5、再会したのは
――公園に入ると。
「遅刻だな」
と黒服の男が言った。
「こっちには小学生が二人もいるんだから、そこんとこ考慮しといてくれないと」
男はサングラスをしている為、少女二人は俯いている為に表情が判らない。
「そりゃ申し訳なかったね」
由市は肩を竦めた。
「こっちには高校生が二人もいるんだから、そこんとこ考慮しといてくれないと」
「何にだよ」
男は普通にツッコんできた。
「……あの二人、なんか似てねぇか?」
「……あー、うん……」
江理は新の呟きに否定とも肯定とも付かない応答をした。
例えて言うなら、明と暗。
白と黒、というよりも光と闇に、由市と黒服の男はそれぞれ雰囲気が似通っていた。
「久しぶり、だね」
由市が言う。
「あぁ、久しぶり」
黒服の男が言う。
「……知り合いか」
新が由市に問う。
「親友さ」
「腐れ縁だ」
由市と黒服の男が同時に言う。
と、そこで江理と新の存在を思い出したらしい。
「ところで、そこの高校生二人は何者だ?」
「僕の可愛い弟の湯山新君とそのクラスメイトで矢波江理ちゃんだよ」
あっさりと由市は言った。
「弟……そういやいるって言ってたか。そっちの女の子は弟の彼女か?」
男の台詞に、高校生二人は同時に「ないわー」と呟いて、お互いを嫌そうに見た。
「江理ちゃんは今までの事件と関係した事情があってね」
「ふぅん?」
男は江理と新をそれぞれ検分するように見比べた。
「それで、こっちが高暮永。高校時代の大親友さ」
江理と新に視線を向け、由市は言う。
「まだ言うか」
黒服――永が呆れた声で言う。
「何年前の話だよ。いい加減にしろよ」
「そう言われてもねぇ。親友には変わりないし」
「……そうかい」
永は吐き出すように言った。
どうやら笑ったらしい。
「懲りないのなら仕方ない。じゃあ――」
永はサングラスを外した。
街灯の明かりがその顔を照らし出す。
不適な笑みが、睨め付ける。
「懲りるまで、付き合って貰おうか」
「僕は元からそのつもりだよ」
由市は刀を構えないままに言う。
「っと。その前に――」
永は顔を少女達に向けた。
「ヨウちゃん」
ビクリ、と短髪の少女の肩が震える。
金村燿子か、と江理は見当を付けた。
が、何かがおかしい。
違和感がある。
「俺の言いたい事は判るね」
少女の震えが大きくなる。
どうやら怯えているらしい。
……しかし、何に?
「許容範囲を超える能力を使った報いだ。それは君自身の責任でもある」
江理は違和感の正体に気付いた。
――腕が。
現場に残されていた腕。
目の前の金村燿子には、両腕が付いていた。
「ひー君」
「ひー君言うな」
由市の呼び掛けに永は突っ込む。
「いいじゃん。『ひー君』『ゆーち』の仲じゃん」
……突っ込んだ方が良いのか江理は一瞬悩んだが。
いつもなら真っ先に突っ込みを入れている筈の新が、横で冷ややかな瞳で二人を傍観していたので止める事にした。
「俺はそんなふざけた名前はイヤだ」
「とまぁそんなコトは置いといて」
由市はそのまま話を流した。
「言い出したヤツが逸らしてんじゃねぇよ」
永は心底嫌そうに言うが、
「その娘に何をした?」
という由市の問いに、目を細めた。
「欲しいと言うから能力を与えた」
「能力とは?」
「……見たいか?」
返事も聞かず、永は急に指を鳴らした。
瞬間。
金村燿子の身体が弾けた。
肉も。
血も。
骨も。
金村燿子という存在を構成していた全てが、吹き飛んだ。