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第22話 確認と決定と

『いただきます』


 そんな食前の挨拶にもすっかり慣れ、春輝も小桜姉妹と一緒に唱和。


「春輝さん、ご飯大盛りにしてありますので」

「あぁ、ありがとう」


 笑顔の伊織が差し出してくる茶碗を受け取る。


「おっ、今日はしらすおろしか。白亜ちゃん、結構こういう渋めのやつ好きだったよな? よし、半分あげよう。カルシウムたっぷりだから、身長も伸びるぞ~」

「身長については余計なお世話……でもありがとう、ハル兄」


 前半はジト目と共に、後半は緩んだ笑みで、白亜が春輝の皿からしらすと大根をあえたものを半分取っていった。

 出会った頃に比べれば、随分と砕けた表情だ。


「え~、白亜ばっかりずる~い。ウチには無いのぉ?」


 唇を尖らせ、「プリーズプリーズ」と春輝に手を差し出す露華。

 数日も経てば風呂場でやらかした時の気まずさも流石に霧散し、彼女の態度も以前と変わらぬものに戻っていた。


「別に何かしらあげてもいいけど……露華ちゃん、ダイエット中なんじゃないのか?」

「……春輝クン、もしかして女の子の体重把握する能力とか持ってたりするの? それは流石に引くわー」

「いや、普通にこないだから食べる量減らしてるのはわかるだろ」

「なるほどね。まぁでも、アレよ? 決して、太ったとかじゃないからね? これは、ほら、そう、お姉との差別化をより明確にするためだから。ウチ、スレンダー担当じゃん? いやー、キャラ維持するのも大変だわー。でもキャラのためだからなー」


 春輝としては何気なく言っただけなのだが、露華から伝わる動揺の気配が半端ない。


「露華? それってもしかして、私がふくよか担当だって言ってるのかな?」


 ゴゴゴゴ……と、笑顔の伊織から威圧感が放たれた。


「いや、まぁ、ははっ」

「せめて否定してくれる!?」


 愛想笑いを浮かべる露華に、伊織が吠える。


(毎日の飯がこんな賑やかになるだなんて、ついこないだまで思ってもみなかったな)


 ワイワイと騒がしい光景に、ふと春輝はそんなことを思った。


「……ハル兄、どうかした? なんか遠い目してる」

「あぁ、いや。毎日の飯がこんな賑やかになるだなんて、ついこないだまで思ってもみなかったなぁ……とか、考えててさ」


 特に隠すことでもなかったので、思っていたことをそのまま口にする。


「そういえば春輝さん、以前は朝食ってどうされてたんですか?」


 通常モードに戻った伊織が、ふとした調子で視線を向けてきた。


「ん? 大体市販の携帯食だったな。ブロックタイプのやつとか、ゼリーのやつとか。ネットで箱買いして、会社でメールチェックしながら食べてた。手軽でいいんだ」

「そればっかだと、飽きない……?」


 露華が眉根を寄せる。


「結構色んな種類の味があるからさ、ちゃんとバランス良く食べてたよ」

「ハル兄、そういうのはバランス良くとは言わない……」


 春輝としては割と自信を持っての回答だったのだが、白亜は引き気味の様子であった。


「……春輝さん」


 なぜか表情を改める伊織。声も若干低くなっており、どことなく『圧』を感じる。


「今、昼ご飯はどうされてるんでしたっけ……? 思い返してみれば、昼休みもずっと仕事をされてるような気がしてきたんですけど……」

「昼も、大体携帯食だな。仕事しながら食べられるし」

「今日は晩ご飯はいらないって連絡いただく日もありますが、その時の晩ご飯は?」

「じ、時間があればカップ麺、なければここも携帯食、マジでヤバい時は抜くことも多いかな……忙しいと、腹が減るって感覚も薄れるし……そこまでいくと、なんかもう食べるの自体めんどくなってくるし……」

「そう……ですか……」


 若干ビクビクしつつ答えると、伊織は静かに言って俯いた。

 表情が見えず、少し怖い。


「……お弁当箱! お弁当箱はありますか!?」


 かと思えば、勢いよく顔を上げてそんなことを大声で尋ねてきた。


「学生時代に使ってたやつが、たぶんまだ戸棚のどっかにあると思うけど……」

「今すぐ探し出しましょう! 今日はもう冷蔵庫に残ってるものを適当にぶっ込むしかないですけど、明日からはちゃんと作りますので!」

「いや、そこまでしてもらうのは悪いし……」

「いえ、実は私もそろそろお弁当を持参しようと思っていたのでちょうどいいです! 一人分作るのも二人分作るのも手間は大して変わりませんので!」


 ズイッと身を乗り出す伊織の中で、弁当を作ることはもう決定事項のようだ。


「一緒に働いていながら春輝さんの食生活がそんなことになっていると気付かなかったとは、この小桜伊織一生の不覚です……!」

「そんな、大袈裟な……」

「大袈裟じゃありません!」


 バン! と伊織がテーブルを叩いたので、春輝はちょっとビクッとなった。


「健康は食から! 食生活が無茶苦茶だと、そのうち体調も崩しちゃいます!」


 普段遠慮がちな彼女が、春輝に対してここまで強い口調で言うのは非常に珍しい。


「今後春輝さんには、基本的に三食私が作ったものを食べていただきます! 夜も極力、家で食べてください! 遅くなっても構いませんので! いいですね!?」

「しょ、承知……」


 勢いに押され、春輝は頷くことしか出来なかった。


「春輝クンさー、食べるものっていうのは重要だよ?」

「イオ姉の言う通りにすべき」


 露華と白亜も、真剣な表情でそう言ってくる。


「……わかったよ。じゃあ、伊織ちゃん。手間をかけて悪いけど、弁当も頼む」

「はいっ! お任せくださいっ!」


 外堀も埋まったところで了承を返すと、伊織はようやく笑顔となって頷いた。

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