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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第二章 ~アシバ皇国:白ムジナ盗賊団~
39/93

メインクエスト:小目標『白ムジナ盗賊団に入団せよ』5


   ◇


「合格だ」


 ムヅラが一言だけ述べた。出来て当然だろうなと言わんばかりの、何の感慨もない表情だ。


 昼間に集まった酒場で小さな茶色い紙のメモを渡され「日が暮れるまでにそれをここに持って来な」とだけムヅラに言われた。

 メモには『質屋の金庫に入っている紅玉の指輪』『衛兵の詰所にある出勤簿』と書いてあった。『通行人から合計で銀貨十枚盗む』という文章には大きく×が書かれていた。

 金庫に関しては「鍵開けはやったことが無い」と言ったのだが、ザウスから道具を渡されて「ま、ダメでも試しにやってみろよ!」と言われる。 


 結局、どっちもあっさりと達成できた。おそらくは、それぞれの入手に必要な情報収集も含めての試練だったのだろうが、ガメスシステムの補助とクロトの恩恵によってなんの問題もなくこなせた。

 盗んだ物をムヅラ達に見せると、今度は日が暮れてから都市の中心にある鐘楼に外から登って、そこにある秘密の場所に置いてこいと言われた。

 当然のように鐘楼の秘密の部屋がどこにあるのかは教えてもらえなかった。

 それでも、壁に隠されたその部屋をあっさり見つけて、俺は試練をクリアしたのだ。


「合格……なんですよね?」


「ああ、そうだ。これでお前さんは白ムジナの一員ってわけだヤギリ」


「なんと言いますか、あまり実感が湧かなくて」


「そりゃあお前さんがあっさり課題をこなしちまうからだ」


 ムヅラの言葉にニビとザウスが愉快そうに笑う。


「心配すんなよヤギリ!爺様はあんな態度だが、急に追い出したりはしないからよ!」


「そうそう!じっちゃんのは期待の裏返しだからさ!」


「黙ってろおめえら」


 色々気になることはあるが、とりあえず問題はないようだ。


「とりあえず細けぇ話は『巣穴』に行ってからだ」


『巣穴』という意味深な単語はここにきて初めて聞いた。なんとなく、盗賊団の本来のアジトなのではないかと予想した。

 

 予想は当たった。

 一度ムヅラの住家に戻った時は考えが外れたかと思ったが、家の奥の部屋には地下に通じる穴が隠してあり、備え付けられた長い梯子を降りると広い空間に出た。


「何か、この感じは見覚えがあるな。カマルナムとの国境を越えた時の……」


「正解!あの地下通路と繋がってるんだよここは!だけど、あそこよりも広く作り直されてて快適だよ!」


 確かに、窮屈さも無ければ不潔な感じもしない。少々湿気が強いくらいか。


「おいニビ。ここであんまりでけぇ声は出すなって言ってんだろ。ロウワンの頭が割れちまう」


「あ、ごめんじっちゃん」


「ロウワン?」


「お前さんはまだ会ってなかったな。儂の次にこの一味の古株だ」


 そう言って案内された部屋は木の長テーブルがあり、まるで会議室のような場所になっていた。

 長テーブルの一番奥の席の隣に、坊主頭の男が耳を塞いで座っている。


 彼が『ロウワン』か。


「ニビは静かになったかい?」


「ああ、もう大丈夫だ」


「ごめんよロウワンあたしまた」


「いいってことよ。お前から元気と大声を取り上げるなんて誰にもできねぇ。それに、誰かが降りてくるのが分かったらしばらく耳を塞ぐようにしてるからな」


「ロウワンさんは耳がいいのか」


「そうさ。人よりもちょっとばかりな……ふっふっふ。ああ、それからよ『さん』づけで呼ぶのはやめてくれや。ロウワンでいい」


「わかった」


「他の奴らも同じだぜ?ムヅラの爺様は『爺様』って呼んどきゃあいい」


「ああ」俺は首を縦に振った。


 そんな風にロウワンとやり取りをしている間、ニビは当たり前のように一番奥の席に座った。頭領の席なのだろう。さらにその隣、ロウワンと向き合う形でムヅラが座る。


「お前さんは俺の隣だ」


 ムヅラが椅子を引いて俺を招く。左隣にはザウスが座った。


「まだ他の連中が来るまで時間がある。それまでにヤギリ、一つお前さんに言っておくことがある」


「なんだよ爺様」


「お前さんの盗賊としての技術、能力は申し分ねえ。そのうちニビにも追いつくだろう。だがそれは、技術や能力だけだ。人間の性質として盗賊に向いてるかどうかで言ったら、お前さんはダントツで向いてねぇ。儂の言ってる意味がわかるか?」

「……わかるよ爺様。俺は、とことん盗賊になんてならない方がいい人間だって」


 否定など出来なかった。


 ムヅラの言葉は驚くほど正確に俺の性質、心を捉えていた。


「そうかい……。自分で分かってて、それでも盗賊の一味になろうってんなら儂からいう事はなんもねえ。それによく考えたらな、お前さんが盗賊の生き方ってのを覚えるのには、今がちょうどいい時期かもしれねぇ」


「それはどういう意味です?」


「……そいつを教えるのは、全員集まってからだな」


 ムヅラは腕を組み目を閉じた。さっきまでよりも少し、機嫌の良さそうな顔をしている。


 よくわからなくてニビの方を見る。


 彼女は相変わらず元気そうに不敵な笑顔をしていた。



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