第32話 交遊と平穏と
春輝の日常は、過ぎていく。
激務に追われていたかつてより、ゆっくりと。
同時に、騒がしく。
◆ ◆ ◆
「よーし、俺の勝ちぃ……! ふっ……このゲームは、結構やり込んでたからな」
「むぅ……ハル兄、大人げない……」
「おや? 白亜ちゃんはもう大人だろ? 大人相手に手加減なんてする必要ないよな?」
「ムフン……確かに、わたしはもう大人だから手加減は必要ない」
「チョロいなこの子……」
「失礼、チョロくない」
「おっと、聞こえてたか」
「普通の声量なんだから、聞こえるに決まってる」
「まぁそりゃそうだ、難聴系主人公でもあるまいし」
「それに万一チョロいとしても、それは……その……ハル兄が相手だから……だし……」
「ははっ、それだけ信頼してくれてるってことかな? ありがとう」
「………………」
「いたたっ、なぜ頬を膨らませて無言でポカポカ叩いてくる!?」
時に、白亜と格闘ゲームで対戦し。
◆ ◆ ◆
「やん、春輝クン……ちょっとは攻めるの緩めてよぉ……(パチッ)」
「………………(パチッ)」
「やだ、そんな深いところにまで……(パチッ)」
「………………(パチッ)」
「もう、ウチの弱いとこばっかり……(パチッ)」
「………………(パチッ)」
「……ねぇ、そろそろ何かリアクションしてくんない?(パチッ)」
「王手(パチッ)」
「いや、そういうことじゃなくてさぁ……(パチッ)」
「ネタが使い古されている。減点一〇〇〇(パチッ)」
「まさかのダメ出し……ていうかそれ、何点満点なの?(パチッ)」
「一〇〇〇点満点だな(パチッ)」
「ウチもう全部の点数失っちゃってるじゃん……王手(パチッ)。ちな、これで詰みね」
「ははっ、そんなわけ………………嘘だろ、マジで詰んでるじゃねぇか……」
「ふっ……こう見えて、将棋は得意種目よ。ウチに挑むには早すぎたねぇ? は・る・き・クン?」
「えっ、何これ屈辱感半端ないんだけど……」
時に、露華と将棋を指し。
◆ ◆ ◆
「おっ、ちょっと芽が出てきたんじゃないか?」
「ですねー。ほーら皆、お水だよー。元気に大きくなーれ」
「しかし、家庭菜園か……伊織ちゃんは、いつも俺に無い発想をもたらしてくれるな」
「ふふっ……そんな、大袈裟ですよ。せっかくのお庭を遊ばせておくのは勿体ない、って思っただけです」
「荒れ放題だったもんな……昔は、お袋がちゃんと手入れしてたんだけど」
「……春輝さんのご両親って、どんな方なんですか?」
「ん? 別に、普通のサラリーマンと専業主婦だよ」
「ふふっ。春輝さんに似て、優しい人たちなんでしょうね」
「別に俺も優しくはないけど……興味があるんなら、そのうち会いに行ってみるか?」
「ふぇっ!? ご挨拶ってことですか!? そ、それはまだ早すぎといいますか……!」
「まぁ確かに、すぐってわけにはいかないけどな。俺もそんな長い休み取れないし」
「そういう意味ではないのですが……いえ、春輝さんに他意がないことはわかりました」
「ん……? なんか、ちょっと残念そう……? そんなに会いたかったかな……?」
「そ、そういうわけではなく……あっほら春輝さん、見てください! この子なんて、もう双葉です!」
「おっ、ホントだな」
「ふぅ、誤魔化せた………………ひゃっ、虫!? 春輝さん、と、取ってください!?」
「ちょ、わかったから抱きつかないで……! 動けないから……! ていうか、色々とマズ……って、ぐえっ!? 意外と力強……!?」
時に、伊織と野菜の世話をし。
◆ ◆ ◆
そんな風に。
春輝の日常は、過ぎていく。
穏やかに、過ぎていく。
穏やかに……そう。
少なくとも、表面上は。