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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第二章 ~アシバ皇国:白ムジナ盗賊団~
36/93

メインクエスト:小目標『白ムジナ盗賊団に入団せよ』2


   ★


 ニビと客人が寝室へと行き静かになった後も、ムヅラはじっと囲炉裏の前で煙管(キセル)を吹かしていた。

 そこへ、ヤギリが案内されていったのとは別の部屋から痩身の中年男性が現れ、ムヅラの右側に腰かける。


「しっかり聞いてたかロウワン」


「ああ爺様。よぉく聞こえたよ。ニビのでっけえ声までしっかりな」

 

 ロウワンと呼ばれた男は両目を閉じたまま、冗談っぽくニヤリと笑って見せる。

 

 ムヅラも「フ……」と控えめな笑みをこぼす。


「お前さんはどう思った」


「そうですな。……爺様のと大して変わらんでしょうが。悪かないと思いますよ」


「嘘は言ってねえか」


「そのかわり、肝心な事も黙ってる」


「……何もかも潔癖な野郎が盗人になんざならねえからな。そいつは構わねえ」


「他に何か気になる事が?」


「あいつぁ、クロトの信徒だ」


「そいつは……。あっしら盗人はクロトの恩恵を大なり小なり受けてますから」


「いいやそれとは違ぇ。確かにお前さんの言う通りではあるが、盗賊としてクロトに助けられ、それに感謝したり祈ったりするのと、信徒になるのとは別もんだ。極端に言えば、信徒になるって事ぁ、クロトの司祭になるって事だ」


「あの若僧が司祭ねぇ……」


「お前さんの言いてぇ事はわかる。儂も何か変な感じがしたからな。……もしかしたら、一方的にクロトから気に入られてるってぇ事もあり得る」


「爺様が気になるのは、あいつがクロトの寵愛を受けてるって所か」


「なぁに、あいつにもたらされる幸運が、儂らにも波及するんなら文句は無ぇ。もし、いい思いをするのがあいつ一人でも一向に構わねえ」


「あっしらにとばっちりが来なければ……か」


「ま、そういうこった」


 囲炉裏の小さな火を眺める二人を、長い沈黙が包む。


 唐突に「ククク……」とロウワンが堪えるように小さく笑い出す。


「……急にどうしたよ」


 ムヅラが特に表情を変えずに問いかける。


「いやね。あの男をどうするつもりかとっくに決めてるくせに、いかにも悩んでるような顔をしてるもんだから、おかしくってつい……ククク……」


「バカヤロォ。……そういうのはわかってても口に出すんじゃねえ」


 鼻から煙を出すムヅラ。ロウワンは「こいつぁ失敬」と言いながら、まだ少し笑っているのであった。

 

   ◇


 この世界での眠りは何度か夢を見た。

 けど、今度は何もみなかった。深い眠りだからか?

 すぅーっと、眠りが浅くなっていき、かすかに映像が浮かび上がる。

 どこかの家の温かい家庭。暖炉があって、木のテーブルと椅子。少し離れた所にあるソファには男女が座っていて、男が赤ん坊を抱いている。

 気が付くと、俺が赤ん坊を抱いていた。胸の奥が心地よい熱を持つ。慈しみのような、尊い感情が溢れてきて、同時に、目から何かが零れ落ちた。

 

 パッと目を開くと板張りの天井が目に入る。顔の横が少し濡れている。涙を流していたのか?

 けれど、悲しくはない。むしろ、安心感がある。……何故だろう?


「くぅーーー!」


 両手を伸ばし身体に刺激を与える。伸ばした右手が何かにぶつかる。


「ん?」


 隣でニビが気持ちよさそうに寝ていた。起きている時とは違って寝息も聞こえないほど静かだ。


「なんでここで寝てるんだ……!」


 慌てて飛び起き寝床を離れる。びっくりしたサヨも壁を蹴って跳び、俺の太ももに引っ付いた。そして瞬時に首に巻き付く。


「ふぁ~~……」


 俺が起きたことに気づいたのか、ニビは情けない声と共に上体を起こす。そして目が合うと一瞬でエンジンがフル回転になったように元気になった。


「あ!起きたんだねヤギリ!そんじゃあさっそく皆のとこ行こう!!」


 ガメスシステムのおかげで目覚めの良くなったはずの俺の頭にすらバンバンと響く明るい声。咄嗟に耳を塞ごうと両手を途中まであげる程だ。


「わかったわかった!分かったからもう少し静かにしてくれ!俺は寝起きが良くない方なんだ!頭に響く……」


「そうなんだ!じゃあ次から気を付けるね!」


 絶対にわかってないなと確信しながら、小走りで部屋を出ていくニビについて行く。ムヅラがいた部屋には今は誰もいない。そのまま通り過ぎ外へと出た。


「ムロノス……か」


 明るくなったアシバ皇国の国境都市は、とても綺麗で美しかった。


 この綺麗な街で、俺はこれから盗みの技術を学ばなきゃいけないんだよな……。


 躊躇いはまだある。


「おーいヤギリ!早く行くよー!」


 曲がり角の手前でニビが急かす。


「ゆっくりでいいだろー!」


 それは俺の心情そのままの言葉だったかもしれない。

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