表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

10、回想するのは

「――本当に、何も見なかったのかい?」


 由市の問いに、少女は頷いた。


 少女の名は矢波江理。小学五年生。

 当時高校に入学したばかりの由市は、それ以降の質問に悩んでいた。


 否。それより。


 矢波家に漂うよそよそしい空気に、由市は戸惑っていた。

 最初、居間に通された時からおかしいとは思っていたのだ。

 家には少女が一人いるだけで、他には誰もいなかった。


「……お父さんとお母さんは、仕事?」

 思わず、由市は聞いていた。


「……お母さんは、仕事。お父さんは、先月家を出ていきました」

 離婚したので。


 と少女は淡々と言った。


 家庭の匂いのしない家。

 目の前の少女は、ずっとこの家で、一人でいたのだろうか、と由市は思わず考えた。


「……何かあったら、連絡して」

 名刺などはまだ所持してなかったので、名前と自宅の電話番号をメモ帳に記載し、そのページを破って少女に渡した。


「…………」


 少女は無言でメモを見る。


「……それじゃあ」

 由市は腰を上げ、玄関に向かう。


「お兄さんは」


 外に出てドアを閉めようとした時、少女は質問した。


「何で、そんな事を聞きに来たんですか?」


 由市は振り向く。


「んー……ちょっと友達が巻き込まれててね」

 苦笑しつつ言う。


「……ヨウちゃんと同じ」


『ヨウちゃん』とは少女の友人である。


 数日前、少女の目の前で『神隠し』に遭っていた。現在も、未だ行方は知れない。


「……そうだね」

 由市は相鎚を打った。


 ……多分、意味合いが違うけれども。


「お兄さんは、その友達を探しているんですか?」

「そう、だね」

「大切なんですか?」

「…………」

 すぐには答えられなかった。


 自分は、何の為に姿を消した彼を探しているのか。


「大切というよりも……その逆かな」

 ……自分が彼を探す理由。




 ――由市は、親友とも言える高暮永を()()()()、彼を探していた。




 湯山家には、曰く付きの品が『封印』されている。

 叉乱もその中の一品である。


 そして、高暮永が湯山家から持ち出した品がある。


 万象を斬るとされる妖刀『至暮(シグレ)』、千里を見渡すとされる鏡『臨嶺(リンネ)』。


 それらは、由一と新の父親を殺し、永が奪った。

 ――と、本人が言っていた。


 当時、現場にいなかった由一には、本当かは分からない。

 しかし、それらの品が永の手元にあるのは確かだ。


 かつて、父は言った。


 ――この町には昔から、八百万の神が存在していると言われている。八百万の神が人間の邪気に触れると、『堕ち神』となる。それを鎮め、在るべき場所へ返すのが湯山家の裏の仕事でな。……人間に堕ち神が宿ると、元の神の力が使えるようになったり、運が悪けりゃ気が狂ったりすることがある。


 ――あいつのように。


 と。


 その『あいつ』が高暮永の父親であり、自分の父親が殺したのだと知ったのは、永が由一の父親を殺したと告げた時の話である。


 永の目的は、復讐だ。


 但し、父親を死なせた()()に対して、その矛先は向いている。

 即ち、『神』に対しても同等である。


 堕ち神になるには(原因)がいる。

 ならば、その存在をなくせばいい、と。


 顕現しうる神を探すために臨嶺を。

 通常殺せない神を殺すために至暮を。


 永は、持ち出した()()()()


 しかし、神隠し事件が起こり、由一は疑問に思い。


 ――再会した永は、堕ち神を作り出していた。


 しかも、そのことに対して永は疑問を感じてはいないらしかった。


 臨嶺と至暮の妖気に取り込まれたか、と由一は考えた。

 封印されていたモノは、神の力を宿している品もある。


 まだ、人としての意識はあるようだが、それがいつまで保つかは分からない。


 ――永自身が堕ち神になる前に、彼を殺さなければならない。


 親友として。

 必ず、終わらせる。


 ――叉乱に、取り込まれる前に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ