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[00-07] : ラグナの休日の冒険

***

 ――次の日、ラグナにとって今日は休日である。


 ラグナ、カサラ、コウセイの3人は、今日、一緒にダンジョンへ行く約束をしていた。

 行くダンジョンはもちろん、始祖のダンジョン『オリジン』。


 簡単な採集依頼など、2つほど受けて、ダンジョンへ向かおうとしていた。


 現在は、受付でアヤナから簡単な依頼の紹介とその受諾の作業を行っている。


 依頼を受けずともギルドカードがあればダンジョンの移動点をフリーパスできるが、一応規則ではダンジョンに行く前に、ギルドで依頼の授受とギルド側の了解を得る必要がある。


「ラグナくんと、カサラちゃん、あと、コウセイくんね。

 じゃあ、3人パーティでこの2つの依頼を、今日中に達成っていうことで」


+ [依頼][商業ギルド][難度E] +

+ ------------------------------------------------------------------------------ +

クォータの実の採集。(直径10cm程度、黄色)

採集量は問わない。

換金は 200[G/個] のレートで行う。

+ ------------------------------------------------------------------------------ +


+ [依頼][商業ギルド][難度E] +

+ ------------------------------------------------------------------------------ +

ベリー類の採集。

採集量は問わない。

換金は 1000[G/100グラム] のレートで行う。

+ ------------------------------------------------------------------------------ +


 受けた依頼はどちらも、採集量を問わないため、気楽に受けられるものだ。

 最悪、依頼が達成できなくても、冒険者としての信用や、責任に問われることがないという――ピクニック感覚で行くラグナたちにとっては、ある意味ベストな依頼である。


 商業ギルドはある程度過剰に在庫を抱えてもさばききれるようで、この類の依頼は一年中常に入っている。

 ラグナを伴っての冒険では、このように簡単な依頼を受けることになっているのだ。


「ラグナくん、それじゃあ、頑張ってね。

くれぐれも無理はしないようにね」


「うん。ありがとう、アヤナさん。

 それじゃ、行ってくるね」


「はい。

 コウセイ君とカサラちゃんも気を付けていってらっしゃい」


 アヤナにそう言われると、――カサラは何やら妙に格好つけた態度で、


「もちろんだ。

 神に誓って、私がラグナを守るから、安心して待っていろ」


 コウセイはカサラに引き気味に、


「……お、おぅ。

 まあ、カサラもこう言ってるし、俺もそこそこ頑張ってきますよ。

 ラグナのことは任せてください」


 ともかく、3人のピクニック――もとい、冒険が始まった。


***

 3人は、ダンジョンに入り、近くにある遺跡のような構造物に入った。


 円錐型の建物の周りに立方体がぐるぐる公転しているような妙に示唆的な構造物である。


 このダンジョンにはこういったモニュメントがたくさんあり、それぞれの構造物に様々な魔物や採集物などが存在している。


 モニュメントは実際の容積と外見上の大きさが合わないこともあり、この円錐型の建物もそうである。


 内部は複雑な迷路のような構造であるが、しばらく進むと、壁や床から植物が生えている、森のような場所にたどり着いた。


 今回の目的地はこのあたりである。


 討伐難度Eクラスの弱めの魔物がたまに出現するが、そこら中にオレンジベリーやクォータの実が自生している。


 今日は軽くラグナの練習がてら、魔物を狩ることが目的だ。採集依頼はあくまでついで。


 早速、スライム系やアント系の魔物を探すことにした3人である。


「よし、ラグナ。

 あそこにバウンディスライムがいるぜ」


「スライムごとき、私が灰燼に帰す」


「おい、やめろ。

 今日はラグナが戦ってみたいって言ってたんだから」


「でも……。ラグナ、大丈夫?」


 ラグナとしては悔しいばかりなのだが、――ラグナは戦闘向きのスキルを一つも持っていないし、剣の腕も微妙である。

 ラグナがダンジョンへ行くときはコウセイかカサラ、あるいはその両名を伴って行くのだが、多くの場合、ラグナは特に戦闘を行わず、まさにピクニックのようなものとして楽しむ感じだった。


 戦闘を行うとしても、カサラやコウセイのバックアップを付け、一人での戦闘を行うようなことはこれまでなかった。


 しかし、今日は一人で戦ってみたいとラグナが言ったため、周りの2人は甚だ不安ではあるが、ラグナ一人での戦闘となる。


 ラグナが1人で戦いたいと言ったのは、昨日の勇者の戦闘を見て、自分との歴然たる差を目の当たりにしたためである。勇者の戦闘はラグナにある種の畏敬を抱かせるに足るものだったが、それによって冒険者になりたいというラグナの考えが消えたわけではなく、より一層、鍛錬すべきというマインドに変わった。


 ラグナは冒険者として活動することをまだ諦めていない。

 そのために乗り越える壁は節々にあり、単独での魔物の討伐もその一つだろう。


(『バウンディスライム』。

 上下に跳ねながら逃げていくスライムだ……。

 人間への危険性はそんなにない。

 スライム系は斬撃に弱いから、剣で十分戦えるはず)


 ラグナは、腰に提げた剣を鞘から抜くと、跳ねているスライムと向かい合う。

 魔物との戦いはいつも緊張するな、と思いながら、重心を下げ、相手の動きを目で追う。


 バウンディスライムの性質として、この魔物は比較的規則正しい動きをするということだ。

 一見、この生き物は無秩序に動き回っているかのように見えるが、個体ごとに特定の動き、を好んでいると知られている。


 無秩序に剣を振っても倒せるため、あまりそういった戦略性は重要視されていないが、――無駄に体力を使うのもいかがなものかと思うため、反射神経で動く前に、スライムの動きを観察する。


(こちらから見て、右前10%、左後ろ40%、右前40%程度の比率で動いているな。

 条件付確率だと……)


 スライムの前でうんうん唸るラグナの後ろから、コウセイが不審に思ったのか声をかけた。


「ん? ラグナ、どうした?」


 コウセイの声が聞こえた少し後に、ラグナが掛け声をあげ、スライムへ向かって行った。


「よし、行くぞ!」


 ラグナはスライムが着地し、飛び上がる瞬間に剣を構え、左後ろへ跳ねるスライムに向かって思いっきり剣を振り落とした。


「なかなかやるじゃないか、ラグナ!」


「動きに迷いがなかったように見えるんだが、【予知】系のスキルでも使ったの?」


「いや、そういう系統のスキルは【虫の知らせ】しか持ってないし、戦闘にも役立たないよ。

 今のは、スライムの動きを見て、法則性を掴んだだけだよ」


「……うん?

 まあ、よく分からないが、なかなかやるな!」


「へえ。

 俺が戦うときはあんまりそういうこと考えないから、ちょっと面白いな。

 ちなみに、どういう法則性があるんだ?」


「バウンディスライムは規則性のある動きをすることが多いんだ。

 個体によって、右に動いた後は左後ろに動きやすいとか、右に動くより左に動くことが多いとか、そういう性質があるんだ。

 これを確率として定式化すれば、特定の行動のあとの動きを見切ることもできる。

 例えば、さっきのスライムだと、左に動いた後に左後ろへ動く確率は60%くらいだから、これを利用すれば……」


 ラグナが説明する前でカサラは頭を抱えていた。


「やっぱりラグナは頭がいいな、頭が混乱してきた……」


 カサラは魔法の天才で、魔法の組成に関してはこの国で右に出る人はいないだろうという実力があるものの、学業に関してはそれほど得意でない。


 カサラの家はそれなりにお金もあるため、高等学校に進むこともできたのだが、学業不振で進学はできないと言われていたくらいだ。


 一方、コウセイは何となくラグナの言っている内容をなんとなく理解したのか、それとも一切理解していないのかは分からないが、「なるほどな……」と、真面目そうにつぶやいた。


 その後も、いくらかのスライムやアント系の魔物を倒して、ついでにブルーベリーをいくらか採集した。


 道中には、『ソードゴブリン』という、討伐難度Dの魔物もいた。


 今回、スライムとアント以外の魔物はすべてコウセイかカサラが倒すことになっていたが、魔物と戦いたい二人が言い争っていた。


「ここは私に任せろ!」


「いや、俺がやる! いい加減戦いたい。

 行くぜ!」


 コウセイはそう言うと、カサラが動く前に魔物まで駆け寄り、剣を振り下ろそうとした。


「おい、それは私の獲物だ! 【プラントグロウ】」


 カサラは【プラントグロウ】という『魔法』を使える。

 【プラントグロウ】は植物の成長を促進させる魔法であり、種などを常備すれば、戦闘中に自由に植物を成長させて、敵を雁字搦めにすることができたりする。

 ただ、成長した植物の耐性は、当然、植物の種類による。


 カサラがこの魔法を使ったのは敵を拘束したり、倒したりするためではなく、――コウセイを拘束するためでである。


「おい! カサラ! 戦闘中に味方の邪魔すんじゃねえよ!」


 植物に絡まれたコウセイが抗議するも、カサラは聞く耳を持たず、敵のソードゴブリンに向かって魔法を打った。


「邪魔はいなくなった……!

 魔を打ち滅ぼせ! 【ファイアフロー】!」


 カサラが右手をゴブリンに向けると、手を覆うように出現した大出力の炎が敵に向かって流れていった。


 ちなみにカサラは杖を右腰に提げているが、魔法の行使に杖を必要としないため、杖を持っている理由は特にない。わざわざ出すこともないのだが、どうして持っているのか……?


 敵が塵に帰すと、ラグナやコウセイはびくっとしながら慄いた。


 カサラは魔物なんかよりよっぽど危険であるのも、また、事実である。


「くそ、とられた」と、コウセイが言う。


「お前が先に奪おうとしたんだろう?」


「まあ、まあ、仲良くしようよ」


「ラグナ、こんな奴と仲良くするのはやめた方がいいよ。

 心が狭いし、私の邪魔をするしさ。

 ね、私だけいればそれでいいでしょ?」


「ちっ。

 こっちの台詞だボケ」


 ラグナ、カサラ、コウセイは仲がいいのだが、たまに喧嘩が起こることもある。

 特に、カサラとコウセイは何故か互いに敵視しあっているところがある。

 単純に戦闘力で見れば、明らかにカサラの方が強いので、ライバルとして意識している感じはないのだが。


 そんな口喧嘩をしばらく続けていると、ラグナが突然目を見開く。


「あっ!」


「……? ラグナ、どうかしたの?」


「まさか、【虫の知らせ】か?」


 【虫の知らせ】とは、ラグナの持つスキルの一つで、第六感を用いて何らかの悪い状況が迫っていることに対しての直感を得る。【予知】系のスキルと異なり、未来を見通す力ではないのだが、『何か悪いことが起こる』、『状況を改善するために、どのような行動をすべきか』という簡単な直感が得られる。

 パッシブスキル(※)であり、ラグナはこのスキルから得られる直感によっていろんな事態を解決してきたことがある。


 生命に関わることもあるため、軽々しく無視することはできない。


 ※パッシブスキルは常時発動型で何らかの状況の変化で自動的に発動するスキルのこと。


「「ラグナ……?」」


「何か、起こる。

 2人とも、今すぐギルドに戻ろう!」


「お、おう! 行くぞ、ほら、カサラも!」


「当然だ! 急ぐぞ。

 ラグナ、そこを少しどいてくれ!」


「……ん? 分かった」


 ラグナがもたれ掛かっていた壁から離れると、カサラは、その方向に向けて思いっきり魔法を発動させた。


「道を拓け! 【ストーンエッジ】」


 カサラがそう言うと、迷路の壁が一直線に破壊され、入り口の方に向かってショートカットルートができる。


「おいおい、大丈夫なのか?

 壁を壊すのは禁止はされちゃいないが、重要な構造物などは保護するように言われてたが……」


 コウセイのそんな驚きと疑問の声に、カサラは


「緊急事態だ、それに壊してしまったものは元に戻せまい。

 さっさと走るぞ」


「へいへい」


 3人はギルドに向かって駆け出した。


***

 3人がギルドへ帰っている途中、フィールは人通りの多い路地を歩いていた。


 今日買うのは、生活必需品の類である。


 フィールはいくつかの店を辿って、現在、薬屋にいた。

 魔法薬系だけでなく、病気やけがに利く植物由来の薬をある程度備蓄しておいた方がいいだろうと考えてのことである。


 薬を買って外に出ると、黒い立派な仕立ての服を着た男が店の前に立っていた。


 フィールが男の目の前を通り過ぎようとすると、男が声をかける。


「そこのお嬢さん。

 少し、お話ししませんかね?」


 軽い軟派な男かと思ったが、彼の風体とミスマッチングであり、フィールは男を不審に思った。


「いえ、お話しすることはございませんが?」


「勇者ミアの従者の方でしょう?

 あなたに対して、政府から捕縛命令が与えられています」


「……!? それはどういうことですか?

 私たちは昨日城で政府の重役との懇談をしました。

 昨日と今日で突然態度が変わるなど、妙です」


「通りの裏で話しませんか? ここらは人通りが多い」


(裏通りに場所を移したいというのは、つまり、捕縛を表立って行うわけにはいかない事情があるということですかね。

 ミアと離れたすきを狙っていることからも、どうも胡散臭い)


「お断りします。

 人通りの少ないところに連れ込むなど紳士の態度ではありませんね」


「軽口をたたきますね。

 別に、この場で無理やり捕縛してもいいのですよ。

 まあ、あなたの考えている通り、公権力と言っても警邏と違って公の場で下手なことをすると面倒ですが。

 まあ、さりとて面倒なのは、後で書く始末書が増えるくらいでしょうか」


 フィールはにやっと顔をゆがめる男への対応を考える。


(このまま、この広場にいて、男が手出しできないようにするか?

 ミアとは宿で落ち合うことになってるけど、夕方まで帰らなければ多分、探しに来てくれるだろうし……

 あとは……)


 フィールはそう考えると、自分のギルドカードを握って走り出す。


 国にもよるが、ギルドには権力が介入しにくい性質がある。


 考えてれば当たり前であるが、ある種、無法者のような冒険者が一定数いて、下手な軍よりよっぽど強力なパワーがあるのだ。下手な介入は難しい。

 それに、ミアが冒険に行っているならば、ミアが勇者であることを明かしている可能性もある。

 その場合、勇者の従者であるフィールを冒険者が庇ってくれる可能性もある。


 ここにいるよりは安全かもしれない。


「急がなきゃ!」


 フィールは一路、ギルドを目指す。

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