奉神火台と供物
△
神殿外の大階段を登り、ヤギリ一行はピキリーナ大祭壇へとやって来た。
神殿屋上の中央はさらに数段高くなっており、最上段には儀式に使うための炉がある。床を四角く切り取ったようなもので、四隅には円柱が一本ずつ立っている。
その祭壇は奉神火台と呼ばれており、儀式の際、開拓の神に捧げる供物を焼く為に使われた。
森を拓くために使った道具、伐採した木の端材、地面を掘り起こした際に出た小石、獣の血肉や骨などが供物とされていた。時代が進むと、ピキリーナの神樹から切り出した木材で武具を模した物を捧げるようにもなった。
アルミナが神殿の最下層で手に入れた儀礼用メイスは、まさにその儀式で神に捧げるための武具であったのだ。このメイスは普段、司祭が祈祷する際に神具として用いられており、供物として捧げられるのは国難に見舞われた場合である。
実際に、ピキリーナに国難は訪れた。
しかしメイスが供物として捧げられることはなく、神殿の地下深くに納められることになったのである。
そのメイスをアルミナが手に入れ、今、祭壇の炉にくべようとしている。
因果だよなァ。
ヴァスコーはそう思うのだった。
◇
俺達はヴァスコーからの説明に従って、祭壇の炉へと登る。
〈おっと。お前らはそこの段までだ。こっから上は司祭しか来ちゃいけねーんだぜェ〉
「わかりました。それで、奉神火台で燃やすのはこの二つに分かれたメイスでも問題ないのですか?」
〈問題どころか、むしろその方がイイんだなァ。昔と違って純粋な開拓神じゃァないからよォ〉
「というと?」
〈破壊の神でもあるわけだから、壊した物、壊れた物を捧げるのもアリなんだよ。とくに、『壊しにくい物』は効果が高いぜェ?〉
「頑丈な物ってこと?」
チカが興味深そうに聞いてくる。
〈それもあるがァ〉
「稀少で高価な物とか」
〈そういうことだァ。壊すことが躊躇われるような物をあえて壊して捧げることで、俺様からより大きな力を得られるってわけだ。今回はすこーしばかり特殊だがなァ!〉
ヴァスコーが言うには、昔は森の木をたくさん切る時や広い土地を耕す時、他にも大きな建造物を建てたり、年の初めと終わりの祈祷、感謝を伝える祭りの時に、特別な供物が用意されたそうだ。
〈あいつら、いろんなもん寄越しやがったなァ〉
「あまり嬉しくなさそうですね」
〈そんなことはねェよ?つーか感謝の祈りの時は酒とか食いモンくれるしそれは嬉しいんだけどよォ。ただ一回だけ、ちょっとな……〉
「聞かない方がいいですか」
「人間の生け贄を捧げた事かなぁ?」
そう言ったのはサーベイだった。
「え?」
〈あァ……お前、そうか。うっっすいがァピキリーナの血が流れてんナァ?末裔に伝わる古文書でもあったりするカ?〉
「古文書じゃなくて古い絵と口伝による物だね。大昔から伝わる物だから所々正確じゃないとは思うけど、えーと?『国に困難が訪れた時、人々は開拓神に一人の少女を供物として捧げた。少女は生きたまま焼かれ開拓神の元へと贈られたが、開拓神はこの行いに激怒し、困難を救うどころかその手でピキリーナに滅亡をもたらした』って感じだったかなぁ」
〈マ、大体ソンなところだなァ。まぁ今はもう怒ってねぇから安心しろヨ〉
怒ってたら困る。




