9、切り捨てられたのは
「沢城枝里奈が自殺したそうだよ」
淡々と言われたその言葉に、江理は身体を強張らせた。
「え……」
骨董屋兼自宅である湯山家の居間。
江理は由市に呼び出されていた。
「報告に依ると、沢城家では両親が離婚するという話があったらしい。しかし、両親共に一人娘である沢城枝里奈を押しつけ合うばかりだったそうだよ」
由市が言う。
「永君も枝里奈ちゃんを放ってどっか行っちゃったみたいだしね。『見捨てられた』と思ってしまったのかも知れない」
――先日の戦闘とも言えない邂逅の後。
沢城枝里奈は、自宅の玄関先に倒れていたそうだ。
発見者は母親で、彼女は病院に運ばれたらしいが、身体に異常はなく、検査後に家に帰ったらしい。
結果。
沢城枝里奈は、自ら命を投げ捨てた。
小学生が下す決断にしては、あまりにも。
「…………」
「気にしてる?」
「そんなんじゃありません。……ただ」
「ただ?」
「…………」
江理は口を動かすが、声は出ない。
だが、由市には想像が付いていた。
「……私は……人を殺しています」
絞り出すように、ゆっくりと江理は言う。
「友人を……友達だと、思っていた“彼女”を、私は……沢城枝里奈と同じように」
殺したのに。
少女は死んだのに。
私は、生きている。
「……江理ちゃん」
由市は目の前の少女を見た。
「これから先、また同じような事が起こると思う。それは君も理解していた筈だよ」
「……分かっては、いますが……」
「慣れようとは思わないで。その感情に慣れてしまった時、君は“向こう側”の人間になる」
彼女が殺した友人と同じ側に。
自殺した少女と同じ側に。
だからこそ、由市は江理を呼び出した。
自分と似た名の、自分と同じ性質の少女に、江理はきっと自身を投影していただろうから。
そして、その予想は的中していた。
――江理が帰宅した後。
由市は『叉乱』を手に取った。
人の感情を糧に、力を発揮する妖刀。
故に、この刀を手に入れた人間は容易に他人を殺めたと言う。
――七年前。
由市はこの刀と、そして少女と出会った。
次話で完結します。




