1、訪問したのは
「本当に、何も見なかったのかい?」
その質問に、少女は頷いた。
――少女の目の前でクラスメイトが消えた日から、数えて二日。
事件が起こったのは平日初日、即ち月曜日。
つまりは二日後である今日、水曜日も学校で授業がある日なのだが、少女は二日前から体調が優れないからと母親に頼んで学校を休み、自宅に籠もっていた。
そんな時、少女の自宅に訪問者が現れたのだ。
訪問者は二人。
一人は背の高い、少なくとも二十歳は過ぎているであろう茶髪の青年。
若草色を基調としたシャツにデニムのような生地のズボンを履いている。
その爽やかさを出そうとしているかのような出で立ちとは裏腹に、そこはかとなく怪しげな雰囲気を少女は感じた。
もう一人は青年より低い背の、青年と同じ茶髪(但しあまり似合わないと少女は思った)をし、近所の高校の制服を着た少年。
普通そうに見えるが、青年と共に少女の家を訪ねて来ている辺り、怪しいと思えてしまう。
不思議な組み合わせの二人組だと、最初、少女は思った。
普通ならばそんな見るからに怪しい人物を家に入れたりはしない。
しかし、疑問に思いながらも、少女は二人を家へ入れた。
そして現在。
少女の前にあるソファーで、質問を発した青年が困ったように頬を掻いていた。
「兄貴、しつこいぞ」
青年の横に座っていた、制服を着た少年がぼそりと呟いた。
それを聞いて少女がこっそりと二人を見る。
彼は青年の弟なのだろうか、と少女は考えた。
確かに、茶色の髪と目の辺りが似ているような気がする。
「……ん~……」
青年は暫く悩んだ挙げ句。
「もし何かあったら、そこに書いてある電話番号に連絡ちょうだい」
と、数分前に少女に渡した名刺を指し、少年と共に帰って行った。
あまりのあっさりした行動に、少女は少々呆気に取られた。
――《現場》で何かを見なかったか、と青年は聞きに来たのだが、本当にそれだけの用件だったらしい。
少女は、渡された後そのままテーブルに放置していたその名刺を取り上げた。
至って普通の名刺だが、店名と思わしき文字に思わず目を奪われた。
『骨董店 まほろば』
……骨董屋にしては質問の内容が怪しかったが。
少女は次にその横に書かれていた名前に目を通す。
『店主 湯山由市』
“ゆやま ゆいち”と読むらしい。
……あの若さで店主なのかと、先程まで対峙していた青年の顔を思い出す。
そして少女は考えた。
何故、骨董屋が『神隠し』の事を聞いてきたのか。
いや、それよりも。
何故、ここまでやって来たのか。
あの青年達は元々、何かを知っていてここまで来たのではないかと少女は思った。
何を、何処まで知っているのか。
――と、そこまで考えた時。
ピンポーン。
というインターホンの音が聞こえた。
時刻はまだ四時を過ぎたばかりである。
少女の両親は夜にならないと帰って来ない。
加えて彼女は一人っ子だ。
この時間の訪問者は普通ならば有り得ない。
疑問は浮かんだが、そのまますっ、と少女は立ち上がり。
――躊躇う事無く、扉を、開けた。