メインクエスト:小目標『遺跡で暴れている魔砲使いを止めろ』2
△
ピキリーナ大森林の樹木は、聳えるという表現が相応しい逞しさで幹を伸ばし、輝く様な瑞々しさを放っている。
動物や鳥、虫の鳴き声がどこからか常に聞こえているのに、不思議な静けさに包まれていて、生い茂る植物たちが息を殺して人間を観察しているかのようだ。
森の賢者たちに見守られながら、墓守とヤギリ一行は遺跡を目指し歩いていた。
◇
森の奥が見えない。遺跡はよほど深い所にあるのか?歩きでは随分時間が掛かりそうだがチカの救出は間に合うだろうか。
不安に思いつつ歩を進めて数分が経った頃、突然視界が開け古い遺跡群が姿を現した。
「えっ?もう遺跡に着いたんですか?」
俺が驚いていると数歩前にいるサーベイが懐かしむように「オレも最初はびっくりしたぜ~。後から聞いた話だと森のけ」
「サーベイ殿」
ペイダンから釘を刺されたサーベイは「おっと。この話は試練を終えてからだったな」とわざとらしく肩をすくめてみせた。
森の……なんだろう。迷いの森みたいに正しいルートを通らないと村に戻されるような仕組みがあるんだろうか?
ひとまず森の不思議な現象については後に教えてもらう事にして、今は目の前の遺跡だ。
遺跡群の中心部に近づきつつペイダンの話にも耳を傾ける。が、その話にはいまいち集中できない。
何故なら、周りには見たこともない大型の四足獣がウロウロしていて、墓守と同行していれば襲われないと説明を受けていても警戒してしまうからだ。
歩きながらペイダンはいくつかの遺跡を指さした。
「あれが試練の遺跡のうちの二つ『保管庫』と『宝物庫』です。その横の大きな通りを真っすぐ行った先にあるひと際幅のある遺跡が王族の墓所です」
保管庫と宝物庫は王朝の後期に建てられたものだからか、複雑な意匠が施されており、他の遺跡よりも高度な建築技術が使われたのだとわかった。王族の墓所も比較的近い時代に作られたようで、建築様式は単純に見えるが似通った部分がある。あるいは、墓所と言うことであえて簡素で地味な造りにしたのかもしれない。
そして、俺達の目の前にある神殿だけは、他の遺跡と一線を画すと言っていい程、非常に古く単純な構造の建物だった。
ピキリーナ王朝の最初期に建てられたものなのだろう。
大きな円柱の建物が二段あり、一階部分は二階部分よりも大きくなっている。
そして、祭壇となっている屋上部分へ続く石階段が真っ直ぐ伸びている。一階の入り口は階段の両脇にあるようだ。
神殿の外観を把握したところで、「ずぅぅぅん……」という低音と供に微かな地響きがあった。
これか。チカがブッ放している魔砲は。
「こんなに地面が揺れるほど強力な魔砲をぶっ放しておいて魔力とか枯渇しないのか?」
俺が呟くとキリバが答える。
「魔力を回復するアイテムとかを大量に溜め込んでるんじゃないか?」
そこへサーベイが付け加える。
「例えばマナポーションとかなぁ。それか特定の武具を使用してるんなら、根源石を使えば魔力を充填できるしなぁ」
「ふーん。そうなのか」
根源石ってなんだ?
「一応、魔力は少しずつ自然回復もするからなぁ。魔力が貯まるのを待ってるのかもしれない。休憩も無しに撃ちまくってるわけじゃないんだろうペイダン?」
「ああその通りだ。ずっと撃ち続けてるわけじゃない。二日前よりはよほど頻度が少なくなってる」
水分補給や食事は大丈夫なのか?なにも準備してないってことはないだろうけど、心配だ。まあ魔砲を撃ててるんだからまだ大丈夫だろう。
……しかし、実際はそんなに大丈夫じゃなかった。
まだ地下への階段を二つ下りた先の3番目の部屋で、俺達はついに暴走魔砲使いと邂逅したのだが。
チカの肉体は割と限界だった。水や食料はもちろん用意していたみたいだが、おそらく一日で消費しきってしまっている。水分を摂取できなければ相当危ういはずだが、魔力ポーションのおかげでなんとかなったのだろう。
俺達が部屋に入った時も青い液体の入った小瓶に口をつけ、扉に向かって片手で杖を構えて砲撃用意をしていた所だった。
人の気配に気づいて振り向いたチカの顔は悲惨という程ではないがゲッソリとしていた。なのに目はギラギラと輝いている。宇宙の闇と星の光が混在しているかのようだ。
「あ、新しい挑戦者の人たちかな?ちょっと今もう少しでイけそうなんで待っててもらえるとうれしいんですが~」
まるで自分の健康状態に無頓着な台詞が飛んできた。
「まっ……たく何をやってんだ君は」
俺は心底呆れたように言った。
「あ~……あれ?もしかしてそちら様は行方不明のヤギリ氏では?よかった~死んでなかったんだね~」
「死んでなかったんだね~、じゃないでしょもう……」
今現在一番死にそうな人間に心配されるのが一種のコメディのようで、俺は少し笑ってしまった。
とりあえずアルミナに頼んでチカを治癒してもらい。ついでに眠りの術をかけておとなしくしてもらう事にした。




