序章
――夕暮れ時。
逢魔が時。
『黄昏』、または『誰彼』。そんな時間帯。
草や木、路地すらも赤く染まる世界で、二人の少女が歩いていた。
小学生らしく、ランドセルがカタカタと音を立てる。
普段通りとも言える少女達の帰宅途中に、『それ』は起こった。
「ごめんね、ヨウちゃん」
黒髪を三つ編みにした少女が言う。
「いいよ別に」
短い黒髪の少女が答える。
「こんなに遅くなっちゃって……」
「そう思うなら、今度から早く終わらせてよね」
「うん……」
三つ編みの少女はうなだれた。
二人は本日、日直の仕事を一緒にしていたのだが、日誌を書くのに手間取り、夕方までかかってしまったのだ。
手間取ったのは、自分の所為なのだと三つ編みの少女は認識していた。
生活する全ての点に於いて、少女は他人より劣っていると思っていた。
何で自分は鈍いのかなぁ、と落ち込んでいたその時。
黒いものが視界に入った。
一瞬後。
「……え……?」
急に視界に飛び込んできたその光景に、少女は目を疑い。
そして。
――少女の尋常成らざる悲鳴を聞き駆けつけた人々がまず見たもの。
それは、赤く染まった地面だった。
夕暮れの太陽よりも紅いそれは、鉄を含んだような臭気を発していた。
その正体が何であるのかは、近くに落ちていた物体で誰にでも察する事が可能だった。
引きちぎられたかのような断面を見せる【それ】。
子供のものであろうその腕は、主を失い、血の池の中でだだ存在していた。
――身体の一部を残して消える、異様な失踪事件。
それは主に夕暮れに起こっていた。
場所も、時間も様々だが、失踪する状況はよく似ていた。
何の前触れもなく、目の前にいた人間が突如居なくなるのだ。
複数の人間が傍にいても、目撃者は何故か存在しない。
不思議と、失踪した人間はふらりと自宅に帰って来る。
身体の一部と記憶を失って。
それでも生きて、帰ってくる。
不可解な現象。それ故に、人は恐怖を煽られた。
――誰もが恐怖を覚えるようになったその事件を、追う人間が存在する。