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SS100 夏に提示する代替案

 暑い夏の昼下がり、人見家の庭にて。


「お姉、それーっ」

「きゃっ……もう露華、大人しくしてなさーいっ」

「ふぅ……極楽極楽……」


 三姉妹のそんな声が、華やぎを与えていた。

 露華が伊織に水を掛ける中、白亜は知らん顔で水に全身を浸している。


 春輝が言いかけて途中でやめ、結局言うことになったのは……『ビニールプール』の存在であった。

 案の定というか、それを聞いた露華が「いいじゃん!」とノリノリで、実際に引っ張り出すことになった形である。


 大きめのビニールプールなので、三人で入っていても割と余裕がある。


「それにしても春輝さん、よくビニールプールなんてありましたね……? しかもこれ、子供用のじゃないですよね……?」


 ふと、伊織がそんな疑問を投げてくる。


「去年の夏、一番仕事がヤバかった時期に『プールにでも行きてーなー』って思ってさ。でも忙しくて行く暇なかったから、何をトチ狂ったか『ならプールの方が来い!』とか言って酔った勢いで注文しちゃったんだよね……実際に届いてみると、『……いや、大の大人が庭で一人これに入ってたら下手こくと事案だな』って思って開封もしてなかったんだけど」

「あはは……」


 春輝が真相を語ると、伊織はちょっと気まずそうに苦笑した。


「てか、春輝クンもおいでよーっ」


 縁側で団扇片手に座っている春輝に、露華が来い来いと手招きする。


「俺はいいってば……」


 いくら大きめとはいえ、所詮は家庭用のビニールプール。

 今の三姉妹は全員水着に着替えており、春輝も入った場合の密着度を考慮するとそれを選択するわけにはいかなかった。


 というか、その絵面は完全にアウトである。


「ハル兄……涼しい、よ?」


 と、白亜がパシャッと手で水を跳ねさせる。


「あの、というか、私たちだけ使わせていただくのも申し訳ないんですけど……元々は春輝さんがご自分のために買ったものなのに……」

「ははっ、そんなの気にしないで。むしろ、無駄な買い物にならなくてホッとしてるくらいだから」


 へにゃっと眉を八の字に曲げる伊織に、春輝は本心からの言葉を返した。


(ていうか……この絵面も、これはこれで事案じゃないか?)


 JCJKが水浴びする様を見守る二十七歳独身男性……だいぶアウトに近い気がする春輝である。


「そんじゃ……おりゃーっ」

「おっ?」


 露華が手で水鉄砲を作り、春輝に向けて噴射。

 ハーフパンツから伸びる脛に直撃する。


「ははっ、ありがとう。ちょっと涼しくなったよ」


 実際、濡れた部分がひんやりして心地よかった。


「なら、わたしも……ぴゅーっ」


 露華とは違う形の水鉄砲を形作った白亜からも、水が噴射される。

 サンダルを履く足に辺り、冷たくて気持ち良い。


「そ、それじゃ私も……そ、それーっ」


 次いで伊織が、両手で水を汲んで春輝の方へと放った。

 足の広範囲に水が掛かって、これまた涼しい。


「………………」


 なんて思っていると、伊織がちょっと赤くなってモジモジし始める。


「……? 伊織ちゃん、もしかして熱中症になりかけてない? やっぱプールに入ってても、炎天下は……」

「あっいえすみません! そういうのでは全然なくて!」


 心配する春輝に、伊織は慌てた様子でパタパタと手を振った。


「ただ、ちょっとだけその……さっきのやりとりが、あの……」


 そう言いながら、恥ずかしそうに俯いて。


「恋人にするやつみたいだったかな、とか……思っちゃいまして……」

「言うてそんなか?」

「イオ姉の自意識過剰。ムッツリ。やはり存在が十八禁」

「そ、そこまで言われる程かな……!?」


 伊織が心境を告白すると、速攻で妹たちからツッコミが入った。


「ははっ……漫画とかじゃ、海でバカップルがよくやってるもんね……」


 春輝は、一応そんなフォロー(?)を入れておく。

 なお、現実においてそんな光景が実在するのか春輝は寡聞にして存じ上げない。


「ほらほら、春輝クンが暑くないように? ちゃーんと水かけてあげないと……ねっ?」

「ぴゅぴゅーっ」

「え、えーいっ」


 と、引き続き三人から水を掛けられる春輝だが。


(この絵面は……! この絵面は、本当に大丈夫なやつなのか……!?)


 水着姿のJCJKから水を掛けられる二十七歳独身男性……結構アウトな気がする春輝である。


 なんて、思っていると。


「せんぱーい? こっちにいらっしゃるんです……」


 ひょい、と玄関の方から貫奈が顔を覗かせた。


「……か?」


 そして、固まった。


 そのまま、硬直することしばし。

 貫奈のメガネが、キランと光った……ような、気がする。


「……先輩、このプレイは流石に私としても通報を検討せざるを得ませんが」

「……やっぱり?」


 ちょっと冷たい目を向けてくる貫奈に、言い訳できない春輝であった。

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