表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/215

SS1 新妻伊織(?)とお買い物

 ある日の、会社からの帰り道。


「春輝さん、今日のリリース無事に終わって良かったですね」

「あぁ、珍しく何のトラブルもなかったしね」


 伊織と共に定時で上がった春輝の顔は、明るいものであった。


「うっし……今日はちょっと豪勢に、すき焼きにでもしようか」


 そんな言葉が出てきたのも、晴れやかな気分ゆえである。


「はいっ、そうしましょう!」


 伊織が笑顔で頷いたのも、春輝の心持ちを汲み取ってくれているためだろう。


「せっかくだし、肉だけはスーパーじゃなくて肉屋で買っていこうかな」

「でしたら、この近くの商店街に入っているお肉屋さんが良いと思います」

「流石、よく知ってるね」

「ふふっ、たまたまですよ」


 そんな会話を交わしながら、二人軽やかな足取りで商店街へと向かう。


「おっ、あそこかな?」

「ですね」


 程なく、大きく牛のイラストが描かれた看板が見えてきた。


「へい、らっしゃい!」


 肉が陳列されたショーケース越しに、店主らしき男性に迎えられる。


「今日は、何をお求めで?」

「あ、はい。すき焼き用のお肉をいただきたいのですが」


 にこやかに笑う店主に、伊織も笑顔で答えた。


「それなら、この辺りですね。どれにしやすか?」

「えーと……」


 ショーケースの一部を指す店主の言葉を受け、伊織がチラリと春輝の方を伺ってくる。


「一番いいやつを四人分ください。食べざかりの子が多いんで、気持ち多めで」


 特に迷うこともなく、春輝は店主にそう伝えた。


「はい、承知! 包みますんで、少々お待ち下さい!」


 店主はショーケースから肉を取り出し、春輝たちに背を向ける。


「……いいんですか?」


 そのタイミングで、伊織が小声で尋ねてきた。


「いいんだよ。パーッとやる時は、金のことなんて気にせず全力でいく。それが社会人ってやつさ」

「な、なるほど、そうなんですね……!」


 実際には春輝の経済感覚がお亡くなり気味なだけなのだが、伊織は感じ入った様子で頷いている。


「はい、お待ちぃ!」


 と、そこで木目調の包装紙を手にした店主が振り返ってきた。


「へへっ……旦那さん、可愛い奥さんですねぇ! ちょいと分量、おまけしときやしたよ!」


 伊織を横目で見ながら、ニッと笑う店主。


 今日は少し冷えるために伊織は薄手のコートを着込んでおり、制服は見えていない。

 大人びた雰囲気も手伝って、なるほど童顔の幼妻、と見えなくもないだろう。


 とはいえ。


(俺じゃどう見ても釣り合ってないだろ、色んな意味で……)


 春輝の口元が、苦笑を形作る。


「いや……」


 夫婦じゃない、と否定しようとした春輝だったが。


「はいっ、ありがとうございます!」


 それを遮って、伊織が満面の笑みで包装紙を受け取ってしまった。


「それじゃ、お会計はこれで」

「へいっ! ちょうどお預かり致します!」


 そして、さっさと会計まで済ませてしまう。


「ありがとうございましたぁ!」

「こちらこそ、ありがとうございましたっ」


 店主にペコリと頭を下げて、歩き出す伊織。


「……今の、否定しといた方が良かったんじゃないか?」


 それに続きながら、春輝は伊織に疑問を投げた。


「いいじゃないですか、オマケしてくれるって言うんですから」


 伊織は、引き続きニコニコ顔である。


「まぁ、確かに得はしたけどさ……嫌だろ? 俺と夫婦だって間違えられるなんて」


 しかし、春輝の言葉に目をパチクリと瞬かせ。


「ふふっ、嫌なわけないじゃないですか」


 それから、今度は少々はにかみながらそう口にする。


(ど、どういう意味だ……!?)


 その言葉と表情に、春輝の鼓動は大いに速まった。


「そ、そう……? ならいいんだけど……」


 それを悟られないよう、極力平静を装って応える。


(落ち着け、俺……! 伊織ちゃんのことだ、きっとまた言い回しが妙な感じになっちまっただけに決まってるだろ……!)


 小さく深呼吸。


(たぶん、伊織ちゃんが言いたかったのは……)


 横目で伊織のことを窺う。


「~♪」


 鼻歌混じりのご機嫌そうな笑顔を見ながら、春輝が出した結論は。


(オマケしてもらったんだから嫌なわけがない、ってことだな!)


 酷く安直な発想であった。

 もし心の声が漏れ出ていたとしたら、流石の伊織といえどツッコミの一つも入ったことであろう。


「……? 春輝さん、私の顔に何か付いていますか?」


 春輝の視線に気付いたのか、伊織が小さく首を捻った。


「いや……伊織ちゃん、可愛いよなって思ってさ」

「ふぇっ!?」


 オマケで喜ぶなんて、という言葉が省略されたことによってだいぶ異なった意味合いとなり、伊織が露骨に動揺を見せる。


「あ、ありがとうございましゅ……」


 プシュウと湯気が出そうな程に赤く染まった顔を俯け、消え入るような声で言う伊織。


(っと、子供っぽいって言ったように思われちゃったかな? フォローすべきか……)


 一方、伊織の反応を見て春輝はそんな風に悩み始めていた。


 結局、認識がすれ違ったままの二人であるが……伊織は幸せそうなので、これはこれで良いのかもしれない。

今回は、書籍版1巻のゲーマーズ様での店舗特典SS用として書いたものです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍版1巻2巻、発売中!
JK3姉妹
※画像クリックで書籍紹介ページに飛びます。


JK3姉妹2
※画像クリックで書籍紹介ページに飛びます。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ