指輪に宿った破壊神
◇
笑い声の主は破壊神だとアルミナは言う。でも、それがどうして指輪から?
「なんだヤギリ。ヴァスコーを知らないのか?」
「知らないな。キリバは知ってるのか」
「俺だけじゃなくて皆知ってるだろ。少なくともこの周辺の国に住んでたらな。そうか、お前は東方から来たんだっけな」
サーベイを見ると「もちろん知ってるよ」と軽く手を振っている。チカは知らないからか首を振っている。
「ヴァスコーはおとぎ話にもよく出てくるからねぇ。大抵の人にとって子供の頃から馴染みのある神様だと思うよ」
「子供の頃から破壊神に馴染みがあるのか……」
それもどうなんだ?
「もしかしたら怖い印象を持ったかもしれないけど、そうでもないんだなぁ。混同されやすいけど『死を司る神』や『殺戮の神』とはまた違うし、物語でも結構愉快な神様として描かれてるからねぇ」
「そうなのか?まぁそれはいいとして、なんで指輪からヴァスコーの声がするんだ?」
アルミナに問いかける。すると自分で答えるかわりに地面から腕を抜いて指輪を見せた。
地味な印象だった銀の指輪の形状が変わって、まるで怪物のような顔の装飾になっている。地面に叩きつけられて破損したからではなさそうだ。
指輪の顔がぐにゃりと歪み、堰を切ったように喋り始めた。
〈この指輪はなァ!依り代の指輪っつって装着者の信仰してる神によって得られる効果が変わる便利なモンだ!信仰心の強ぇー!ヤツほど高い効果が得られるんだぜぇ!まア何も信仰してねぇ人間にゃ意味がねェし!信仰してても司祭になれるレベルのヤツじゃねェとあんまり旨味はネエかもなァ!!言っとくけどなァ!俺様がこんな風に指輪を介して喋られるなんてのは普通はムリなんだゼェ!?それこそ最高司祭クラスじゃねぇとなぁ!イヤ?最高司祭でも神の気分次第じゃ指輪に宿らねえ事もあるだろうなァ!それにしても面白いもん見させて貰ったぜぇ!!アルミナのあんな顔は滅多に見れるもんじゃねえからなァ!ギャハハハハハッガッ……〉
ヴァスコーの指輪は再び地面に沈んだ。
ひとまず指輪についてはわかった。だけど新しい疑問が湧いた。
「アルミナは破壊神を信仰してたのか?」
「一応、な。話せば長くなる。おいヴァスコー。次笑ったら燃やすぞ」
そう言って再び指輪を見せる。
〈アルミナはなァ!一般的な信徒と一緒にしたらいけねェ!ある程度はァ信徒としての感覚を持ってるがぁ教義やらお祈りやら布教やらそーゆーのとは縁がねェ!コイツは行動理念というか信念というかな!『壊す』事こそ全てってヤツなんだ!生きる経典って感じかァ!?早い話が俺様の一番のお気に入りだから最高司祭なのよォ!おーっと!コイツの名誉のために言っておくが!何でもかんでもぶっ壊して悦に浸るようなヤバい女じゃねぇぞ!?壊すべきモンと壊しがいのあるモンと自分の邪魔をするモンをチャーーンと選んでるからなァ!!ちなみに俺様は破壊神とか言われてるけどな!それだけじゃねェんだぜ?昔は破壊と開拓を司る神っても言われてたんだゼェ!?〉
「ヴァスコーの言葉には大雑把な所と誇張されている所があるが、概ね合っている」
指輪をジト目で睨み付けながらアルミナが言った。
「ちょっと待ってくれ。開拓を司る神って……?」
〈オウ!ここまで言ったらわかっちまうと思うがなぁ!ここの神殿に祀られてたのは大体俺様ってことよ!大体って言うのは、昔とはちょっと性質が変わってるからだなァ〉
「じゃあ神殿であんなにスラスラ先に進めたのは」
〈俺様のおかげだナァ。ちなみに指輪がなくてもアルミナには俺の声がいっつも聞こえてるからナァ!〉
それはなんかやかましそうだな。アルミナはいつも涼しい顔をしているからわかりにくいけど、うるさくないんだろうか?
「そんなことよりもヴァスコー、メイスが壊れてしまったぞ。これでは使えないではないか。なんなんだこの棒きれは」
〈安心しろよ!そいつは『スクォーンメイス』つってな、武器として使うもんじゃねぇからよ!てか最初から儀礼用って言ってるだろォ?おめぇーは頭いいのにごく稀にアホな事するからなぁ?神殿で手に入れた時に、このまま放っておいたらメイス壊して面白いことになりそうだと思ってたら予想通り……あッやめろッ!燃やすなッ!教えるから!使い方教えるからッ!!悪かったって!〉
「早く教えろ」
〈神殿の外に階段があったろ?あそこを登ったら大祭壇があるからまずはそこに行きな。ちゃんとメイスの残骸も拾って持って行けよ!〉
俺たちはヴァスコーに言われたとおり、再び神殿へと向かった。




