メインクエスト:奪うか奪われるか3
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振り下ろした剣が空を裂く。
「消えただと?」
魔術的な瞬間移動か?だが、微かに剣の手ごたえはあった。それに出血の痕跡も。……近くにいるな。
魔族の戦士は勘も鋭かった。すぐに他の5人に状況を伝え、付近を調べるように指示を出した。
彼の予想通り、アルミナを救出したヤギリは少し離れた草むらの中へと待避していた。
ヤギリは重傷を負っていた。致命的とまではいかないがほとんど行動不能の状態で、出血もしている。
このまま逃げられればよかったけど、もう無理みたいだ……。せめて、運よくアイテム化できたアルミナだけでも開放して逃がさなきゃ……。
ヤギリは『クロトの指先』を発動し、戦士に捕らわれていたアルミナを盗んだ。
効果に書いてあった対象である『物質』に生物が含まれるかどうか分からなかった為、一か八かの賭けであった。その場合咄嗟に鎖を奪うという選択肢もあったが、時間的に不可能であっただろう。
アルミナはアイテム化してヤギリのポーチに保管されている状態で、彼女の視点では振り下ろされる剣と魔族の戦士が瞬時にどこかへ消失したように見えていた。
アイテム化している間の時間は停止しており、ポーチからの解放と同時に動き出す。故に、アルミナは一瞬の暗転の後に草むらに瞬間移動したかのようにかんじるだろう。
そして、その足元には血を流して倒れたヤギリの姿が。
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「ヤギリ……?」
心臓の鼓動が一瞬だけ跳ねる。
すぐにヤギリを抱き起こし、息を確かめた。……まだ生きている。
『イラファン』の秘術を使い、瞬時に傷を癒した。これで大丈夫だ。
「アルミナ……逃げろ」
私は己の炎で自らを焼いてしまいたい衝動に駆られた。
お気に入りの男にいい格好を見せようと過信して捕まり、切り札の使用を躊躇った挙句がこのザマだ。
そして、守ろうとしていた者の方が命がけで自分を助けてくれた。
「すまなかったヤギリ。ありがとう。またお前に助けられた」
立ち上がり敵を睨む。魔族達はとっくにこちらに気づいており、すでに四方を囲んでいる。
「どうやって逃れたかは知らんが、次は無いぞ」
ああ。次は、無い。
「心配するなヤギリ。……よく見ていてくれ」
「アルミナ……?」
体内からゆっくりと闘気を放つ。自分を中心に風が吹きだし大気を圧し広げる。草むらが倒れヤギリの姿も敵の視線に晒されるが、問題はない。
『ドルグ・プル・アルマーナ』
真言と共に煌めく翡翠の竜気が解き放たれた。
角と尾が生え、髪も肌も瞳の色も『本来のアルミナース』の物になる。
「……!貴殿はやはり!お前たち!鎖をッ!」
戦士たちは再び鎖を投げてくる。
躱す必要はない。
右手と左手の鎖を同時に力いっぱい引き寄せる。
飛ぶようにして接近してきた戦士二人の上半身を粉砕。その勢いのまま両足に纏わりついていた鎖をメイスで破壊する。
あとはもう無いのと同じだ。
地面をひと蹴り。右足の鎖を持っていた戦士を吹き飛ばす。さらに地面を蹴り反対方向へ跳び、左足の鎖を持っていた戦士を叩き潰す。
あと二人。
背後にいた戦士は鎖を手放しヤギリのいる方へ走り出した。
「愚か者め」
手をかざし、卑怯な手段をとろうとした戦士に向ける。
「ッがぁああああああああああああ」
戦士は緑色の炎に包まれ、消し炭となった。
あと一人。隊長格の男だけだ。
「お前たちを差し向けたのは誰だ?」
「……答えることはできない。いざ、勝負!」
真っすぐに向かってくる。
いい戦士だ。惜しいな。
上段からの決死の一撃。
しかし遅い。
振りかぶった剣ごと、さらに上段からの一撃で叩き潰す。
雷の如く。渾身の力でメイスを振るう。
地面には、戦士の成れの果ての肉塊がめり込んでいた。
竜気を閉じる。……今度は60秒以内だな。
振り返るとヤギリがしっかりと瞼を開いてこちらを見ていた。
恐ろしい存在だと、思っただろうか。
「……どうだったヤギリ?」
「ああ……超カッコよかったよ」
どうやら私の心配は杞憂だったようだ。




