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この話は「竹取物語」をベースに書かせて頂いております。史実とは違う事を書いていますので、どうか温かい目でご覧下さい!
あれは、中学生活も終わりに差し掛かった、息が凍る様な寒い冬の終わりの夜
いつも通りの塾の帰り道だった
その日、私は見てしまったのだ…
それは人とは掛け離れた“異形”
目はぎょろりと多方に向き、口は血と涎で浸っていた
四足歩行でガクガクと、それぞれの手足が違う動きをしている
この場合、普通だと悲鳴をあげて逃げ出すだろう
しかし、私にはその行動が出来なかった
声をあげようにも恐怖で口がうまく開かない
足は震えてその場で座り込んでしまった
「ぁ、あっ…あ…」
怖い 逃げたい 誰か…
見回しても周りには人が居ない、そこに有るのは電灯の明かりを灯している一本の電柱だけだった
何を思ったのだろうか唯一動かせる細腕だけで電柱の影に身を隠そうとした少しずつ、音を出さずに
幸いにも化物は何かを襲おうと言う事は無くただその場にとどまっている様だ
はやく、早く、隠れないと…
何かをされる前に隠れようと、焦る気持ちで心臓がばくばくと音を立てている
早く…早く…
「にゃーぁ」
塀に登っていた猫が鳴いていた、猫も化物の姿を目に入った瞬間に全身の毛が逆立ち、牙を剥き出しにして威嚇をしている
「シャアァァー、フゥゥヴゥゥゥ」
その威嚇は尋常じゃ無いほど大きく低く唸っている、
だが今はそれどころでは無い、少しでも早く隠れなければ
あと数メートルで隠れられる…
「ヴゥゥゥ…ギャッ」
突然、猫の唸り声が聴こえなくなった
私はそれに気付き、猫がいた方向を振り向いた
塀には猫のかわりに異形が立っていた
猫は胴体を半分に千切られ、ぐちゃぐちゃと音を立てながら異形に貪られていた
「うっ!?」
目の前の行為に吐き気を催し、口を手で押さえつけた
しかし、その声で反応したのか、化物の目は私の方に向かった
私は化物の目が合ってしまった
化物は咀嚼をやめて、笑みを浮かべた
「みぃぃいつケたぁ」
貪っていた猫を地面に叩きつけて、塀伝いに此方へ向かって来る
べちゃべちゃと音を立ててとてつもない速さで移動している
「きゃぁぁぁああ!」
声は出たが腰が抜けて逃げられない、必死で手で身体を動かそうするが、恐怖で動きを忘れたのか手が地面から離れない
どこまで来ているか再び塀を確認すると、化物の姿は消えていた
「えっ?…いない」
周りも確認したが何処にもいなかった
ふと涙が溢れ、これは夢だったのだと、そう思った
化物はいなかった、私が見た幻だったのだと
最近期末テストの勉強もあって疲れていたんだと
ホッとして、落とした鞄を拾い携帯電話を手にした
「ちょっと疲れてるかも…何だったんだろうアレ…ひっ!?」
暗転しているディスプレイに映っている自分の背後に先ほどの異形が肩から顔を出して笑っていた
強烈な生臭い臭いを放ちながらピチャっピチャっと涎を垂らして
「ねェ、ネェ、ねェ、君オイシぃ匂いが…すル、ねェ、ネェ、ウデでもイイからちょうだい?」
「きゃあ!…来ないで!」
突然の事に驚き転倒する、その際に膝を擦り剥いた
痛い、どうやら夢では無い
服に着いた生臭さで胃液が逆流しそうになる
頭の中が混乱して訳が分からない
「ナンで、無視スるの?イイの?たべて…食べ、た……食べよぉ」
ばらばらに生えた奇形の歯剥き出しで噛み付いていた
これで私は死ぬんだと…そう目を閉じた
…チリン
空間に鳴り響く鈴の音、そして静寂が続く
「っつ…………?」
『何も起きない?』
恐る恐る目を開けると、異形はバラバラの肉塊に変わっていた、何が何のパーツが分からないが臓物が散乱しており、とても見れる光景では無かった
「ぅぅう、オェッ、オェーェ」
あまりのショックな光景に嘔吐をしてしまった
吐いた後、気が抜けたのか目が閉じていく
その途切れそうな記憶の中、先ほど居なかった人影が見えた、その人は仮面をかぶっていた
そう、それは翁のお面に見えた…
御覧頂きありがとうございます!
この物語はフィクションなので化け物の存在はありません!…多分ですが