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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
プロローグ:『守護英雄の召喚』
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暗夜への岐路2 「楽しい夜は更けて」

  

   △


 王の宣言で宴がお開きとなった後も、賓客用の談話室へ案内された11人の男女は賑やかに騒いでいた。まだまだ宴の興奮が冷めないようだ。


「楽しかったなあ」


「そうっすね~最っ高だったっすね~」


 ミツルギとベスバーが肩を組んで笑い合っているのを見たヤギリは笹川に尋ねる。


「あの二人はいつの間に仲良くなったんだ?」


「さあな。俺もわからない」


 ヤギリと笹川はミツルギと同席してから随分と酒を飲んだ。それは他の面々も同じで、ミツルギはちょくちょく席を離れては酔いの勢いで他の守護英雄に話しかけていた。

 ミツルギとベスバーはその時に、この広間で一番好みの女は誰だとか、誰が一番胸が大きいかとか、そういう話で大盛り上がりして親しくなった。もちろん、ヤギリ達は知らない。


「ベスバーが元の世界の子供さんに似てるとか?」


「14歳の女の子って言ってたじゃないか」 


「あれ?そうだっけ?」


「加藤の胸ばっかり見て話聞いてなかったろ」


「ばれてた!?」


「いや冗談だったんだが…」


「こいつ……。まてよ?という事は笹川お前も」


「それにしても、もったいないよなミツルギさん。あんな強い人が帰っちゃうなんて」


 おい話を逸らすな、と言いかけたヤギリは笹川の言葉に疑問を持った。


「……そんなに強いのか?警察官だから?」


「それもあるかもしれないけど、俺が言ってるのは昼間、平原で魔物と戦ってたときの剣の腕のことだよ」 


 笹川はヤギリに説明した。


 平原でミツルギが見せた剣での戦い方は、とてもただの剣道有段者というだけでは説明がつかないほどだった。『剣術』をやっているようにしか見えない立ち回りと戦闘センスの良さが際立っていて、現実世界では相当荒事を経験しているのではないかと思えるほど落ち着いた雰囲気だったと。


「ゲームの能力抜きにしたらこん中ではあの人が一番強いかもな」


「そうか……。全然そういう風には見えなかったけど。もしお前が剣で勝負したらどうなる?」


「そうだな…瞬殺ってことはないと思うけど、けっこうあっさり負けるだろう。ゲームの能力を含めた戦いなら話は変わってくると思うけど」


 ちなみに、現時点でもっともレベルが高いのはミツルギだということを、この2人を含めた他の10人は知らない。


「俺なんてゲームの能力使ってもあっという間にやられちまいそうだ」


「距離をとって戦えばいいじゃないか狩人さん?」


「俺のスキルまだ使えないって言ったろ?それに弓道やってたって言っても、初段なんてだれでも取れるレベルでぶっちゃけ俺なんて的にあんま当てられない方なんだよ」


「それじゃあレベル上げには苦労しそうだな」


「全くだよ。そのうえ『大器晩成』なんていう特殊ステータスがついてるし」


「まともなスキルが揃うまで俺とパーティでも組むか?」


 その言葉はヤギリにとってありがたくもあり、意外でもあった。


「そうしてもらえるとありがたいけど、いいのか?」


「なんだよ『いいのか?』って。プレイヤー同士で組んで悪いとか、協力するなとかなんて言われてないだろ?」


 笹川が言った『プレイヤー』とはもちろん異世界から来た自分達のことだ。

『守護英雄』と自分達で呼ぶのが気恥ずかしいからなんとなく二人でそう言うようになったのだ。実際、しばらくして他の七人にも伝播していつしか皆が『プレイヤー』と言うようになる)


「確かにそうだよな…。てっきり平原でやった時みたいに、ここの兵士と神官をあてがわれるもんだと思ったよ」


「そういう選択肢もありそうだけど。俺はなんか監視されてるみたいで嫌だな」


 笹川の言っていることはあながち的外れなことではないかもしれないとヤギリは思った。


ヤギリの方は、勝手に「プレイヤー同士が徒党を組んで力をつけたら主催側が危険視する」と疑っていて、パーティを組むのは許されないと思っていたのだ。


「まあ、別に問題ないなら笹川の好意に甘えるとするよ」


 よし決まりだなと言って笹川は立ち上がって部屋の外へ行こうとする。どこへ行くのかとヤギリが聞くと便所だと言う。ついでに誘われるがヤギリは断った。


「ふぅ」


 ヤギリは一息ついて周りを見る。女子3人が窓際にあるソファに集まってお菓子を食べているのが目に入り、自分もなんだか甘いものが食べたくなったが、たとえ酔っていても女の集まりの中に堂々と入っていけるほどの度胸は無かった。


 ビグ、ズシオウ、ストームの三人は疲れたのか椅子や柱にもたれかかって休息を取っている。ミズチはそれほど酒を飲んでいなかったようで、コーヒーのようなものを飲みながら自分のステータスの確認をしている。


 ミツルギとベスバーが静かだなと思って見てみると、女子達の方を見てなにやらヒソヒソ話をしている。二人のニヤけた表情を見れば話の内容は大体想像がつく。


(ミツルギさんあんた奥さんと子供いるんでしょうが)


 そんな風に心の中でツッコミをいれながらも、ヤギリは微笑ましい気分だった。


 きっとこの人は面倒見のいい人なんだ。ベスバー1人がスケベなことやって浮いたり、あるいは歯止めがきかなくなるのを防ごうとしてるんじゃないか?


 さっきだって、頻繁に席を立って満遍なく他の10人と交流してたのも、なにか全体の秩序を維持しようと心がけてたからなんじゃないか?


「警察官故に……ってところか」


 元の世界に戻ったら奥さんと子供と幸せに暮らしてほしいとヤギリは思った。


   ◇


 しばらくして笹川が戻って来た。


 長い時間が経ったようにも思うし、あっという間に戻ってきたような気もする。


 俺も随分酒を飲んだし、少しウトウトもしていたからはっきりとはわからない。笹川を待っている間ズシオウとストームに話しかけられ少し喋ったけど、内容はうろ覚えだ。


「眠そうだな」


 笹川に声をかけられ、微睡みから意識を引き上げる。


「結構飲んだからな。俺も酔い覚ましに付いて行けば良かったな」


 そう言うと笹川は「だから誘ったのに」という表情で呆れてみせた。


「皆様お待たせして申し訳ありません」


 バタンと扉を開くと同時に神官長が詫びの言葉を述べた。急いでやってきたらしく、少し息が荒い。

 お待たせしたといっても、俺はそんなに時間が経過したような気はしない。酔っていて次に何が行われるかもよく聞いていなかったし。たぶん他の皆もだいたい同じだと思う。


「もっとも、これから皆さんにしていただくことと言えば、それぞれの部屋に行ってお休みしていただくことくらいなんですよ。お部屋の準備と、ミツルギ様と美奈様の帰還の儀式の準備に手間取ってしまいまして……」


 そうなのか。それにしても……、その程度の連絡事項とか案内とかだったらもっと下っ端の人間にやらせたらいいんじゃないのか?召喚された時からずっと神官長が率先して取り仕切ってるけど、何から何まで自分の手でやらなきゃ気がすまないんだろうか?

確かにそういう性格の人間がいてもおかしくないが。


「手間取ってるってことは、私達は今夜中には帰れないということですか?」


 ミツルギさんが尋ねる。特に不満げな様子ではなく、「一晩くらいなら延びても仕方ないか」という感じだが、


 一緒に帰る予定だった加藤は不安げな表情で神官長の方を見ていた。


「いえいえ。時間はかかりましたが、準備はなんとか整いましたよ。夜分遅くの儀式になってしまって誠に申し訳ありません」


「そ、そうですか。それはよかった!」


 と言いつつもミツルギさんはほんのちょっぴり残念そうだ。加藤はというと……、少し笑みを浮かべているようにも見えるが、あまり表情の変化がないのが不思議だ。あまり嬉しそうには見えない。というか加藤のやつほとんど喋ってないな。


「さてそれでは参りましょうかお二人共」


 二人は扉の前まで来るとそれぞれ短く別れの挨拶をした。


 加藤は少々他人行儀な感じでそれほど別れを惜しんでいるようではなかったが、ミツルギさんは涙ぐんで「みんながんばれよ」と言ってくれた。思わずこっちも目の辺りが熱くなってしまった。

 二人と共に神官長が出て行くと入れ替わりで衛兵がやってきて、俺達は寝床となる部屋へと案内された。途中ベスバーが部屋に入るときに、ドレスを着た女性がいるのがチラッと目に入った。


「要領がいいな…」


 おそらく、宴の時に仲良くなった女性とうまく話をつけていたのだろう。この城の人間もある程度了承の上だろうが、本当に気前がいいというか、なんというか…。


「ヤギリ様はこの部屋であります」


 今頃部屋でお楽しみ中のベスバーと美女の事を考えているうちに自分の部屋まで案内されていた。


「お前の部屋にも意中の女がいるのか?」


「あいにくと俺は要領が悪くてね。そういう笹川兵蔵様はどうなんでしょうかね?」


「明日からの冒険に響くような真似は控えたいから何もしないさ。……というのは建前で、単純に好みの女がいなかった」


「いたら呼んでたってことか」


「さあな」


 笹川との立ち話が長くなりそうになったところで案内役の衛兵がわざとらしく咳をする。


「とりあえず、明日からよろしくなヤギリ」


「おう。こっちこそ頼りにしてるぜ笹川」


 そうして俺は部屋の扉を開けた。衛兵と笹川たちが背を向けて先へ進むのを目の端で確認したところで即座に屈み、部屋には入らずに扉を閉める。気づかれた様子はない。


「よしよし、ようやく俺の時間だ」


 人の気配がなくなったところで小さくつぶやく。


 自分がワクワクしているのがよくわかる。きっと悪い顔でニヤついているだろう。


 俺にとってのお楽しみはこれなんだ。皆が寝静まる頃に、こそこそ隠れながら金品や有用なアイテムを物色する!これが盗賊キャラの醍醐味だろう。

 チュートリアルの声がしなくなってからだいぶ時間が立っているが、とくに警告もないから問題ないだろう!


「さて、まずはどこから探検しようか?儀式の部屋とかおもしろそうな物がいろいろありそうだけど、昼間にあまりウロウロできなそうな地下とかがいいか?もしかしたら宝物庫とかあるかもしれない!それに……」


 訓練場のアレをなんとかしてやりたいからな。


 好奇心と使命感に胸を踊らせながら、俺は地下へと向かうことにした。





 この時、もしも地下へ行かなかったら。もしもあの光景を目にしていなかったら。


 どんな恐ろしい結末になっていただろう。


 本当に運が良かった。地下へ向かう選択をして本当によかった。


 ただそれでも……。


 選んだ道は暗闇の方へと、長く、長く、続いていた。



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