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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第二章 ~アシバ皇国:白ムジナ盗賊団~
88/93

迷いの森とガメスの俯瞰


   △


 ヤギリ達はそれぞれ目的を達成し、遺跡の試練を乗り越えたかに思えた。

 だが、そうではなかった。

 試練は村に戻るまで続いていたのだ。

 ヤギリ達がそれに気づいたのは大森林に足を踏み入れてから20分ほどが経過してからだ。

 村の方角はサーベイが把握しており、一度は自力で村まで戻った経験もあるため、特に問題はないように思えた。

 しかし、先頭を歩くサーベイの表情は少しずつ険しくなっていき、ついに「まずったかもねぇ」と異変に気づく。

 ピキリーナ大森林は、巨大な迷いの森と変貌していたのだ。


 いったいどういう仕組みなのか。

 ヤギリ達はざっくり三つの可能性を考えた。


 地形が常に変化し、自分たちの行き先が操作されている。

 魔術的な措置によって空間が歪み、元の場所に戻される。

 自分たちの認識が変えられ、進んでいるつもりが戻っている。


「認識変えられたらヤバくない?」


 チカが言うとおり、ヤバい。が、認識は変えられていない。アルミナも「それはない」と強く否定したので候補から除外された。仮に変えられていたとしても、アルミナであれば元に戻すことができただろう。

 考えられる原因が二つに絞られたところでキリバがあることに気づく。


「お前空飛べるんじゃないのかよ」


「ハッ!?そうだった!」


 言うやいなや、チカは上空へ飛び立った。木々の枝を避けながら、見晴らしの良い場所へと、木々の背を、越えることが、できなかった。

 森の外へ飛び出したと思った瞬間、頭から森の中へ突っ込んだ。上下逆さまになった形だ。


「わわわーっ!?」


 直ぐに急ブレーキをかけ、反転してまた森の外へ。何度か繰り返して、チカは諦めた。


「空間が歪んでるってことだな」


 結論は出たが、問題はどうやって突破するかである。

 五人は果たして森を抜け出すことができるのだろうか?


   ◇

 

 最初にアルミナに確認してみた。「この状況をなんとかできるか?」と。

 答えは「今はまだ無理だ」らしい。力が完全に解放されればできるということだろう。

 他の三人にもなにか案がないか聞いた。結論から言うと何もなかった。

 サーベイやキリバは完全にお手上げで、チカは一度森に向かって魔砲をブッ放してみたが、巨木の間を縫うようにすり抜け、途中で魔力が霧散してしまった。

 後は、遺跡で手に入れた物を活用するくらいしか思いつかない。

 指輪に宿ったヴァスコーは「俺様しーらねッ」という態度。サーベイのアルマ・ピキリーニスは特別な効果を持っている様子はなく。キリバとチカの金銀財宝はもちろん役に立たない。

 残るは俺だけなのだが……。

  

 心眼の指輪と、頭に仕込まれた何か。


 指輪は役に立つだろう。もう一つの方はいったいどう活用したらいいのか……。


〈メニュー画面を開いてください〉


 悩んでいるところへ久しぶりの電子音が頭の中に響いた。

 言われたとおり開くと、一覧に『マップ:ガメスの俯瞰』という項目が追加されている。


 そこで思い出す。


 そうか!これがムヅラの爺様が言ってた『神の目の地図』ってやつか!

 すっかり忘れていた。白ムジナの宝の情報とアルミナの能力解放ですっかり満足してしまっていた。というか、頭の中に直接仕込まれるとか思わないだろ……。あの王の霊もろくに説明してくれなかったしな。

 あれ?そういえば宮殿の廃墟とかって爺様言ってなかったか?チカの救出の後神殿と墓所にしか行ってないが……まぁ目的のものは手に入ったからいいか。

 まずは今のこの状況をなんとかしないと。


 マップを開き、大陸の地図を表示する。大部分が雲に覆われていて見えない。見えているのは自分が一度通った場所とその周辺だけだ。

 カマルナム、コサ、コルペイロ、ムロノスなど今まで訪れた町や都市は地図上に名前が表示され、領域全体がはっきりと見える。なぜかフドの村だけ表示されていない。

 町への高速移動……はできないようだ。それは仕方ないとしても、全体マップはとても助かる。

 だが、これを今どう活用すればいいのか。


〈『ガメスの俯瞰』は三段階のモードがあります。一つは全体マップ。二つ目はミニマップ。三つ目は三人称視点です。それぞれにズームの機能もあります。今回はミニマップモードを活用してください〉


 ナビが説明を終えると強制的にミニマップが表示された。大森林の全体図と自分たちの位置がわかる。俯瞰の様子も、現実の景色と簡略化した図面のようなものに切り替えができるようだ。他にも細かい所だと指定した人物の強調表示などの機能がある。


 なるほど。これは便利だ。しかし、これだけでは森を突破できなそうだが……?


〈心眼の指輪を装着してください〉


 我ながら察しが悪い。「見えない物を見る」のだから、あの指輪はめちゃくちゃ重要じゃないか。

 とにかく、この指輪とガメスの俯瞰をうまく使って迷いの森を抜けろって事だな。

 

 メニュー画面を閉じ静止していた世界が動き出す。すぐに俺は一度ポーチにしまった指輪を取り出した。

 なぜ一度指輪を外したかというと、さっきの竜魔族の角の話のあと、妙にアルミナの下半身を意識してしまって、指輪が能力を発揮しかけたからである。

 大丈夫だ。今は森を抜けることに意識が向いているから、問題は無い。使い終わったらまた外そう。

 俺は左手の中指に指輪を近づけた。

 

 その瞬間、右手に黒い影が飛び込んできた。

 

 サヨだ。

 

 彼女のタックルによって軽い衝撃を受け、指輪を地面に落とす。


「おいおいサヨ。イタズラはあとにしてくれよ」

 

 そう言って指輪を拾おうと思ったが、できなかった。


 地面に落ちた指輪を、サヨが疾風のごとき速さで口に含んで飲み込んでしまったからだ。


「さ、サヨォォオオオオオオ」


 俺は膝から崩れ落ちた。


ヤギリ GNP+1

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