カマルナム王国:密談と魔族の刺客
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再び儀式の間にて密談をすることになったカマルナム王ユークロイフと神官長ダルコン。
内容は、南の街道で烏泥衆を狙って殺害している何者かと、アシバへ渡ろうとしているヤギリへの対処について。ちなみに、ヤギリはこの時すでにアシバの都市ムロノスにいた。
「パストールへ向かわせた密偵の何人かがやられているようです。その遺体はどれも頭部を破壊されているとのこと」
「城で異界人の逃亡を手助けした者だな」
「不思議なことに、詳細を知らぬ衛兵達は特に被害を受けていない模様。なぜ密偵だけを狙うのかという疑問の他に、なぜ衛兵に紛れ込ませている者を見抜けるのかも気になりますな。おかげで難を逃れた兵から邪魔者の人相を知ることができましたが」
ダルコンは兵士からの報告書と人相書きをユークロイフへと差し出す。
「陽に焼けたような肌をした白髪の娘だそうで、凶悪なメイスを細腕で軽々振るうとか」
「そやつがガメスに力を与えられた信者ということか?」
「東の山の楔を壊した者とは同じと考えていいでしょう。しかし、ガメスに協力している信者とこの度の殺人鬼とを同一視するのは早計であるかと。まだ信者の情報については調査不足ですので」
「その殺人鬼は魔族だ」
何者かが儀式の間の上から降りてくる。高所に設けられた用途不明の通路はこの者のためにあると言っていい。
名を『クルクゲス・ワースロー・サフレナル』。魔帝国御三家であるサフレナル家の一族である。
ダルコンは慇懃無礼に会釈をし、ユークロイフは僅かに細めた目を左に動かした。
「これはこれは、ワースロー卿ようこそお越しくださいました」
「魔族ということは卿の同胞と考えてよろしいか?」
「同胞だったとしてもそれは過去の事。我々の邪魔になるなら排除するのみだ。其奴を討伐する戦士は私が手配する。念のため聞いておくが、その娘には角が生えていたか?」
「いえ、そのような特徴は聞いておりません」
「ふむ……ならば、それほどの脅威とはならんだろうが、手練を用意しておこう」
「卿の知己なのか?心当たりがあるような物言いだが」
「この世にはもういない存在のはずなのだ。だが……」
机に置かれた報告書を手に取り詳細を確認したワースロー卿は軽く舌打ちをする。
「万が一には備えておきたい」
「では、そちらの魔族の対処はワースロー卿にお任せいたします。我らは逃げた生贄をどうにかしましょう」
「そのことについてだが卿に一つ聞きたい。件の生贄は必ず生かして捕らえねばならないか?」
「可能な限りはそうしてほしいものだな。だが、生かしておくと事でこちらに著しい損害が出る時は殺しても構わない」
「承知した」
「では、吾輩はこれにて失礼する」
ワースロー卿は天井近くの通路へと飛翔しあっという間に退室した。
「ところでダルコン。東の楔は修復できるのだな?」
「できますが、そちらに手勢を割くよりは生贄の捕獲に尽力した方が良いかと。あの場所だけなら王都周辺の結界に影響はありませんし」
「他の生贄達はどうだ」
「まだ退屈しているような様子はありません。この王都での生活を十分に満喫しているかと」
「ならばよい」
王と神官長はパストール及びムロノスへの戦力追加を決めた後も、諸々の関連事項についても詳細に話し合った。その中には烏泥衆の密偵に街道を使わずに移動せよという指示も含まれている。
一時間ほどで静かなる会議は終了した。
「それではこれにて」
ダルコンが先に退室する。
部屋から足音が遠ざかり、暗い儀式の間に独り残った王はゆっくりと天を仰ぐ。
「さあ、どこまでやれるのか。……見せてくれよ異界人」
ユークロイフが、囁くように、呟いた。




