表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第二章 ~アシバ皇国:白ムジナ盗賊団~
38/93

メインクエスト:小目標『白ムジナ盗賊団に入団せよ』4


   ◇


 俺は改めて、サローナ、アジー、クラップに自己紹介をしてもらい、他にも白ムジナでの役割や生活について軽く話を聞かせてもらった。

 

 まだ盗賊団に入れるかどうか決まってもないのに、そこまで話してもいいのかと思ったが、三人が言うには「ニビが連れてきた奴はほぼ確定」なんだそうだ。

 

 ついでに、ニビが頭領で間違いないという事も確認した。


「いかにも!あたしが頭領だ!」


 腕を組み偉そうなポーズをするニビ。


「そういえばヤギリ。あの子は紹介しないの?」


「あの子?」


「首に巻き付いてるソレ」


「ああ。サヨか」


 すっかり衣服のように馴染んでしまってるうえ、静かすぎるものだからつい忘れてしまう。


「こいつは……昨日俺が保護したイタチだ。酷い怪我をしてたから回復薬を飲ませてやって、そしたら懐かれた」


「回復薬って動物に使えるのか?一般的に出回ってるものでもそこまで万能な物じゃなかったはずだが」とクラップが言う。


「それが、出所のよくわからない怪しいやつで、自分で飲むのは少々恐ろしかったから、半分実験のつもりでこいつに飲ませたんだ。二瓶も」


 静かにしていたサヨがその言葉に抗議するかのようにキュキュッ!と鳴いた。


「あ、なんか怒ってる」アジーが面白そうにサヨを観察している。


「しょうがないだろ。あの状況じゃいつ死んでもおかしくなかったんだから、一か八か試してみるしか」


「それもそうよね」


 キュッと言ってサヨはまた静かになった。納得したのだろうか?


「ただいま……誰その人」


 少年が家の中へ入って来た。ニビよりも若く小柄だが、鍛えられた筋肉がはっきりと分かる。全身が土で汚れ、切り傷が多く目立つ。毎日何か過酷な訓練をしているのだろう。

 

「おー!おかえりキリバ!」

 

 ニビの元気な声を聞いて「げっ、ニビ」という感じの顔をしてる。


「ニビが連れて来た新団員、予定の人よ」


「ヤギリだ。よろしく」


「……ふん」


 奥の部屋へ消えていくキリバ。露骨に不愛想だが、自然と嫌な感じはしない。あの年頃の男子は大体がああいうものだと理解している。

 

「あの子はいろいろ事情があってね、面倒は見てるけど『白ムジナ盗賊団』の一員ではないの」


「キリバは団員だよ!」


「……とまぁ頭領はいつもああ言ってるけど、あの子は一人前の傭兵になったらここを出ていく予定だから」


「そうか。傭兵になる為に必死に訓練してるんだな……」


 なんとなくキリバの事が気になった。けれどその日は特になにも聞かずに終わったのだった。





   翌日


 俺はムヅラの家には戻らずサローナたちの住家で一夜を過ごした。ニビが別にどこでもいいんだよ!と言う。そういうものなのか。

 

 ニビはサローナと一緒の寝床についたので安心した。が、なぜか朝になるとまたニビは俺の寝床に紛れ込んでいた。なぜなのか。 


 サローナはサローナで「私の大事なニビが新米に盗られた!この泥棒猫!」と茶化してくる。

 ニビが言うには「なんか落ち着くから」との事。それを聞いたサローナがまた俺の事をいじってくるのだ。


「やめてくれよ」とは言ったが、あまり悪い気分じゃない。



 朝飯をごちそうになって少し経った頃、ヘンベルが連絡に来た。今日の昼、都市の中心街にある酒場に来るようにとムヅラからの伝言だ。 

 

 もう一人、初めて見る男がヘンベルの後ろから出てきた。俺より年上そうな小柄な男は『トーイ』と言った。この時ふと思ったのだが、比較的小柄な男性が多いのはやはり仕事柄有利だからだろうか。

 

 ザウス程ではないが明るい性格のトーイはいたって友好的な感じで握手を求めてきて、「ニビが連れて来たんなら入団は問題ないだろ?結構使えそうだし、期待してるぜ!」

 

 その時、異常を察知した。

 視界の隅で「金貨を一枚盗まれた」という通知ログが点滅するよりも前に、ざわつく様な違和感が身体を包み、咄嗟にステータス画面を開く。

 

 この男、俺から金貨をスッたな!あれか。新人への洗礼みたいなもんか。だとしてもやられっぱなしは嫌だな。よーし、それなら……。


 俺はステータス画面を閉じると同時にまだ触れているトーイにスリを仕掛ける。限られた時間での『スリ』アクションにヒヤヒヤしながら、パっと見でもっとも盗みやすいものを選択して手に握り込む。


 一拍おいて、トーイは俺から離れる。


「さて、本格的な挨拶は課題をこなしてからにしておくか。じゃあまたな」


「ちょっと待ってくれ。今のは本格的な挨拶じゃなかったのかトーイ?それなら金貨は返してもらうと助かる」


 ニヤリとするトーイ。

 

「はっ!やるじゃねーか。ヘンベルとサローナ以来だな!だが、ただで返すってーのもな~」


「これと交換ってのはどうかな?」

 

「……それは」


 仕返しにトーイから奪った『スリの爪』なる物を見せる。指に嵌めて使う小さく鋭い刃のような装具。名前の通り、スリに使うのだろう。


 トーイは一瞬目を大きくし「はぁ」と息を吐く。


「……参ったぜ。まさかそれを盗られるとはな……ほらよ」


 トーイが金貨を手渡す。俺は『爪』を返した。   


「認めるぜ。これなら入団テストは問題ないだろ。ま、スリに関してはだけどな」


「それはよかった……」


「一ついっておくが、お前がスッたのは、俺が駆け出しの頃に使ってたモンで、今ではただのお守り代わりってだけだからな」


「わかったよ」とは言ったが、今の言葉がどういう意味なのかさっぱりだった。


「じゃ、またあとでな」


 そう言ってトーイはヘンベルと共に帰って行った。


 二人が家から出たのを見計らってサローナが近寄って来た。


「スリが苦手って言ってなかった?」

 

 耳元で囁かれる。


「それは嘘じゃない。できればスリはやりたくないんだ。……いろいろあるんだよ」

 

「ふーんいろいろね~?」


 サローナはいまいち納得できないみたいだ。けれどそれ以上は聞いてこなかった。

 

「怖くて心臓に悪いからやりたくない」とは言えなかった。 



 ちなみに後で気づいた事だが、トーイがさっき俺からスッた金貨はジグス金貨で、俺に返した金貨はマクス金貨だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ