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3、情報を集めたのは

「はい、骨董『まほろば』ー」

 接客業とは思えない、やる気のない声で由市は一気に言った。


 江理は聞こえてくる声に耳を澄ませる。


「おーあっくん。お疲れー」


 相手はどうやら由市の推測通り、『あっくん』こと由市の弟、湯山(ゆやま)(あらた)だったらしい。


 彼は現在、沢城家周辺で情報収集をしている。


 電話、という事は何か情報を得たのだろう。


 現在時刻は午後六時。


 沢城枝里奈が行方不明になったとの報せを受けたのが約一時間前。


 早いのか、それとも結構な時間なのか、江理には判断が付かない。


「……ふぅん……それで? 目撃者は?」

 相手が話しているのか、暫く由市の言葉が途切れた。


「……とりあえず、江理ちゃんと一緒にそっち行くよ。場所は……うん、そうしといて。あぁ、でもあっくんは僕達が行くまで、少なくとも身の危険感じるまではそこから動いちゃ駄目だよ。じゃ」

 確実に疑問を感じる不穏当な言葉を最後に吐き、由市は受話器を置いた。


「弟さんは何と?」

 居間に帰ってきた由市に江理は聞いた。


「沢城枝里奈が行方不明になる前、見知らぬ男が彼女と話しているのを見たって人がいるらしい」


 由市は骨董屋には似付かわしくない、近くの洋風箪笥を開け、茶褐色のコートを出した。


 厚くもなく、かといって薄過ぎもしない生地で出来ているそれを、由市は羽織る。


「由市さんではなくですか?」

「黒服に黒い手袋して、おまけに黒いサングラスしてたってさ。僕はそんなに悪趣味な服は着ないよ」


 若草色のシャツの上に茶褐色のコートを羽織った由市が不満そうに言う。


「……そうですか」

 由市の服のセンスはともかく。


「だとすると余計に怪しいですね。……あ、でもその目撃者って信用できるんですか?」

「井戸端会議中のおばさん約5名」

「…………」

「真偽は一旦置いといて。手掛かりが無い以上は、やっぱ地道にやらないとね」

「……ですね……」

 その点に於いては同感だったので、江理は頷いた。


「あっくんには近くの喫茶店に待機してもらってる。ちょっとヤバげな情報もあったからね。人の多い場所なら安全だと思うし」

 由市は言って、玄関とは反対位置にある襖を開け、中に入る。


「ヤバげな情報?」

「その男が沢城枝里奈と話していた時、傍にもう一人小学生ぐらいの女の子がいたらしい。」

 何かを探しているのか、ガタガタと音を立てながら由市が答える。


「それなら別に怪しくないんじゃないですか?」

 江理は首を傾げた。


「クラスメイトの女の子が父親かお兄さんに付き添ってもらって見舞いに来たとかプリントを届けに来たとか、そういう事もあると思いますけど」


 むしろ『神隠し』が日常茶飯事になってしまっているこの町で、娘を一人で外出させる親はいないだろう。


「だったら良いなとは思ったんだけどね。残念ながらあっくんの情報、というかおばさん達の情報が確かならば、それはありえない」

「ありえない?」

「黒服の男は見た事が無いらしいけど、女の子の方は見覚えがあったんだってさ」

「それが何でありえなくなるんですか?」

「金村燿子だったらしい」

「……え?」


 行方不明の少女が。


 しかし。


 でも、と江理は呟いた。


「今まで『神隠し』に遭った人は、全員自分の家に帰ってます」


 生きて。


 でも身体の一部と記憶を失って。


 江理も、間接的に巻き込まれた一人だ。


「帰る途中、だったのかもね。……しかし、何故か沢城枝里奈の家周辺で、しかも謎の黒服の男と一緒に目撃されている」

 由市が姿を現した。


「黒服の男。怪しいと思わない?」


 行方不明になった少女と共に、もう一人の少女が失踪した。


 行方不明と失踪の違い。


「……いや、それは思いますけど……」

 それよりも江理は由市の手元が気になった。


 視線に気付き、由市が『それ』を江理に向ける。


「黒服イコール黒幕(あいつ)、かも知れないからね」

「用心するに越した事はない、と」

「そういう事」


 一振りの日本刀を手に、由市は頷いた。


 無名の刀だが、由市はこう呼んでいた。


 ――叉乱(サミダレ)、と。

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