4、誘導されたのは
「遅い!!」
由市と江理が喫茶店に入ってその姿を見付けたと同時に、新が苛立ちと共に言った。
客は新のみらしく、閑散とした雰囲気が店内を満たしている。
「ごめんねー?」
と由市は反省のカケラもない声で言い、新の座っている、奥のテーブルへと向かった。
「で、様子は?」
「そこの公園」
と新は顎で窓を示した。
見ると、街灯に照らされた公園の中、黒いシルエットが三つ、窓から覗ける位置にいる。
あれが? と訊ねる由市に、新は注文してあった紅茶のカップを口に運びつつ無言で頷く。
「……ふぅん。成程ね……。灯台下暗しってヤツかな……?」
意外にも低い声音で由市が呟いた
「おばさん達と別れた後、奴を見付けたんだ」
由市の態度に気付かないまま、新は言う。
「小学生二人に黒服が一人。怪しいと思って後を付けたら公園に入ってった。さすがにそこまで入れねぇから兄貴に電話したんだ」
「気付かれなかったの?」
江理が聞いた。
「背後を気にせずすたすた歩いて公園まで歩いてたからな。気付いてたとしても撒く事なく公園まで付けさせるような相手か?」
最後の台詞は由市に向けていた。
「……うーん。どうやら新クンは引っ掛けられたようだね?」
周囲を見回し、皮肉るような笑みを浮かべて由市は言った。
「……どういう意味だ」
「意味も何も、この店内見ておかしいと思わない?」
江理と新は言われて店内を見渡す。
これといって、不自然なものは見当たらないが……。
「店員さんがいないよね」
「え?」
言われて初めて江理は気付いた。
通常、注文を取りに来るべき店員の姿がない。
「でも俺これ店員に頼んだし、しかもちゃんと店員が運んできたぞ?」
新はカップを見せた。
「それは僕達が来る前に注文したものだからだろう? 多分電話する前に注文して、その直後にそれがきた。何故なら――」
そこで言葉を止め、由市は視線を上に向けた。
同じように二人も視線を向ける。
視線の先には時計。
そしてその時刻は。
――六時。
「――!!」
時計の針は、動いていなかった。
「気付かなかったの?」
由市は新を見た。
「……っ」
羞恥か怒りか、新は顔を紅潮させた。
「まぁ、殺されなかっただけでも良しとしようか」
言って、由市は席を立った。
「由市さん?」
「相手を待たせちゃいけないでしょう」
江理の疑問に即座に答える。
「待たせる、って」
「公園から動いていないのなら、向こうは僕達を待っていると考えて間違いないだろう? わざと新に手を出さずに喫茶店の空間操作をしている時点で、向こうは僕達の存在に気付いている」
「公園に、行くんですか」
「行かないと、きっとこの喫茶店ごと消されるだろうね」
大げさでなく、と由市は言うとコートの内側に隠していた刀を手に、堂々と店の出入り口へ向かった。