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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第二章 ~アシバ皇国:白ムジナ盗賊団~
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メインクエスト:小目標『墳墓を攻略せよ』4


   ◇


 おそらく蛇を象っていると思われる石像がある。片手で持てるサイズの、大きめのジョッキくらいの物で、中央の部屋の真ん中にある台座に置かれていた。

 同じように、右の部屋には人間の像、左の部屋にはまた別の蛇の像があった。

 人間の像を持って左側の部屋へ行き、蛇の像を持つと扉がしまう。人間か蛇の像どちらか一つを台座に置けば、扉は開く。



「これ、それぞれの場所を入れ替えたりは」


「もちろんやったよ。けれど、どう入れ替えても中央の部屋の、先へ進む扉は開くんだよ」


 蛇となった男はピキリーナ人を恨んでいる。おそらく地底の主の事も。消去法で考えればこの蛇の像のどちらかを中央の部屋に持って行った方が良さそうだ。左の部屋にあった蛇の像の方が、少し凝ったデザインになっているように見える。それに、ごつごつした感じで強そうに見える。


「もしかして、このちょっとしょぼい方の蛇の像を真ん中の部屋に持って行った?」


「そうそう。他の二つだと蛇と敵対することになるのかと思ってね」


 やっぱり同じ考え方なのだろう。しかし、前はそれで失敗したのだから、間違っていることになる。


「他の部屋はどういう風に?」 


「左右逆にしたよ。そうでないと、来たときと同じままになるからね」


「それが間違いだったってことか?だけど何も手を加えないで進むのが正解っていうのは考えにくい……そういう引っかけってことか」


 どのように石像を設置しても扉が開き、下の階に降りて初めて正解が分かる。そして、その時にはもう手遅れ……。これは、なかなかに厳しいのでは?


「ねぇねぇ~この台座の石像を置く部分丸くなってるけどさ、向きとかは関係ないのかな?」


「向き、か」


「部屋も丸くなってるし、なにか関係してるんじゃない?」


 そう言って、チカは壁の方へ走っていき杖を振りかぶった。


「あっ!!おい!ちょっと待て!?」


 チカは杖で壁をポンポンと叩いた。魔砲をぶっ放すのかと思って焦った。


「やだなぁ~この状況で極太ビーム出したりなんてしないよ~!」


「お前は出しそうだから怖いんだよ……っていうかそれ!」


 壁から土埃が舞い落ちて、絵のような文字のような物が浮かび上がった。

 壁に、古代文字のようなものが掘られている。そして、なんとなくその文字は、漢字に似ている気がした。


「これはファインプレイだなチカ」


「やるじゃない」


「で、なんて書いてあるんだよ」


「……アルミナ読めるか?」


「わからない」


「そうか……俺も、分からないと思う。たぶん」


「なんだか、わかるかもしれなそうな言い方だねぇヤギリ」


「確証は無いんだけどな。ひとまず、壁全体の土埃を落とそう」 


 俺たちは手分けして壁を綺麗にした。

 

 壁全体に古代文字が浮かび上がる。やはり、なんとなく漢字に似てる。一文字一文字が大きく、疎らに掘られており、繋げたとしても文章にはならなそうだ。決して文字の数は多くないが、結局わからない。


「やっぱ無理かもな……所々意味が分かる文字はあるんだけど」


「どんな意味?」


「わかりやすいのは『虚』『記』『改』『主』とかくらいかな。他は確証がない。いや、そもそも知っている物と似ているだけで違うかもしれない」


「合っていると仮定したら、『虚偽の記述があって主の内容は改ざんされている』って感じなのかなぁ」


「読み取れた部分だけでそう考えるのは危険じゃないか?」


「それってさ!わざとそこしか読み取れないようにしてるってことない?」


「うーん……」


 チカの言うとおりならいいんだが。


「とりあえずその方向で考えてみて詰まったらまた考え直そうよ。まだ焦ることないんだからさ」


 サーベイの言うとおりだ。まずはやってみてからだ。

 一応、石像の向きもいろいろ変えてみたが、それは関係なかったみたいだ。


 今度は人間の像が置かれていた部屋へ行き確かめてみると、やはり壁に文字が描かれていた。

「異端」「過」「虐」「変」「暴」とあり、二文字の熟語があることに戸惑いつつも意味を推理する。


「異端者の過ち、虐げられて、変貌し、暴れる。って意味かぁ?」


「……異端者扱いしたことが過ちだった。って意味かもしれない」


「なるほどねぇ」


「ヤギリ。これも上の階で見た伝承に関することなのか?」


 キリバが興味深そうに聞いてくる。こういう遺跡の探索や謎解きが新鮮なのか、意外にもワクワクしているようだ。神殿では謎解き要素は皆無だったから退屈だったろう。


「他に関連しそうな物はなかったから間違いないだろうな」


 男が悪事を働くようになったのは人々に異端者扱いされたからで、地底の主に生け贄として捧げられた時には蛇に変えられたのではなく、普通に食べられた。


「なんか最後だけ変じゃない?」


「俺もチカちゃんに同意かなぁ」


「だと、主の下僕ってところが嘘か」


「それで結局どうすればいいんだ?」 


 アルミナの言葉に全員が押し黙る。


「……そういえば、真ん中の部屋の先はどうなってるんだサーベイ」


「あれ、言ってなかったかな。大量の真っ黒い蛇がウジャウジャいるよ。たぶん毒もある」


「そこを敵対しないように通れたのか?」


「近づいたらすぐに逃げていったのさ。急に潮が引いていくみたいに。それで、俺たちは上手くいったと勘違いしたわけさ」


「逃げないし、襲いかかってもこない。そういう状態にしなくちゃいけないのか」


「なんでそんなに蛇のご機嫌取りしなくちゃいけないのぉ~~!早く先に進みたいよぉ~~!!気づかれる前に全部消し炭にしちゃえば敵対しな」


「それかッ!?」


「えっ?急にアグレッシブになったねヤギリ氏」


「それじゃない。ご機嫌取りの方だよ!人間の像を中央に持って行こう」


 俺は、中央の部屋の蛇の像と左の部屋の人間の像を入れ替える形にした。 


 そして、扉が開いた。


「この配置は一度試したことあるよ」


「まぁまぁ、ここからが大事なんだよ。そしてこの人間像を持って……」


 扉が閉まる。


「……あれ」


「像を移動させる必要があるから、三つの部屋の入り口は台座に一つ空きがあっても開いたままだけど、奥に続く扉はそりゃ閉まるよねぇ」


「この状態なら開いたままになると思ったんだけどな」


「てか、どうするつもりだったんだよ」


「蛇はピキリーナ人を恨んでるだろうから、この像を持って行けば蛇の注意が逸れるかなぁ~なんて」


「扉がしまっちゃうもんねぇ」


「駄目かぁ……」


 像を台座に置き直す。


 振り出しに戻った。どうすればいい?さすがに焦ってくるな。いっそチカの言うように敵対する前に蛇を全滅させてしまうか?

 アルミナが台座の像を触っている。薄汚れた像を撫でる綺麗な褐色の指が、妙に艶めかしい。


「これ、石じゃなくて木だな」


「えっ?」


「燃やしてみるか」


「えっ?……いやそれはちょっとま」


 ボウッと、人間の像は翡翠の炎に包まれた。そして木製の像はあっという間に焼失してしまったのであった。

 

 やってしまった……。


 俺が頭を抱えようとした時、サーベイが肘でつついてきた。


「見なよヤギリ。扉が開いたままだ」


「……ほんとうだ」


 これが正解ということだろうか。俺は別に構わないが、木像が無くなってしまって後の挑戦者が困らないか心配だ。


「よーし!そんじゃあ行こぉ!」


 チカが張り切って走り出す。


「ちょっと待てって!まだわからねーんだから、ああもう!」


 慌てて後を追う。

 俺はそこそこ俊敏性に自信があるのに、チカは魔術で飛んでいるわけでもないのに結構足が速くてなかなか差が縮まらない。本気になって走ってようやく追いついた。

 

 が、ピンチに陥った。

 

 チカと俺は少し広くなった通路のど真ん中で、蛇の大群に囲まれてしまったのだ。


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