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第15話 購買と困惑と

「そんな……! 春輝さん、やめてください……!」

「いいや、やらせてくれ! じゃなきゃ収まらない!」


 なんてやり取りをする伊織と春輝、そして露華と白亜は。


「女の子なら、ヘアアイロンとかも必要なんだろ? せっかくだし、ドライヤーもいいやつ買うか。そうだ、四人分だと洗い物も大変だろ? 食器洗い機も買っちゃおう」


 四人揃って、ショッピングモールを訪れていた。


 小桜姉妹が私物らしい私物を持っていないことにようやく気付いた春輝が、急遽決めた形である。

 制服も洗濯して着回していると知って、服屋へ……と思ったのだが、せっかくなのでこの機会に必要なものを全部買い揃えてしまおうという魂胆であった。

 現在は電気屋にて、春輝が製品番号を示す札を気軽な表情でヒョイヒョイと手に取っている。


「確か、もう春休みも半分くらい過ぎてたよな? てことは、文房具とかも買わないとだよな……あっ、そういや歯ブラシとかはどうしてるんだ?」

「その程度の小物は持っていたので……って、そうではなくて!」


 軽快な調子で歩く春輝の前に、伊織が立ちはだかった。


「私たちは、住まわてもらってるだけで十分ですので……!」

「そうは言っても、今まで無くて困ったものとかあったろ?」

「そ、それは、まぁ、その……」


 嘘のつけない性格である伊織が、そっと目を逸らす。


「ごめんな、今まで気付かなくて」

「いえ、春輝さんに謝ってもらうようなことでは! それに今でも十分良くしていただいてますし、これ以上は……!」

「まーまー、いいじゃんお姉。買ってくれてるって言ってるんだしさ」


 春輝と伊織の会話に割り込んだ露華が、小さく肩をすくめた。


「このお礼は、カラダで……ね? 春輝クン?」

「な、なるほど、身体で……!」


 パチンと春輝へとウインクを送る露華に、伊織は顔を赤くしつつも大きく頷く。


「……家事で役に立つって意味だよな? な、露華ちゃん?」

「さぁて、それは春輝クン次第かなぁ?」


 釘を差しておくと、露華は意味深に微笑んだ。


「というわけでお姉、遠慮なくおねだりしちゃおう! ほら、こないだ包丁が切れにくいとか言ってたじゃん? あとなんだっけ? 大きめの鍋が欲しいとか?」


 それから、ポンと伊織の肩に手を置く。


「ちょ、ちょっと露華……!」

「いやいや、こういうのは遠慮した方が失礼なんだって! ねっ、春輝クン?」

「まぁ、そうだな」


 若干言わされた感もあるが、実際春輝としても遠慮は必要ないと思っていた。


「それじゃ、その……確かに新しい包丁やお鍋は欲しいので、次は金物系のお店に連れて行っていただけると嬉しいです……あとスポンジが足りないのと、ハンガーの劣化が激しいので、一〇〇均辺りで色々と買い揃えたいですね……それからそれから……」


 やはり色々と不足はあったらしく、伊織は視線を上に向けて指折り候補を挙げていく。


「わかった、順番に回っていこう。途中で他に必要なものを思い出したら、遠慮なく言ってくれ。服選びは時間もかかるだろうし、最後にしようか」

「はい、それで構いません。お気遣いありがとうございます」


 という感じで方針が決まったため、一同再び歩き始め……すぐに、白亜が立ち止まったままであることに気付いて春輝は再び足を止めた。

「白亜ちゃん?」

「……あ、ごめんなさい。今行く」


 呼びかけると少し慌てた様子で追いかけてきたが、その目が直前まで向けられていたのは。


「……Webカメラ? 興味あるの?」

「ん……」


 春輝の問いに、白亜はどこか恥ずかしそうに頷いた。


「配信者、ちょっと興味あったから……コスプレで配信とか、楽しそうかなって……」

「へぇ、そうなんだ?」


 少し前までであれば驚いたことだろうが、オタク趣味への造詣が深いという白亜の一面を知った今ではそこまで意外さも感じない。


「そんじゃ、これも買おっか。あとはヘッドセットかな? パソコンは、俺のを使ってもらえばいいだろうし……確か動画編集系のソフトも入ってただろ」


 だから、春輝は気軽な調子でWebカメラとヘッドセットを手に取った。


「ハ、ハル兄、流石にそれは……!」

「いいっていいって、そんな高いもんでもないし」


 あわあわと慌てた様子を見せる白亜の頭を、空いている方の手で撫でる。


「春輝クンって……」

「ふ、父性……父性的なものだから……」


 ヒソヒソと囁き合う二人の声は、今度も聞こえなかったことにした。



   ◆   ◆   ◆



 一通り生活必需品の類を買い終え、女性向けアパレル店の入り口に来た一同。


「そんじゃ、カード渡すから好きなの買ってきな」


 と、春輝は自身のクレジットカードを差し出す。


 庶民向けの店でそこまで高価な商品がないことを知っているというのもあったが、無茶な使い方をするような子たちではないと思える程度の信頼はこの数日で築けていた。


「あ、はい……」


 ここまで度々遠慮を見せていた伊織も、いい加減諦めたのか素直にそれを受け取る。


 ただ。


(……なんか、ちょっと残念そう……か?)


 その表情の意味が、春輝にはわからなかった。


「いやいや、春輝クンさぁ。ここでこそ出番ってやつっしょ」


 どこかイタズラっぽく笑う露華が、肘で脇を突付いてくる。


「なんでだよ……服なんてそんな重いもんでもないし、男手はいらなくないか?」

「もう、春輝クンは女心ってやつがわかってないよねぇ。服を選ぶなら、やっぱ男の人の意見も欲しいと思っちゃうのが女子なわけよ」

「俺なんかの意見聞いたって仕方ないだろ?」

「……はぁ」


 首を傾げる春輝に、露華はこれみよがしに溜め息を吐いた。


 その傍らでは、白亜が「やれやれ」と呟きながら肩をすくめている。


 一方の伊織は、何やらチラチラと春輝に視線を送っていた。


「なんだよ、皆して……」

「いいから、行こっ! 美人姉妹のファッションショー、特等席で見れるんだよ!」


 露華に引っ張られ、結局春輝も入店することとなる。


(女の子に引っ張られて、女性向けの服屋に入店……か。まさか、このイベントも現実に発生するものだったとはな……二次元って、実は意外と現実に近かったりする……?)


 ぼんやりと、そんなことを考えながら。

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