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回生のマグツキ  作者: 月猫ネムリ
9/15

修行開始

疲れた………

状況を整理しよう。

俺ことアリヲ・ルイス(本条直輝)は魔具の覚醒を目的に3年間続けていた鍛錬を行っていた。

その途中で転んでそのまま寝転んでいたら突然海パン白衣の自称不審者が現れた。

…………………うん、意味が分からない。分からないが取り敢えず聞くべきことを聞いておこう。

そう、あくまで冷静に—————


「だ、誰だお前はァ!」


「不審者だっつったよな今さっき。なに?記憶力が無いの?それとも三歩で直前の記憶を失う鳥頭なの?いや、こんな珍妙な鍛錬しているんだから頭が残念なだけか」


「———————ッ、ッ!?」


なれなかった。

というか、「頭が残念なのはお前だろ」とか「森の中で海パン白衣なんてイカれた格好してる不審者に言われたくない」とか言いたい台詞(ツッコミ)が山の様にあるせいで咄嗟に声が出ない。


 あまりの暴言に口をパクパクとさせるしか出来ない俺をニヤニヤと見ながら、海パン白衣(変態)は、どこからか取り出した木の棒で俺を指すと


「しっかしここまで残念だと折角の魔具も宝の持ち腐れだよなー。でもこんなお粗末な鍛錬してる時点で人望とか知識とかもお察しだよなー」


「………?」


「—————ということで今から俺お前の先生な。あぁ答えはいらんぞ?お前の意志は元から聞いてないから」


なんて発言をしくさりやがった。



◆◆◆



 この時点で、俺の手元には三つの選択肢があった。

ひとつはこのまま無視して鍛錬を続ける事。

ひとつは、大人しくこの海パン白衣(変態)の指導を受ける事。

最後は、取り敢えず話だけ聞いてみる事だ。

まず、一つ目の選択肢は早い段階で切り捨てた。

この海パン白衣(変態)の言葉を肯定するのは癪だが、三年で覚醒の兆しも見られないのだ。

俺の鍛錬は徒労以外の何物でもなかったのだろう。

となると、残るは二つ目と三つ目。

この二つの選択肢は、一見すると何の違いも無いように見えるが実際は大きな違いがある。

それは、後戻りできるか否か、だ。

二つ目を選べば、俺はこの海パン白衣(変態)の効果も不明な鍛錬でもしかしたら無駄な時間を浪費させられる事になるかもしれない。

それは、選抜会を控えた現状において致命的な遅れになるだろう。

では退路を残した三つ目を選ぶかといえば、これも悩ましい選択だ。

実はこの世界における魔具の研究とは、一般に魔具の応用範囲の研究や使用の際の工夫を指すものであって、魔具の成り立ちやどう覚醒させるかといった研究は未だ手つかずなのだ。

しかし、海パン白衣(変態)の言い方から察するに、この海パン白衣(変態)は魔具についてかなりの知識を有している可能性がある。

もしそうだとすると、下手に機嫌を損えばせっかくの機会を自分でみすみすふいにした事になる。

安全を取るか、冒険を取るか。

俺は悩み、悩み、悩み、悩み、悩み尽くして…………


「じゃあ早速訓練な。手始めに素潜り行ってこ~い」


ドボン、と。

いきなり池に投げ込まれた。

まだ満足に動かない体で。

準備運動も無く。

服を着たままで。


「ガボガボボボボボ!?」


文字通り泡を食ってもがく俺の脳裏には、


(あぁそういえば………そもそも俺の意思は無視するって宣言してたな…………)


という諦念と、いきなりの殺人未遂に混乱する思考のみが浮かんでいた。



◆◆◆



 「お~。思ったよりも長かったなぁ。意外とスタミナもあるようでなにより」


数分後。

どうにか溺死を免れてゼイゼイ息をついている俺に、海パン白衣(変態)はムカつくほどに呑気な言葉をかけてきた。

被害者に加害者が掛けるべき言葉ではない。

が、そんなツッコミを入れる気力も怒りに拳を握る体力も尽きた俺は、もう何も言えなかった。

そんな事はお構いなしに、海パン白衣(変態)


「それじゃあ次は組手な。俺が受けるからお前は好きに打ち込んで来い」


次なる鍛錬を言いつけてくる。

少なくともさっきの殺人未遂よりはよほど鍛錬らしい鍛錬だったが………やはり海パン白衣(変態)は頭おかしかった。


「違う違う、そんなブレブレな蹴りじゃあ有効打にはならない。蹴りっていうのはもっとこう!」


回し蹴りを放てば隙の大きさ、威力の低さを指摘された上で見本を太腿にくらい、


「ヘイヘイそんな正拳突きで誰を殴るんだ~い?…そもそも体幹ブレブレじゃねーかしっかりしろ!」


正拳突きを打てばあっさり受け止められるついでにボディーブローを叩き込まれ、


「おいおい呼吸すら出来ねーのかよだらしね~なぁ」


ついには息の仕方にまでダメ出しをくらう。

癪な事に海パン白衣(変態)の指摘に反論する材料は俺には無く、奴の拳打は確かに凄まじい威力を秘めている様に見えた。

 結局、いつも通り陽が落ちかかる寸前まで鍛錬を続けた俺の身体は、いつもとは段違いの疲労でガタガタになっていた。

そんな俺を見下ろし、


「明日も朝からここでやる。朝食たべたら一時間以内には到着してろよ?」


とだけ言い残すと、海パン白衣(変態)は背を向けてどこかへと歩き去っていった。

その背を力無く見送った俺は、届いてないと理解しつつ愚痴をこぼした。


「せめて運べや……この、変態…………」

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