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第100話 家族と、続く日常と

「たっだーまー」

「ただいまー」


 軽やかに挨拶を口にする露華に続き、春輝も玄関をくぐる。


 するとすぐに、パタパタパタッと慌ただしい足音が家の中から聞こえてきた。


「露華っ! 春輝さんっ!」


 程なく、伊織が玄関先に姿を現す。


 その表情には、心配げな様子がありありと見て取れた。


「良かった、ご無事で……」


 春輝と露華の顔を交互に見てから、安堵の息を吐く。

 定期的に電話で状況は連絡していたのだが、露華のことを優先するために詳しい事情はほとんど説明していなかったのだ。


「だから、ハル兄がいるんだし大丈夫だってわたしは言ってたのに」


 次いで、白亜がやってきた。

 こちらは言葉通り、フラットな表情だ。


「やー、なんかウチのせいでごめんねー」

「ごめんな、心配かけちゃって」


 露華が軽い調子で、春輝が頭を下げながら謝罪する。


「あっ、いえ、ちゃんと連絡はいただいていましたし……」


 慌てた様子で首を横に振る伊織。


「……露華」


 それから、露華の顔をまじまじと見つめた。


「良かった、悩みは解決しそうなんだね」


 そこでようやく、伊織の顔に笑みが浮かぶ。


「……お姉、気付いていたんだ」


 対する露華は、顔に驚きを表した。


「気付くよ……だって、お姉ちゃんだもん」


 微笑みを深めた後、伊織の眉がハの字に寄せられる


「だけど……ごめんね。何に悩んでるかまでは、わからなかったから……結局私は、何も出来なかったみたいだね」

「や、ウチの方が言ってなかっただけだし」


 若干慌て気味に、露華はパタパタと手を振る。


「まー結局、ウチが何に悩んでのかっつーと……」

「いいよ」


 頭を掻きながら話し始めようとする露華の唇に、伊織がそっと指を当てた。


「言いたくないから、言わなかったんでしょ?」

「ん……まぁ……」


 伊織の指摘に、露華は気まずげに言い淀む。

 心配をかけたくなかったというのが一番大きな理由ではあったのだろうが、確かに『クラスで孤立している』という状況そのものが人には言いづらいことではあるかもしれない。


「イオ姉の言う通り。解決の目処が立ってるなら、言いづらいことを言う必要はない」


 と、白亜がしたり顔で頷いた。


「そして……ロカ姉の悩みが問題なさそうなら他に、最優先で追及すべき議題があるはず」


 次いで、その目つきが妙に鋭くなる。


「あぁ……うん、そうだね……」


 ゆらり。

 伊織の背後に、オーラのようなものが見えた……気がした。


『……?』


 春輝と露華は、顔を見合わせて疑問符を浮かべる。


「何か、あったのか……?」


 表情を引き締め、尋ねる春輝。


「何か、ですか……?」

「それは、こっちの台詞」


 伊織は妙な『圧』を放った笑顔で、白亜はジト目で、それぞれ春輝を見上げてきた。


「二人でお泊り……その間に、何かありましたか?」

「情報の開示を要求する」


 二人の詰問に、春輝の顔はギクリと強張る。


「いや、別に何も……」


 それをどうにか愛想笑いに変えて、言い訳を試みようとするも。


「あっはー、それ聞いちゃう? もう、仕方ないな~」


 傍らの露華は、なぜかノリノリの口調であった。


「あのねぇ、一緒の布団で繋がり合ってぇ……」

「おいこら、いきなり捏造するな! 布団は別だったろ!?」


 慌てて否定する。


「へぇ……布団()、別だったんですか……」

「繋がり合った、っていうところも否定してない」


 しかし、むしろ墓穴を掘る結果になってしまったような気がした。


「結婚に関する話なんかもしちゃったしねー」

『結婚っ!?』


 ニンマリ笑う露華に、伊織と白亜は目を見開く。


「確かにそんな話もしたはしたけど、言い方ぁ!」


 春輝は春輝で、抗議の声が思わず叫びとなった。


 そんな風に、場が混乱してきたところで。


 ──クゥゥゥ……


 気の抜けるような音が耳に飛び込んでくる。


 一同の視線が、その音源……伊織のお腹辺りに集まった。


「あ、あぅ……」


 お腹を押さえて、伊織は顔を赤くする。


「すみません……お昼、まだ食べてなかったもので……」


 そして、消え入りそうな声でそう言った。


「そーいや、ウチらもご飯まだなんだよね。なんかある?」

「あ、うん。全員分、用意してあるよ」

「そりゃありがたい。そんじゃあ、とりあえず飯にしようか」


 これ幸いとばかりに、春輝は話題をそちらに持っていく。


「……ご飯は賛成だけど、ハル兄には改めて事情を聴取するから」


 しかし、やはりと言うべきか誤魔化しきれはしなかったようだ。


「だから、やましいことは何もないってば……」

「それは決めるのはハル兄ではない」

「露華も、後でちゃんと話してもらうからね?」

「んっふっふー、望むところよ」


 なんて、ワイワイと話しながらキッチンへと移動する。


 そんな賑やかさに春輝が違和感を抱くことも、もうない。


 つい先日までは、ありえなかった光景なのに。


 今は、こちらの方が『当たり前』だから。


「おっ、今日はハンバーグがメインか」

「はい、露華の好物なので」

「おー、サンキューお姉」

「ロカ姉は、意外と舌が子供っぽい」

「アンタは渋すぎだと思うけどね……一番の好物がイカの塩辛とかさ」

「ほらほら二人共、そんなとこで話してないでさっさと座ろう。また伊織ちゃんのお腹が鳴っちゃわないうちに、な」

「も、もう、春輝さんっ!」

「イオ姉、心配しないで……わたしも、今にも鳴りそうなくらいにお腹ペコペコだから……」

「ウチもだよ、お姉……」

「なんか優しい目でフォローしないで!? 余計に恥ずかしいから!」


 露華の問題は、実際にはまだ片付いたわけではない。

 けれど、露華の表情はすっかり明るいものになっており……そんな彼女が踏み出すことを決めたのならば、きっと遠くないうちにに解決することだろう。

 春輝は、そう信じて疑っていなかった。


 思春期の彼女たちは、今後も様々な問題に直面するのだと思う。

 それに対して、春輝が何を出来るのかはわからない。

 あるいは、何も出来ないのかもしれない。

 それでも春輝は、何があってもこの子たちの味方であろうと思っている。

 ずっと、彼女たちの『居場所』でありたいと望んでいる。


 頼れる大人だなんて、胸を張れる気は到底しないけれど。

 彼女たちより少しだけ多くの経験を積んでいる身として、出来る限りのことはしてやりたいと考えている。


 春輝に、新しい『日常』をくれたお礼に。


 それが、いつか終わってしまうのだとしても。


 せめてその時までは、この『日常』が平穏に続いてくれるように。


 そんな願いを込めて……なんて言うと、少し大げさだけれど。


『いただきます』


 皆で、声を合わせて。


 今日も、『日常』は続いていく。

『世話好きで可愛いJK3姉妹だったら、おうちで甘えてもいいですか?』、これにて公式的には本編完結です。

明日より書籍版1巻の店舗特典SSを挟んだ後、SSという名の実質本編の続きを投稿して参りますので、引き続きどうぞよろしくお願い致します。


そしてここまで読んでいただきまして、誠にありがとうございます。

「面白かった」「続きも読みたい」と思っていただけましたら、少し下のポイント欄「☆☆☆☆☆」の「★」を増やして評価いただけますと作者のモチベーションが更に向上致します。

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