………幻覚が見える程疲れてるのか?」


 呟きながら、自身の目頭を指で揉む。


「ほら露華、やっぱりこれは駄目だって……!」

「っかしいなー? 毛並みにまでこだわった自信作なのに」

「ロカ姉、そういうディテールの問題じゃないと思う」


 扉越しに、そんな会話が聞こえてきた。


「えー、っと……」


 恐る恐る、再び玄関の扉を開ける。


『あっ……』


 やはり、猫耳少女たちは実在していた。


「あ、あの、おかえりなさい、春輝さんっ……!」


 両手で頭の上の猫耳を隠しつつ、顔を赤くした伊織がぎこちない笑みを浮かべる。


「おかえりー、春輝クン」


 こちらは誰憚ることもないとばかりに堂々と猫耳を晒したまま、露華。


「……にゃー」


 白亜がどういう感情を伴って無表情でそう言っているのかは、ちょっとわかりかねた。


「……それは?」


 流石に尋ねないわけにもいかず、とりあえず白亜の頭の上を指してみる。


「猫耳」


 白亜の回答は実に端的なものであり、春輝の疑問が解消されたとはちょっと言い難かった。


「その……今日は大変だったようなので……春輝さん、きっといつも以上に疲れて帰ってくるだろうと思いまして……その疲れをどうすれば癒せるかというのを、話し合った結果……」


 しかしおずおずと話す伊織の説明を聞いているうちに、ようやく話が見え始める。


「やっぱ癒やしといったら動物っしょ」


 そう言いながら、ススッと露華が身体を寄せてきた。


「いっぱい可愛がってにゃん?」


 丸めた手を顔の横に持ってきて、小首を傾げる露華。


「よしよし」


 なんとなく、猫耳の載ったその頭を撫でてみる。

 普段であれば、撫でるにして多少の躊躇や葛藤はあったことだろう。

 にも拘らずノータイムで撫でてしまった辺り、実際この時の春輝は疲れによって判断能力が鈍っていたと言えよう。


「お、おっとぅ? 意外と春輝クンの琴線に触れちゃった系かにゃー?」


 ニンマリと笑う露華だが、その頬は少し赤く染まっていた。


「うん、まぁ……せっかくだから……」


 春輝も今更ながらに恥ずかしくなってきて、よくわからない言い訳が口から出てくる。


「……にゃー」


 そんな中、先程の露華と同じポーズで白亜が春輝の胸元へと顔を近づけてきた。


「……よしよし」


 今度は若干の逡巡を挟んだ後、白亜の頭も撫でてみる。


「にゃー」


 今回の鳴き声は、先程より満足げな響きを帯びているような気がした。


「え、えと……」


 そんな妹たちを交互に見て、伊織は若干オロオロとしている。


「……にゃ、にゃー」


 かと思えば、なぜか彼女も続いてきた。


「………………よしよし」


 先程よりもだいぶ逡巡の時間が長くなったが、伊織の頭も撫でてみる。


「あ、あぅ……」


 途端に、伊織の顔は真っ赤に染まった。


 しかし、頭を引っ込めるような気配はなく。

 やめ時を見失って春輝も頭を撫で続ける。


(……これは、何の時間なんだ?)


 とりあえず、半笑いが漏れた。

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