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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
プロローグ:『守護英雄の召喚』
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暗夜への岐路1 「宴」


   △


 陽が落ち、カマルナムの地を暗闇が包み始めた頃、『ジグスレイ城』では盛大な宴が開催されていた。


 城の大広間では未来の守護英雄たる男女の為に、ありとあらゆる(もてな)しが為されており、料理はもちろんのこと、酒や煙草、見目麗しい給仕達や踊り子達、優美な音楽、魔導士や奇術師による見世物など、何もかもが華やかであった。


 異世界から来た者達から見ても、この宴に尋常ではない費用と人材が投入されているとすぐに理解できただろう。気づいたものがいるかはわからないが、大広間に用意された家具や調度品も、王国における最先端の技術を駆使して作られたものなのだ。



 そんな誰もが羨むような接待を受けている中。広間の中心からは少し離れたソファで、異界人同士で酒を飲み交わしている者が2人いた。


 ヤギリと笹川だ。


 無論彼らも最初は、胸元を大胆に開かせたドレスの美女達に酒を注がれたりして楽しい気分を味わっていた。しかし、まだ何も成果を上げていない身分で英雄扱いされ、波のように押し寄せる気遣いやさまざまなお誘いの数々に落ち着かなくなり、逃げるようにして今の場所に至る。


 そして、女や他の給仕達が近づきにくいように、自分達だけの共通の話題で盛り上がることにしたのだ。


   ◇


「ヤギリはどっちかっていうと『剣術商人(けんじゅつしょうにん)』の方が好きそうだ」


「わかる?」


「あれだろ。兵衛(ひょうえ)の弟子で病にかかったけど凄腕の人とか好きだろ」


「そうそう!畳針で悪漢を撃退したあの人な!ああいう恐ろしい剣の腕を持ってて、病に侵されながらも慎ましく暮らしながら、いざという時は神業がかった事をやってのけるタイプって最高にかっこいいよな!」


「わかる」


「笹川はどうなんだ?」


「俺はどちらかというと、少し未熟さの残った愚直なほど一本気な若い剣士って感じのがいいな。誰かにに諭されながらも、危うい勝負を乗り切るような奴」


沢木弥平次(さわき やへいじ)は俺も好きだぜ」


「さすがわかってるな」


 歓迎と激励を兼ねた盛大な宴が開かれる中、俺達は時代小説の話で盛り上がっていた。

 笹川は俺と同い歳ということもあって、互いに砕けた態度で会話をするようになるまでそう時間はかからなかった。


「そういえば『ヤギリ』っていう名前は何からとったんだ?『仏蔵(ぶつぞう)捕物帳(とりものちょう)』に『夜霧(よぎり)源馬(げんま)』って盗賊がいたけど、もしかしてそれが元だったりするか?」


「ああ。あの盗賊は俺も好きだけど、それじゃないんだ」


 俺はとっさに嘘をついた。


「ファンタジー系のラノベに『アギリ』っていう狩人がいてさ、それにあやかったんだよ」


「なるほど、狩人だもんな」


 さすがに仲良くなったと言っても、盗賊を取り締まる側の人物の名をつけている男に「実は大好きな盗賊の異名からとった名前だ」と打ち明けるのは不用心すぎる気がしたのだ。


 あまり名前関連で話を掘り下げたくないから少し話題を変えよう。


「ところでこの豪華な宴なんだけど、めちゃくちゃ金がかかってると思わないか?」


「うん。それは俺も思った。歓迎と激励っていうのはもっともらしい理由だけど、なんだろうな、ちょっと過剰に歓迎しすぎというか、もっと他にお金かけた方が良くないか?っていうのが正直な感想だな」


 確かに、魔帝国との戦いのために守護英雄を育てるっていうなら、装備やら物資とかの支援に金を使うべきだ。それとも余程に財政が潤っていて、この程度の催しなら痛くも痒くもないということなのだろうか。


「とんでもなく裕福な国だからこの程度痛くも痒くも無いってことなのか」


「それで魔帝国に狙われてるっていう…?無くはないかもな。その辺の詳しい事情は聞いてなかったし。後で聞いてみるか」


「そうだな。神官長にでも聞けばわかるだろ」


 宴のために設けられた席の中でも一番広いテーブルの、上座にあたる方へ視線を向ける。王の席の隣に神官長ダルコンがいた。王を挟んで反対側に座っている高貴な身なりの男と何かしゃべっているようだ。


「あの王の隣にいる男。最初の儀式の間にもずっといたよな」


 笹川も俺と同じく神官長と話している男に注目していたようだ。声を潜める必要はないと思うが。


「賓客ってやつか。儀式の様子を一緒に見てたってことは、それに関わる人物ってことじゃないか?ほら、なんか費用やら準備やら手間がかかるって言ってたし、資金提供とかそういう類の」


 俺は平原から城へ帰ってきた時の、至れり尽くせりの丁寧な扱いの事を思い出す。


 玉座の間へ通され、待っていた王に労いの言葉をかけられ、傷を癒やし疲労を回復する魔法を神官達から施されたのだ。そのままこの大広間に案内され、万全の準備が整った席へと座らせられると「異世界からの客人たちよ、そして未来の守護英雄たちよ!大いに食べ、そして飲んでくれたまえ!歓迎と激励の宴を存分に楽しんで、明日からの励みにして欲しい!」という王の言葉を合図に、息つく暇もなく豪華な宴が始まったのだ。


「資金提供かその可能性はあるかもな」


 笹川も同じようなことを考えているのだろう。


 なにか思案を巡らせているようにした後、笹川は視線をゆっくりと変え、広間を注意深く眺め始めた。他の9人の様子を観察しているのだろうか?


 そう思って俺も同じ方を見る。


 まず一番はしゃいで盛り上がっている人間が目に入る。『分泌青年』だ。さっき給仕達との会話を聞いたところ名前は「ベスバー」と言うらしい。


 彼は綺麗な女性達に囲まれて楽しそうに酒を飲んでいる。酔いのせいもあるのか近くの女性の胸を触ったりしているみたいだ。女性達もキャーキャー言っているのだがそこまで嫌がっている様子ではなく強く拒絶もしていない。英雄の特権というところか?俺は真似したくないが。


 その近くにいる「ミズチ」という男は気に入った女を口説いているようだ。横目でベスバーの振る舞いを見て、少し呆れたような顔を見せている。儀式の間で最初に会った時からあまり目立っていなかったし喋っているところもほとんど見ていない。頭が良さそうでなんとなく冷たそうな感じのする男だ。 


 唯一の魔法使いのメガネ女「ギャラクチカ」と唯一の拳闘女子「志田蒔乃(しだ まきの)」は同じテーブルで向かい合って座っている。


 二人のことを勝手に「チカ」「シダマキ」と呼ぶことにするとして、チカは果物のジュースを飲みながらひたすらステータス画面をいじっているように見える。給仕が飲み物を持ってくるのも気にせず、ひたすら自分の世界に入り込んでいる。いつもは間延びした喋り方をしているチカだが、こういう時になると普段と違い尖った気配を見せる。


 シダマキはまさしく武闘派女子といった感じで、ひたすら肉料理を食べている。そして線の細い感じの美男子を見つけると無理やり引っ張って自分の隣に座らせている。座らせるだけで話したり飲み物を注がせたりとかは一切しないのが変わっている。


 11人の中で最年少と思われる高校生くらいの少年「ストーム」は、楽しさ半分心細さ半分という感じだ。それを気遣ってか、ハーフの青年「ズシオウ」が何か話しかけているみたいだ。まだほとんど会話もしていないが、この二人はとても好感が持てた。 


 最後に、分泌青年の次に目立つグループの様子を窺う。


 「ビグ」という名前がとても似合う大柄な青年。武器が斧ということもあって、ゲームに登場する木こりキャラがそのまま顕現したような存在だ。そして期待を裏切らない温和で朴訥そうな顔をしている。見た目どおりの穏やかな性格なのだろう。元の世界へ帰る予定の「ミツルギ」と「加藤美奈」の話を静かに聞いている。


 加藤の方はどちらかというとビグと同じように聞き役に徹しているようで、酔って上機嫌のミツルギがほとんどじゃべっているようだ。それでも話の内容は良いのか、二人とも微笑ましい表情で耳を傾けている。


 愉快に笑っているミツルギと偶然目が合う。


 こっちの視線に気づいたミツルギはニコニコしながら立ち上がり、陽気な足取りでこっちにやって来た。手に持ったグラスから酒が零れないか心配だ。


「剣士仲間が来るみたいだぞ」


 笹川に「お前が相手をしろよ」という意味をこめて言った。


「さ、て。何の用だろうな」  


「やあやあ!お二人さん今日はお疲れ様でした!」


 勢いよくお辞儀をされたのにつられてこっちも深々と頭を下げ「お疲れ様でした」と言ってしまう。


「主役達がこんな端の方でいったいどんなヒソヒソ話をしてるんだい?」


 なにか悪巧みでもしてるのかい?みたいなノリですごく楽しそうだ。最初とは違って好印象を受ける。


「実はこのヤギリとは共通の趣味の話で盛り上がってたんですよ。湖凪正太郎の時代小説なんですけど」


盗賊改(とうぞくあらため)のやつかな?」


「知ってるんですか?」


「まあちょっとだけね。ほら、コンビニで分厚い漫画本で置いてたりするし、たまにテレビで見たりするから!俺って元の世界じゃ警察官だから、ほんとはもっと詳しい方がいいだろうけどね!いやそんなことはないか!ハハハ!」


 俺は『警察官』という言葉に内心ビクッとした。


「へえー!警察官なんですか!どおりで」


 なにやら笹川が反応している。少し興奮気味だ。気になる。


「そーなんだよー警察官なんだよー。だからさ、こっちでファンタジーな冒険を楽しみたいけどさー、そうもいかないんだよねー。それに!嫁さんと子供が待ってるから!ほっとくわけにはいかないでしょ!」


 俺と笹川はそこでようやく納得した。


 それは帰らなきゃならないよな。うん。加藤美奈にもきっと同じような理由があるのだろう。


「全くそのとおりです」


「でしょう?俺ももう四十だけどゲームは大好きなんだよ。こんな素敵な世界ないよ!?だけど現実の家族とは比べられないからねー!だから、せめて今夜はおもいっきり楽しんで食べまくって飲みまくって異世界の空気を堪能するんだ!そういうわけで、明日からの冒険の日々は君達に任せたからな!それと!君らもあっちの席で一緒に飲もうぜ!」


 ミツルギの言葉と人柄に安心した俺達は、同じ席で酒を飲み交わすことにした。

 

 現実世界の大切なものの為に、この楽しい世界との別れを決意する。彼はきっと素晴らしい大人だ。この世界を冒険する時にこういう人がいたらきっと頼もしいんだろう。……すこし残念だな。


 ミツルギと笹川が剣道の話で白熱する様子を眺めながら、そんなことを考えていた。


 ふと窓の外を見ると、辺りはすっかり暗くなっている。



 

 夜が、そこまでやって来ていた。



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