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[00-09] : 誘拐未遂(2)

***

 ラグナ、フィール、カサラの3人は塔の最上階まで上がった。


 塔の一番上にいれば、敵は塔の内部の階段を上がってくる必要があり、大量の敵に囲まれるような状態を防ぎ、敵との戦いを有利に進められる。


 カサラは強いが、――名分がない状態で敵と公安――権力側の人間と戦うのは避けたい。


 塔の下の方には、3人を狙って来たのか魔物が集まっていた。


 魔物の一部は塔の中に入ってくるが、カサラが壁や罠を作って妨害しているので塔の上部まではやってこない。


 自分たちが逃げ込んだ塔の周りに魔物が集まるというのは、ある程度は想定済みで、籠城が長くなる場合は食事に魔物の肉を狩るのもありだ。


 食料確保は重要だ。

 ――というのも、ラグナやフィールの食事の量は普通だが、――カサラはその限りでない。


 気心知れた仲だから分かるが、カサラは割と大食らいである。

 ラグナには、その腹の中にどうやったら豚やウルフの肉1頭分が入るのか、――常々、謎であった。


「ラグナ、食料を狩ってきたから、ちょっと焼いてくれないか?」


 と、そこで、カサラが何やら魔物を狩って、持ってきたようだ。


 カサラが持っているのはトレント系(※)の魔物の一種である、スライミートレントである。

 トレントの中でも、柔らかく、ぐにぐにとした体を持つ、奇妙な生き物である。


 ※木が歩いているような魔物、実際の成分は木と似ているが異なる。


 トレント種は基本的に火に弱く、討伐難度Dの中でもそこそこ倒しやすいのだが、火を使わずに倒すのはそこそこ骨が折れる(弱い冒険者の場合)。


 トレントの死体から見るに、カサラは一瞬で冷凍する形で敵の生体機能を破壊したようだ。


 ――前、ジョークで料理したところ、カサラに、ひどく好評だったのが思い出される……。


 トレントの体は、どこにでもある木が、臓器を持っていたりする構造を持ち――ぶっちゃけ気持ち悪いので、ラグナとしてはあまり調理したくはないのだが……。


 だが、今はカサラに協力してもらっているので文句も言うまい。


「オッケー……。

 料理しておくから、……魔物とか、何か来たら教えてね」


「え、っと。

 これ、料理する気ですか?」


 フィールは引き気味だ。


「うん……。

 前作ったら、気に入っちゃってね。

 ぐろいから、調理中は見ない方がいいと思うよ」


 ラグナは、トレントの死体を持ってきていた刀で切り裂く。


 【料理】スキルの効果で最適な手順で切ることが出来るが、さすがに食材を見ずに料理をすることはできない。


 トレントの気持ち悪いのは、他の魔物とも違い、――体構造が植物と獣の垣根にあるような感じで、……調理すると何か冒涜的なことをしているかのように感じるからだ。


 トレントの体を切り開くと、硬い表皮の部分を捨て、内臓やどろどろとした透明の体液を避け、肉質な部分を切り落とした。このトレントは柔らかい種なので、食べやすいかもしれない。多分、カサラも気に入ってくれるだろう。


 次に、前もって用意してある火にあぶり始める。


 炙っていると、フィールが隣に座った。


「……料理が得意な人って素敵ですね」


「……え?」


「い、一般論ですよ、一般論。

 その、……私もミアも料理が苦手なので、前、料理を作っていただいた時から、料理ができるなんてすごいなって思ってたんです」


「料理ね……。

 僕のはスキルだけど、冒険にはそんなに役立たないしなぁ」


「……?

 冒険者じゃなくても、食事屋とかを興せば、腕利きのシェフになれるのでは……?

 今はギルド職員でも、今後、そういう職に就かれる予定はないのですか?」


「……僕の夢は、冒険者になることなんだ。

 今は受付の仕事をしているけど、いずれは……」


「おい、そこの女。

 ラグナはこれでもギルド職員として超有能なんだ。

 国一番のシェフ如きに収まる器じゃない」


「いや、冒険者を目指してるから、それもどうかと……。

 ……でも、褒めてくれてありがとね、カサラ」


 ――と、そこで、何やら外から喧騒が聞こえ始めた。


「敵が、来たようですね。

 ミアが来るまで持ちこたえればいいんですよね、ラグナさん。

 私も手伝います、カサラさん」


「おいおい、貴様には荷が重いんじゃないか?」


「これでも私、罠の名手なんですよ、罠を解除する方が主ですが、仕掛ける方もできます。

 先ほどカサラさんが仕掛けた罠を見事利用して、敵を翻弄して見せますよ!」


「ほう、――ならばその手際、見せてもらおうか」


「だから、もしあなたが私を認めてくれるなら――私のことはこれから『フィール』と呼び捨てで呼んでください」


「ん? まあ、いいが。

 よし、ラグナは、……えーと、見張っててくれ。

 それと、勇者が来るのが見えたら、私たちを呼んでくれ」


「できることがないのが辛いけど、……分かった、見張っておくよ!」


 ラグナは塔の最上階に残り、残りの2人は敵の足止めを始めた。


 ――カサラとフィールは屋上へと向かう敵を次々となぎ倒していった。


 カサラは敵の足止めや打撲系の攻撃で相手を撃退。

 フィールは敵が罠にかかりやすいように視線や動きを誘導し、自分自身はのらりくらり罠を避けながら、敵を罠に引っ掛ける。


 滑る床や足に引っかかる氷の棒、上から落ちてくる氷岩など、カサラがつけた罠を次々と作動させて、敵のみを攻撃していった。


「お前もやるな、――フィール」


「あなたもね、カサラちゃん」


***

 勇者ミアは城に身柄を拘束されていた。


 ――拘束と言っても錠をハメたり牢に閉じ込めたりされているわけではない(そもそもそんなことできない)、相手が人質を使っているため、逃げることが出来ないだけだ。


「それで、……フィールはどこに閉じ込められているの?

 あんたが「すぐに見せる」と言ってからもう数時間は立ってるよ?」


 ミアは近くにいる全ての者を圧倒的胆力で【威圧】している。


 【威圧】は意識して行っているわけではなく、怒りから、自然にあふれ出すものだ。


 ――しかし、威圧されて尚、目の前の男は、涼しい顔をしている。


 その男の名はリトーキ。

 この国では知らぬものはいないほど有名な政府の次席の男。


 自国の、軍事的プレゼンスを非常に重視している典型的な戦争積極派である。


 リトーキは周りの者たちが威圧されているのを見て、――自分自身もまた威圧の影響を受けているのを見て、ミアに苦言を呈する。


「勇者様?

 周りの者をいたずらに威嚇するのはやめていただけませんかね?」


 それに対して、ミアはなお一層、冷たい怒りに奮える。


「威嚇なんてしてない。

 ――彼らが勝手に怖がってるだけだよ」


 ミアが怒りの中、必死に感情を抑えた声を出すと、周りの者たちは、その瞬間――一瞬で殺される情景をイメージしてしまった。


 中には、恐怖のあまり目に見えて震えている者さえいる。


「――いやはや、恐ろしい力ですね、勇者というのは。

 あなたをかの従者に合わせたら、何をするか分かったものではありません。

 今日、彼女と合うのは諦めてもらいましょうか?」


「ふざけるな。もう限界だ。

 お前らが約束すら守れないなら……」


 ミアが言っている途中で、リトーキは遮る。


「何をする気で?

 ……あなたの従者はこちらの手にあるのですよ?

 ああ、勇者様が聞き分けのないようなら、手の一本くらいは折ってしまいましょうか?」


「もし……」


「なんです? 勇者様?」


 ミアはかつてないほどの冷酷無比な眼力で、睨む。


 軍人出身の政府の次席と言えど、勇者のその眼に何かを感じ取って、金縛りにあったかのように立ちすくむ。


「もし、フィールに何かあれば、この国の軍隊を完全に再起不能にしたうえで、――お前を殺す。

 ――限りなく残忍な方法でね」


「は、はは……。脅しでも?

 ……だが、そんなことはできまい。

 たかが個人が、我々の軍を滅するなど、不可能だ」


「ボクはやる。

 昨日、あの軍人を相手にしたときみたいな手加減は、一切しない。

 あの程度の実力の雑兵が数千、数万いようが、ボクの敵ではない」


 ミアが、直接的に怒りをあらわにした。


 周りの兵士たちの顔面は蒼白である。


 ミアは、リトーキでは話にならないとばかりに


「おい、そこの兵士たち。今すぐフィールの場所へ案内しろ!」


「その、フィール、殿は……」


 兵士が何かを言おうとしたとき、リトーキはその言葉を遮る。


「おい、バカ! 言うな!」


 ミアはどうも、兵士が知っているようだと考え、更に追及する。


「兵士さん、言ってくれれば危害は加えないよ。

 リトーキだっけ……この男はあとで黙らせてあげるから、――さっさと言って」


「フィール殿を、捕まえたという報告は上がっていません。

 公安部の者が冒険者ギルドで接触したのが最後、です。

 なんでも、ダ、ダンジョンへ逃げたとか……」


(フィールがダンジョンへ逃げた?

 フィールのことだから、何か考えがあるんだろうけど、分からないな)


「ダンジョンの、どこへ向かったかは分かる?」


「そ、それは分かりませんが、えっと、身長160程度の黒髪の男性と、同じくらいの背の女性を伴って行ったと聞いております」


(護衛を雇ってダンジョンに行ったのかな?

 でも、フィールは割と人見知りだから、自分からそうしたとは思えないけど……。

 黒髪か、もしかしたら、うーん、でも、彼は冒険者じゃないし……)


 分からないことを考えても仕方ないと、ミアは、急いでダンジョンへ向かうこととする。


「兵士の人、ありがとね。

 あと、言っとくけど、絶対に追ってこないでね。

 そこのおじさんは、フィールに怪我でもあったら殺すから。

 それじゃあ」


 ミアはそう言い残すと、ギルドまで駆ける。

 フィールが護衛とともにダンジョンへ行ったとするならば、ギルドにも何らかの報告が言っているはずだ。


 通行人は走るミアを見て、何事かと話しているが、ミアは目もくれない。


 ――ミアは、数分でギルドにたどり着く。


 ギルドは騒然としていた。


「あの、もしかして、勇者さんですか?」


 アヤナがそのように聴く。


「うん。

 ボクが勇者ミア=メイスだ。

 その様子だと、ボクの要件は分かっているのかな?」


 ミアがそう言うと、一人の男の冒険者――コウセイが、話しかけてくる。


「あんたが勇者か――ラグナから伝言があるぜ。

 ……『ギガントアントを倒した場所の近くにある塔』で待っている、らしい」


「塔、そういえば、その辺にあったね。

 分かった、ありがとう」


(やっぱり黒髪の男はラグナ君のことだったのか……。

 フィールがラグナ君に助けを求めたと考えればいいのかな?)


「フィールとラグナ君の二人だと、戦力に不安がありそうだけど、だれか護衛がついてるの?」


「ああ、カサラ――B級の冒険者なんだが、そいつがついてるから、たぶん大丈夫だよ」


(B級だと、……ちょっと不安かな。

 フィール、ラグナくんの2人なら無茶なことはしないと思うけど……)


「わかった。

 そこに行けばいいんだね」


「ラグナはそう言ってたよ。

 3人が行った後、兵士や公安部の人たちが数十人単位でダンジョンに行った。

 くれぐれも気を付けてくれ」


「わかった。

 まあ、別に気を付けるほどの人数じゃないけどね」


 ミアはすぐに踵を返すと、ダンジョンへの扉へ向かって急いだ。

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