メインクエスト:小目標『ムヅラに報告せよ』
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ムヅラの爺様から注がれた酒を呑みながら、傭兵ギルドでのキリバの様子を詳しく話した。ちなみに隣ではアルミナも酒をもらって静かに話を聞いている。
キリバはあの後、模擬戦で問題なく勝利を掴んだ。まだ十四歳の少年とは思えないくらい冷静で安定した戦い方だった。
問題があったのは三人組んでのチーム戦だ。
相手側は三人がかりで真っ先にキリバに襲いかかった。
それに対して味方の二人は全く手を貸す様子を見せず、あっという間にキリバは打ち倒され『死亡判定』となり、残った二人もあっさりやられてしまい敗北。
当然、観客席で見ていた者達はその様子を見て不満の声をあげていた。しかし、傭兵ギルドの関係者や訓練場で一度見た教官達は特に問題視する事も無く、淡々と模擬戦を進めていた。
その後、模擬戦が住んだ者達はそれぞれ個別に鍛錬を始めていて、あいかわらずキリバは同期の訓練生達から距離をとって肉体強化に励んでいた。チーム戦での敗北した悔しさはあるみたいだが、最初からこういう結果になると分かっていたからか大して気にした様子もなかった。
キリバが訓練を切り上げ傭兵ギルドから出てからは、サローナの家近辺までは見届けた。
ちなみに、闘技場で他の訓練生が戦っているのを見ている間にステータスのボーナス割り振りやスキルの取得はやっておいた。喧嘩の時にやられたのが悔しくて、多少は近接戦闘にも対応できるビルドにした。こういう半端な割り振りはあまりよくない気もするが、一応盗賊としての能力にも噛みあうようには調整したから大丈夫……なはずだ。
それに、後々にスキルポイントを振りなおせるようなイベントとかあったりするだろう!
◇
「まぁ、大方予想通りの状況らしいな」
ムヅラは報告に納得したようだ。
「ヤギリ。キリバを気にかけてるらしい教官が模擬戦の後、特に何も口出ししなかったのは、何故だと思う」
「……傭兵になるからには、事前に上手く立ち回って味方を増やすことも必要な能力だから……とか?」
「間違いじゃねえ。それは大事な考えだ。が、その部分はギルドの連中がわざわざ教えてはくれねぇだろうな。今回の場合、自分が不利な状況でどう動くかって所を見られてると思う。お前さんの話を聞く限りじゃあ、キリバは早々に諦めているようじゃねぇか。実際のところどうだかは分からねぇが……」
「それで、どうします」
「どうもしねえよ。あいつの現状を把握しておきたかっただけだからな。余計な手出しはすんなよ。喧嘩も、好きなようにやらせておけ。お前が思ってるほどキリバは軟じゃねぇ」
「はあ……」
「ひとまずはご苦労だった。今日はもうゆっくりしな。明日からはトーイの所で盗みの話を色々聞いておけ。毎日ここで寝泊まりする必要もねえ。そういう部分はニビを見習え。何かありゃ使いを出して呼び寄せるからよ」
「わかった」
頼まれた仕事の話は終わった。
その間、アルミナは酒をひたすら呑みながら特に興味もなさそうに話を聞いていた。……いや、もしかしたら全く聞いていなかったかもしれない。酒に酔っているようには全く見えないが、一体何を考えているのか。
酒を呑みつつ飯を食い、夜が更けていく。
ニビは帰って来る気配が無い。サローナの所に泊るのだろう。アルミナがいる今はちょうどいいかもしれない。それでも、朝になったら寝床に侵入していそうなのが怖いが。
明日、トーイの所に行くのはいいとして、アルミナの事は他の仲間にに何と説明すればいいか……。
その時、ずっと黙っていたアルミナが急に立ち上がり、家の外に顔を向ける。
ほぼ同時にサヨまで威嚇するような声を上げた。
「どうしたアルミナ?」
俺も同じ方を向く。視界に変化がある。上部に表示された方角を示すバーに赤い点が三つ。
敵対者がいる。
「……爺様。ちょっと夜風にあたって来る」
「おう。……気を付けてな」
爺様も何かしらを感づいているみたいだが、特に何も聞かないでくれた。
俺とアルミナは外へ出る。
静かな夜の都市で、カマルナムの刺客との対決がすぐそこに迫っていた。




