メインクエスト:小目標『刺客を排除せよ』
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夜のムロノスはパストールと比べても街灯が多く明るいが、この時間に道を歩いている人は殆どいない。もっとも小さな路地の暗がりに入ってしまえば、俺なら誰かに気づかれる事は無いだろう。時々見かけた夜の見回りをしている役人など問題にもならない。
三人の刺客がいる方向を確認しながら、迎え撃つのに最適な場所をさがす。
先に奴らに気づかれる事だけはなんとしても回避したい。
「ヤギリこっちだ」
俺の不安はアルミナが解消してくれた。
彼女には刺客のいる正確な場所が分かっているらしい。そういう魔族の能力なのだろう。
「まだ三人固まっている。そこの路地で待っていれば簡単に対処できるだろう。お前はどうするつもりだ?」
「最初の一人は俺に任せてくれないか、この暗闇なら気づかれずに接近できる。けど、もしも失敗した時は、助けてくれ。他の二人は好きにしていい」
コサの町で不意打ちを失敗した時のことが頭を過る。
俺が背後から首を狙う戦闘スタイルだという事がカマルナムの密偵に把握されていて対策を練られているのか?確かに、城の地下でも同じように衛兵を殺しているから可能性は高い。
今回の襲撃では、少し違う場所を狙うべきだろうか?
「大丈夫か?躊躇いがあるようなら最初からやらない方がいい。やるなら、思い切りよくやれ」
「……ああ、そうだな。やるなら、思い切りだ」
◇
路地の暗がりで息をひそめる。
さっきまでの不安が嘘のように心が落ち着いている。夜と一体となったかのように、静寂が温かく心強い。
クロトの恩恵だろう。今なら、どんな相手にも気づかれない自信がある。
敵を表す3つの赤い表示が少しずつ大きくなる。かなり近い。
ほとんど聞こえるはずのない足音がわかる。
五感が冴えわたり、動き出すべき最適なタイミングすらわかった。
コサで接敵した奴らと同じ覆面の刺客達が目の前まで来た。三人目が前を通り過ぎた所で、背後へ迫る。
自分が瞬間移動したかのような気がした。
刺客の背中に吸いつくかのように肉薄し、流れるように左手で口を押さえ、撫でるように右手のダガーで首を裂く。
肉を裂く不快な感触。抑えた口からかすかに盛れる末期の吐息、一瞬の痙攣。そして出血。
刺客が、力なくその場に倒れた。
上手くできた?
首周りを確認する。特に対策している形跡はない。
コサで失敗したのは、たまたま相手が首を守る装備をしていたからというだけなのだろうか。
刺客の血の匂いが鼻を衝いて、慌てて顔を離す。気分が悪い。
やはり、これをゲームの気分でやるのは、無理だ。
自分の命を守るため、悪しき者を葬り去っているのだと思わなければ、やってられない。
「こっちもおわったぞ」
俺が自分の事で精一杯になっている間、アルミナは瞬時に二人の刺客を倒してしまっていた。
手に持った無骨なメイスには血が付着しており、見た目とのギャップが彼女の魔族らしさを引き立たせた。
今の俺にはとても頼もしく、不思議な色気すら感じた。
「ああ……。俺もどうやら、不意打ちでなら奴らの相手をできそうだ。前は一度失敗したけどな」
「殺しは嫌いかヤギリ」
一瞬、身体が硬直する。
「なんでそんなことを聞く」
「一般的に考えて、戦でもないのに人間が好き好んで人殺しなどしないだろう。根っからの悪党でもなければ、人の命を奪うことには抵抗を感じるものだ」
長い間一緒にいたわけではないが、アルミナがそういう理論的な説明をするタイプだとは思っていなかったので意外だった。
「それに、殺したお前の方が死にそうな顔をしているぞ」
「……そうか?……そうか」
俺はそんなにわかりやすい顔をしていたか。
「慣れないことをするな。外敵の排除は私に任せろ。お前には他のことで役に立ってもらわないと困るのだから」
「ああ……そうだな」
随分と気を使われてしまった。
アルミナは意外と優しいやつなんだな。
そのまま家に戻ろうとした所、アルミナに呼び止められる。
「血の匂いがついたまま戻るのは良くない。あの爺さんになにか言われるぞ」
「あ、ああ……」
どうやら、かなり世話やきでもあるらしい。
今の俺には、あれこれと言ってくれるアルミナの存在がとてもありがたかった。




