ギャラクチカのギャラクティックルート1
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時と場所は変わり、ヤギリが行方不明となって一週間が経った頃の話だ。
王都から出ないで待機しているように言われた守護英雄達は、最初の内は異世界での生活を満喫していたが、流石にそれにも限界がきていた。
街を見て回ったり、買い物をしたり、この世界の知識を学んだり、レベル上げの為鍛錬をしてみたり、それなりにやることもあったのだが、神官や衛兵による監視が思いのほか厳しく、そういったストレスが溜まって守護英雄の世話を担当している神官達への不平不満が多くなっていったからだ。
ただ、はっきりと怒りを露わにしたり、苛烈に文句を言ったりする者は少数で、それ以外はなんとなく愚痴をこぼす程度ではあったが、報告を受けた神官長ダルコンはやむを得ず守護英雄たちを西の町へ遠征させることを決定した。
その時点で既にヤギリの現在地を概ね把握し次の行動の予測もつけていた王と神官長は、西の方面への移動であればヤギリの情報に触れる機会はほぼないだろうと判断したのだ。
守護英雄たちはひとまず溜飲を下げ、遠征の準備に取り掛かった。
その中で一人、予想外の行動をとる者がいた。
それが『ギャラクチカ』ことチカだった。
ゲーム好きでオタク趣味に理解ある知性的な淑女(自称)である彼女は、夢にまで見たファンタジーの世界でじっとしてなどいらなかった。加えて言えば、胡散臭い城の人間達の決めた予定通りに行動するのが嫌だった。
状況的にいろいろと不自然な気がする城の対応。なにより乙女の直感的な判断から「この城の王や神官長信用出来ない気がする。こんな所さっさと逃げよう」と決めたのだ。
この時チカは薄っすらとした閃きで「行方不明のヤギリ氏は胡散臭い城の何かを知って逃げたか、あるいは消されたのではないか?」と思い至り、更にそこから「先に帰ったという二人もちゃんと帰れてないんじゃね?もしそうならヤバ」と脳内に一瞬の思考を巡らせる。
ちょうどそんなことを考えている時にチカはガメスからの接触を受けた。
同時に、その接触はジュミラの監視を破ってしまった事を意味する。それ故に細かな説明よりもとにかく迅速に城から脱出するようにとガメスに急き立てられる。もっとも、最低限の状況説明とヤギリの時のような一時的な能力値上昇やスキルポイントの付与の際には時間が止められていたので、急がせる必要はなかったのだが、ガメスが危機的状況の演出をしたかったのだ。
詳細は省くが、チカはガメスに提示されたシステムを最大限活用して、城の壁を吹き飛ばすほどの魔砲を放つ。そして元々固有のスキルとして使えた飛翔魔術によりあっという間に脱出してしまったのだ。
この時にチカはガメスのシステムの穴……穴という程ではないが、「可能だけど序盤ではまずできないだろう」「自力・手動では困難」な部分をクリアしてガメスでも想定外の能力を発揮している。
脱出後、ガメスはこの部分を即座に改善しチカの能力値も再調整した。チカからは散々文句を言われた。
ちなみに、チカのステータス成長やその他のシステムやインターフェースはヤギリとは別物になっている。
チカは、自らの欲望に忠実で、使えるものは使う主義である。他人の事情にも気を配らないことはないが、自分の望みを優先し、その上で他人の問題をそれなりに解決してしまうような素質・才能がある。
そういうわけで、ヤギリがあれこれ苦労し苦悩したのとは正反対に、驚異的な効率とスピードで冒険序盤の準備を整えるていくチカであった。




