サヨの乱心?
◇
血を煮詰めたような小さく円らな瞳が、こちらを見ている。
どうかしたの?
そんな風に首を傾げてすらいる。
「サヨッ!早く吐き出すんだ!!」
俺はサヨの胴体を引っ掴み、ホイップクリームを絞り出す要領でしごいた。
ギュッ!ギュッ!とサヨが不機嫌な声を出すのも構わず、なんとか指輪を吐き出させようとした。なかなか吐き出さないので後ろ足を両手で掴んで上下に無理矢理揺すったりもしたが駄目だった。
チカに「ちょっとヤギリ氏!かわいそうだよ!?」と言われて俺はサヨを離した。
キュキャキャッ!
何すんのよ!乱暴者!と怒られたのがわかった。毛が少し逆立っている。
直後、サヨは走り出した。
「あっ!」
機嫌を損ねて逃げたのかと思った。だが違った。
なぜかサヨは近くにあった大樹の根元に齧りついた。
「ほらヤギリ氏~!チカちゃん機嫌悪くして凶暴になっちゃったよ!」
「いや、そりゃ……機嫌悪くしたのはわかるけど、噛みつくとしたら俺じゃないか?」
あるいは俺に噛みつくのを遠慮して代わりに木を?とも思ったがそれは考えすぎだろう。
サヨは木に噛みついてなかなか離れない。
すると、森がざわつき始めた。
何かが低く唸っているように、大気が苦悶に揺れる。
なんだ?森の木が痛がってるのか?
「どうも様子がおかしいねぇ」
キュキュッ!
いつの間にか木から離れていたサヨが鳴く。少し走って振り返り、また鳴く。
ついてきなさい。と言っているようだ。
「サヨがついてこいってさ」
サヨは走った。時々止まっては木に噛みつき、また走るを繰り返した。そのたびに、森がざわついた。
小さな案内人について行くこと数十分。
俺たちは森を抜け、村の傍の林へとたどり着いていた。
「森を抜けた……!」
キュキュキュッ!
どうよ。感謝しなさいよ。
顔だけこちらに向けたサヨが自慢げに鳴いた。でもまだどこか不機嫌そうだ。
「よ、よくやったサヨ~~~!さっきは乱暴に扱って悪かった!」
俺は優しくサヨを抱き上げると、精一杯可愛がるようにして撫でまくった。
キュ、キュ、キュ……と小さく喉を鳴らしながら満足そうに目を閉じている。機嫌は直ったようだ。
でも、お前が指輪を飲み込まなくても俺が自力で森を抜けれてたと思うんだけどなぁ?というか指輪回収できるか?排泄を待てばいけるか?
「お手柄だねサヨちゃん!」
「どうやって迷いの森を抜けたんだろうねぇ」
「多分、飲み込んだ指輪の効果だと思うんだけど」
「どんな効果だ」
「え、え~と『不可視の物を見通すことができる』んだっけかな」
「へぇ。それはいいね。でもサヨに食べられたのは勿体ないなぁ」
「ほんとうにそう思うよ」
目の保養ができなくなったからな。ちょっと……いや、かなり残念だ。まさかとは思うけど、サヨはそれを阻止しようと……?
んなわけないか。
「なあヤギリ。そいつ少しでかくなってないか?」
キリバがサヨをのぞき込んでくる。
「ん?そうか?そんなことは無いと思うけど……」
試しにいつものように首に巻いてみる。
……やけにモフモフとした圧を首に感じる。森に入るまでは時々いるのを忘れるくらいだったのに。
「……指輪喰って太ったか?」
キュッ!
そんなわけないでしょ!
と、言っているに違いない。
ふと、アルミナからの視線を感じた。
何か言いたげにじっとこちらを、どちらかと言えばサヨを見ている。「どうかしたかアルミナ」と聞くと「なんでもない」と答え、そっぽを向いた。




