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第23話 騒乱と追及と

 伊織お手製のお弁当を持参することになった以外は、特に変わったこともなく。

 いつも通りに出社し、午前の業務をこなした春輝。


 昼休みになったので、お弁当を持ってオフィスの休憩コーナーに移動する。


「人見が弁当だと……!?」

「最近妙に早く帰る日があると思ったら、まさか……女か……?」

「なんかワイシャツも前よりパリッとするようになったしな……」

「そんなことより、どっちが作ったやつだ? 小桜さんか? 桃井さんか?」


 それだけで、オフィス内が割とザワついた。


(なんでその二人の名前が挙がるんだ……? まぁ、実際当たってるんだけど……)


 内心でそんなことを思いつつも、表面上は無表情を取り繕って弁当箱を開ける。


「……先輩、お弁当ですか」


 そこに、固い表情の貫奈が話しかけてきた。


「行ったぁ……!」

「てことは、桃井じゃないのか……」

「頑張れ、俺は桃井派だぞ……!」


 周囲のざわつきが加速する。


「どなたに作ってもらったんですか?」


 が、春輝にとっての問題は外野のザワつきよりも貫奈の質問である。


「自分で作ったんだよ」

「へぇ……先輩、そんなにお料理出来ましたっけ?」


 しれっと答えてみるも、貫奈に信じた様子は微塵もない。


「これで一人暮らしも長いんだ、多少は出来るさ」


 とはいえ、春輝はこの設定で押し通すつもりであった。


「多少と言うには、随分と綺麗ですね?  栄養のバランスも考えられているようで」

「研鑽の結果、ってやつだな」

「ほぅ、自他共に認める面倒くさがり屋である先輩が?」


 貫奈の追求が続く中……ふと、考える。


(もしオタク趣味をオープンにしてたら、アニメに影響されて……とか、こういう時に言い訳しやすかったのかな。まぁ、今どんなアニメやってるのか把握出来てないけど……)


 以前の春輝であれば、たとえ仮定の話であっても自分のオタク趣味をバラすことなど想定すらしなかっただろう。

 白亜を筆頭に、小桜姉妹の反応が予想外に好意的だったことが影響しているのかもしれない。


「健康は食から。食生活が無茶苦茶だと、そのうち体調も崩しちゃうからな」


 横道に逸れかけた思考を現実に戻して、今朝の伊織の言葉をそのまま流用する。


 見え見えの嘘の連続ではあった。

 付き合いの長い貫奈ならば、それも十分に伝わっていることだろう。

 だが、現段階では嘘と断じることも出来まいと踏んでのことであった。


「……そうですか」


 果たして、貫奈は不本意そうながらも頷く。


「そ、その、お弁当が必要なら、私が作って差し上げても構いませんが?」


 かと思えば、そんなことを言ってきた。


「攻めたぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」

「割とヘタレな桃井さんにしては思い切ったな……!」

「さて、どう出る人見……!」


 外野が何やらうるさい。


「いや、いいよ。自分で出来るし」


 毎食伊織の作ったものを食べると、今朝約束したばかりではある。

 だが結果的に栄養バランスが整うのなら、貫奈が作ったものでも彼女は納得してくれるのでは?


 ……と、ちょっと思ったが。

 なんとなくそれは良くないような気がして、結局断ることにした。

 春輝にしては賢明な判断であったと言えよう。


「断ったぁぁぁぁぁぁ……!」

「人見のフラグをへし折る時の豪腕っぷりよな……」

「桃井さん、若干涙目になってない……?」


 やはり外野が少しうるさい。


「そ、そうですか。すみません、差し出がましいことを言いました」

「や、気遣いはありがとな」


 春輝が礼を言うと、貫奈は少しだけはにかんだ。


 それから、軽く一礼して踵を返す。


「……あら?」


 かと思えば、少し歩いたところで足を止めた。


 その視線の先には、春輝から離れたところに座ってお弁当箱を広げている伊織の姿が。


「小桜さん……そのお弁当、先輩のものとおかずが同じね?」

「へっ!?」


 伊織と同時に、春輝も「げっ」と声を出しそうになる。


「へ、へへへへ、へー、そうなんですかー。偶じぇ、偶然ってあるんですねー」


 吃っていたし、噛んでいたし、棒読みだったし視線は泳ぎまくっていた。


(頼むぞ伊織ちゃん、上手く誤魔化してくれ……!)


 伊織の態度は怪しさ百点満点と言えたが、ここで下手にフォローに入ると余計怪しい感じになること請け合いなので春輝としては祈るしかない。


「卵焼きの巻き方も、酷似しているように見えるし」

「あー、なんですかね! アレですかね! 世の中には自分の顔に似た人が三人はいると言いますし、卵焼きの焼き方が酷似している人もきっと三人くらいはいるんでしょう!」

「そんな話、聞いたことないけれど……」

「でも、そうとしか考えられませんよね! まさか私と春、人見さんが一緒に住んでいて、今朝からお弁当を作ることにしたけど慌ててたこともあってカモフラージュのためにおかずの内容を変えるという発想に至れなかった、なんてことあるわけないですし!」


(おぉい! 自分で全部答え言っちゃったよ!?)


 グルグルと目を回しながら事実を暴露する伊織に、春輝は頭を抱えたくなった。


「……まぁ確かに、そんな可能性を考えるよりは偶然と考えた方が納得感はあるか」


 しかし、信憑性が無いと判断してか貫奈は納得してくれた様子だ。


「……ふぅ」


 春輝は、周囲に気づかれないよう密かに安堵の息を吐いた。


(なんか最近、心臓に悪いことが多いな……)


 これまた密かに、苦笑を浮かべる春輝であった。

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