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月の姫は私で、彼は翁で  作者: かすがいこまき
3/3

2話

授業も午後に入り残り一時限となった

次の授業は化学の授業だ

科学の授業はとても人気である

なんせ


「やぁ、皆さんこんにちは、今日の最後の授業頑張ろうね」


「安倍先生!復習ノート見て下さい!」


「どれどれ、うん良く出来てるね!えらいえらい」


「先生、私も!」


「私も!!」


「はいはい、もう授業に入るから授業後に見せてね」


圧倒的イケメン、そして耳が癒される完璧なイケボ、さらに高身長でスリムなスタイル

この学校の全ての女子に人気の安倍先生の授業だからである

化学の先生がこの人で良かったと常日頃感じてしまう


この授業だけは窓の外など見てる暇など無い


『はぁ、どうせなら安倍先生に呼び出しを受けたかったよ、山本めぇ』


勿論山本とは私に注意して来た数学の教師である、全く解せない

なんで数学の先生なのに熱血系なのか、ガリ勉で気弱な先生だったら良かったのだ


「じゃあ教科書48ページから、やって行こうか」


「「はい!!」」


女子の活気が最高潮に上がっている

やっぱり先生によってテンションって変わるのは何処も一緒なのだ

ノートもマーカー使って綺麗に書きとる


ふと消しゴムが無い事に気づいた

足元を探しても、ノートの下を見ても無い

その行動に気づいたのか、先生が話かけてきた


「どうしたの月下さん?分からない所でもある?」


「いえいえ!分かります大丈夫です!」


「嘘つけ月下、全然理解して無いだろ」


「馬鹿だからね」


「うっ、うるさいわっ!何でも無いですよ先生」


「そうかい?分からない所があったら聞きに来てね、分かるように丁寧に教えてあげるから」


「「「はい」」」


このクラスの女子がうっとりとしながら返事をした

若干男も混じっていたような


『…何で私以外も返事をしたのだろう』


横からスッと消しゴムが出された


「消しゴム無いの?使う?」


「うん無くしたみたい、ありがとう…これ新品だけどいいの?」


その消しゴムは角が全て残っているまだ新しい消しゴムだった

流石に使い辛い


「この消しゴム使い切りたいから、使って」


幸次君の手元には小さな消しゴムが握られていた


「じゃあお言葉に甘えて、ありがとう」


「うん…」


こういう所は流石幼馴染み、私の求めるものをすぐに理解してくれる


『阿吽の呼吸ってやつだね!さっ、集中集中』


授業も進み、チャイムが鳴った


「はい、今回はここまでです!分からない事があれば職員室か化学室に来るように」


入れ替わるように担任の小林先生が入ってきた、ホームルームの為に来たのだろう

女子のテンションが低くなる


「はぁ、俺も安倍先生みたいになぁ…」


「先生!元気出して下さい!」


「早く先生のホームルームが聞きたいです!」


男子達の声がこの雰囲気をかき消そうとしている


「お前達…そうか、じゃあホームルームだ!」


「はい!」


先生は嬉しさのあまり声が裏返ってしまうが、これは男子が早くホームルームを終わらせたいから、煽てているだけだと思う

ひそひそと後ろの方から「単純」と「早く終んねぇかな」の言葉が聞こえて来る

可哀想だが、私も早くホームルームを終えて欲しいと願うばかりだ


「…ではホームルーム終わるけど、月下は山本先生の所に行くように…えっと場所は音楽室だ、以上」


ホームルームが終わり、このあと山本に怒られるのかと思うと本当に憂鬱である


「じゃあね香久夜お先に〜」


「友を見捨てるかね、普通」


「可哀想だけど自業自得よ、ばいばい〜!」


「そんなぁ、はぁ〜」


教室には私と何故が幸次君が残った

幸次君は一冊の本を読んでいる、表紙はカバーがされていて分からない

あの本の厚さ的に小説だろう


「じゃあね、幸次君」


「うん」


『素っ気ないなぁ、ってか挨拶でも無いし…まぁいいや、山本の所行って怒られて来ますか』


教室を出て、音楽室に向かう

いつもだったら職員室だが怒る内容が濃いのだろうか、今回は音の響いても大丈夫そうな音楽室だ

もうめんどうで嫌になってしまう


コンコンッ


「失礼しまーす」


ドアをノックして音楽室に入るが、キッチリと並んだ机と椅子、有名な音楽家のポスター、ピアノ以外無かった

つまり山本先生は居なかったのだ


「あれ、早過ぎたかな?まぁ、集合はここだし職員室まで遠いから待つか」


携帯をしばらく弄っていると、妙な寒気を感じた、今はまだゴールデンウィーク手前の春なのにだ

冷房どころか、窓さえも開いていない


「…まだかな、早く帰りたいんだけど」


ガラララッ


ドアが開く音だ、おそらく山本先生が来たのだろう、携帯から目を離してドアの方を見る


「もう遅いですよ!日が暮れて…」


開いたドアの先には誰も居なかった

ただ1人でにドアが勝手に開いたのだ


「ちょっと冗談やめてよ…、あっもしかして舞でしょ、やめてよねービックリしたじゃ無い…」


ドアの裏を確認しに行くと、裏には誰も居なかったのだ


「えっ?」


身体が一気に鳥肌が立つのが分かった

これはヤバい、そう直感で感じた


直ぐに職員室に行こうとカバンを持って音楽室を出ると

目の前には山本先生が立っていた


「先生遅いよ!でもとりあえず職員室行こう、説教はそこで聞くから」


先生の横を通り過ぎて、職員室に向かおうとすると腕をガシッと掴まれた


「えっ?山本先生?っつ、痛い、掴む力が強すぎ…」


山本先生をよく見るといつもの様な強面の顔では無く、死んだ魚のような生気の無い顔でブツブツと何かを言っている


「先生どうしたの?怒ってるのは分かるけど、流石に手が痛いよ!…先生?」


返事もなくひたすらブツブツと何かを言っているので耳を傾けると


「…みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた」


「ひっ!?離して!」


腕を払おうとしても、力が強すぎて振り解けない

更に力が強くなっていき、腕の痛みで涙目になる

そしてブツブツと話している声も大きくなっていく


「みつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけたみつけた

         かぐやさまだ… 」


此方をグッと睨み、音楽室に押し入れられた

あまりの力に机や椅子を倒しながら、私は転がって蹲った


「いっ…痛っつ」


山本先生はドアの内鍵を閉めて一歩一歩近づいて来た


「もう、このからだはいらないな」


山本先生はそういうと、急に倒れてえずいている


「ゴホッゴホッ、オェえおぇぇえ」


口から黒い物体がドロドロと流れ、床に垂れていた

それは人が出せるものではないとはっきりと分かる禍々しいものだった

山本先生は全てを吐き終えるとその場で動かなくなった


黒い物体は徐々に徐々に床から天井に向かって伸びていき、やがて人の形になっていった


「何こいつ、何なの…お化け!?」


鞄の中にあるお守りを出して手に握りしめた


「…じゃまだな、それ」


化物は人差し指を此方に向けた

すると何故が手元が焦げ臭くなっている

手元を見ると握っている御守りの端が一つずつゆっくりと黒ずんできている

一つ目の御守りが全て黒ずんだら次は二つ目の御守りが黒ずんできた


香久夜は気づいた、もし全ての御守りが黒ずんだら自分はまずい事になると言うことを


急いでドアの方に走り出し、ドアの内鍵を開けようとする


ガチャガチャ


「あれ?なんで?開かない!?」


内鍵はごく簡単な上下に動かすだけタイプの物だ、こんなに硬いわけではない

こんな時にドアが故障するなんて有り得ない


「早く開いてよ!早く!」


何度も何度も開けようとするが固定されているようで全く動かない

握り締めている御守りは1つを残して全て黒くなっていた


「嘘…」


徐々に黒ずんでいくお守りをただ見つめる事しか出来ない

絶望だった

そして全て御守りが黒く染まった


「これでたべれる…」


「えっ?」


先ほどまで数メートル離れていた化物が目の前に立っていた


そしてその身体からは腐敗臭が漂っていた

あの時と同じだった、冬の夜の時と…


「たすけて…」


化物の手が体に触れようとした時だった


バチンッと弾ける音を立てて、化物の腕が飛んでいった


「あ″あ″あ″あ″あ″あ″あ″っ!!」


化物は悶え苦しんでいる、失った腕の部分を押さえて地面に転がっている


「なんで…もう御守り無いのに」


「くそがぁ、はやくにくをくわないと…」


また此方に向かって手を伸ばして来た

今度は防げるか分からない

ギュッと目を閉じて硬直する


パリン


窓の方から割れる音がした

なんで窓から音がしたのか不思議になり、目を開けると目の前に人が背を向けて立っており、黒いローブを羽織っていた

そして少しだけお線香のような、懐かしい匂いがした


「ゔゔゔぅぅぅぅう、だれだおまえ、じゃまするな」


突然の乱入に化物は戸惑っていた

目の前の人の、人には出せない異様な雰囲気に化物も何かを察したのだろう


「……離れないで」


私に対して言ったのだろうか、ボソリと一言話して、ローブから何かを出した


チリンーー


鈴の音と共に一本の日本刀が現れた

抜かれた日本刀は鈍い光を放ちながら

化物に剣先を向けていた


「かぐやさまのにくをよこせぇえええ!!」


無くした腕ではなく、身体から無数に出した針のような突起物を目の前人に向けて突き刺して来た


チリンーー


突起物は全て地面に転がり落ちて先端から液体を流している、化物の血なのだろうか

苦しんでいるのは分かる


「ぐぐぐぐ、きさまきさまきさまきさまきさまきさまきさまきさまきさまきさまきさまきさまきさま…おきなかぁ!」


先ほどの攻撃でフードが取れていた、そこにあるのは能面の翁を被った男だった


「…消えたまえ、愚かな者よ」


男は刀を構え直し、息を深く吐いた


ーー 五峰式(ごほうしき) 一ノ太刀(いちのたち) 木塵賽断(もくじんさいだん) ーー


一瞬の出来事だった、突風が吹いたと思ったら、化物の体には格子状に切り傷がついていた


「いたい、いたい、いた…」


ボトボトっと肉片を落としながら化物は崩れていく

やがて、床に落ちていた肉片は煙をたてながら消えていった


「お、きな、おぼえてお…」


「…」


そして化物は全てがバラバラになり、存在が消えてしまった


「いなくなった…、倒したの?」


「…もう、姿を現さない…これを持ってて」


そう言って出したのはひとつのお守りだった


「これってお守り…?どこの…」


「とりあえず、君は直ぐに帰ったほうがいい、後は何とかしておくから」


男は窓の付近に近づき、野球ボールをそっと割れたガラスの下に置いた


「…それで解決するの?」


「大丈夫だ、早く帰れ」


「…うん、あのさ…助けてくれてありがとう」


「…あぁ、たまたま化物を追ってただけだ、気にするな」


背中を向けたまま、手をしっしっと振っている

私も面倒ごとは嫌なので、早く帰るとしよう

校舎を出ると辺りは暗くなっていた




香久夜が帰ったのを確認した男はある人に連絡をしていた


プルルルル、プルルルル

ガチャ


「もしもし…かぐや様の存在を完全に“怪異”に見つけられました。御守りも全て呪われていました。はい…はい……はい、よろしくお願いします。失礼します」


携帯電話をしまい、深いため息をした

それはこの先どうなるのかという悩みであった

今までのようにはいかない

そう、彼は感じていた


「…大丈夫、守りきってみせるよ…約束だからね」

御覧頂きありがとうございます!

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