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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
31/93

メインクエスト:『国境を越えアシバ皇国へ』2


   ☆


 ボロいフードを被った少女がパストールの街並みを飛び回る。

 決して間隔の狭くない建物同士だというのに。

 身軽に跳躍。

 しなやかな着地。

 体さばきは流麗。

 瞬時に侵入可能な場所を見つけて家屋へと忍び込む。

 そして家の中を確認し、裕福な家庭だと判断した所からは()()()()()()()金品をいただく。

 少女は天才的な盗賊であった。

 一通り盗みを働いて満足した女盗賊、いや少女盗賊は、ひと際高い建物の上へと飛ぶようにして登り、明るい月を見上げる。


「ん~~ッ!今日もいい夜だ!」


 ふわりとした風が少女のフードを捲り、ややくすんだ色の赤毛が月光に映える。うなじの辺りで切りそろえた髪は少し横に広がっており、手入れをあまりしないせいで毛先の方はボサッっとしていた。

 決して童顔というわけではないのだが、無邪気な表情と八重歯が彼女を必要以上に幼く見せる原因であった。


「よし!じっちゃんに怒られる前に帰ろう!」


 盗賊の少女『ニビ』はいつも通り暗く目立たない路地まで行くと、いつも通りの道順で橋へと向かい、そしていつも通りじゃないことに気づく。


「なんでこんなに衛兵がいるんだ……?しかも、すんごい警戒してる」


 まさか、あたしの泥棒がバレちゃった?


 と、一瞬思ったものの「まっさかそんなワケないじゃ~~ん!」と気を取り直し、辺りの様子を伺う。


「ん~~。さすがにコレは橋を通ってはいけないかなー?」


 じゃあ端じゃなくて真ん中を行くか―!なんちゃって♪


 ふざけた様子だが、ニビはこの橋を渡るのはめっちゃマズイと直感していた。それでも余裕な態度なのは、アシバに安全に移動する方法を知っているからだ。

 だがすぐに行動はせず、衛兵がどうしてこれほど警戒してるのかを調べるために隣の路地へ移動。もう少し近くで観察しようと思ったらしい。


「ん?」


 ニビは建物の陰にしゃがんだところでマントを引っ張られた。

 何かに引っ掛けたかと思って振り返ると、地面に黒くて小さいのがいる。それなのに不思議と驚かなかった。


「おいサヨ……!どこに行ったんだ……!」


「あ」


「え?」


 どう見ても同業者な感じの年上の男が闇の中から急に姿を現した。


 さすがにこれには驚いたニビであった。


   ◇


 結局、パストールに辿り着いたのは夜になってからだった。


 あの後もずっと俺について来ていた黒いイタチには何度も助けられ、そのおかげで馬も手に入ったんだが、いろいろ大変だった。追っ手の衛兵や密偵と遭遇しなかったことは幸運と言えるな。

 件のそのイタチは今、クロトの布と一緒になって俺の首に巻き付いて寝ている。『小夜サヨ』という名前もつけた。もちろん性別の確認をして。


「なんだかんだで夜になってからここに来たのはちょうどよかったかな」


 このまま国境の都市には留まらずに、夜の闇に紛れてすぐ橋を通り抜ければいいと思っていた。

 

 しかしその考えは甘かった。

 

 城からの手配で警戒が強められているのか、見張りの衛兵がかなり多い。警戒もかなり強く橋を通るのは簡単じゃなさそうだ。クロトの加護があればなんとか行けるんじゃないかとも思う。が、『橋以外の道を見つける』とかいう小目標を見るに、あそこを通ると強制的に()()()()が起こるに違いない。


 橋以外の道というのを考えながら正面の広い通りに面した建物陰に隠れる。


 闇夜の中、泳いでいくしかないか?向こうまで結構な距離がありそうだな。というか、川になんか恐ろしい生き物とかいたらどうしよう。


 チラチラと厳重な警備の橋を伺っていると、急にサヨが動き出した。


「ど、どうした」


 俺から離れるとあっという間に背後の路地の方へと駆けて行ってしまう。


「おい!」


 小さく呼びかけながら、慌てて追いかける。


 今、そこの路地を曲がったのは見えた。


 街灯も月明かりも届かない暗闇で、暗視が働いているというのにサヨの見た目は判別しづらい。 


「おいサヨ……!どこに行ったんだ……!」


「あ」


「え?」


 目の前にいるのに気配を全く感じられなかった事に驚く。

 サヨがフードを被った何者かのマントを引っ張っている。俺が来たことに気づいたサヨはまたすぐに首巻きついた。


「アンタもしかして、同業者?」


 声から察するに若い女性……少女か。こんな夜にこんな場所でこの格好。いや、まだわからない。


「同業者っていうと、何かな」


「あはは。お兄さん警戒するのもわかるけどさ、さっきみたいな気配の消し方でしかも()()()()()してたら、盗賊以外考えられないでしょ」


「じゃあ君も盗賊という事になるな」


「そうだよ」

  

「あっさりしてるな……」


「同じ盗賊だってわかってるのに隠す必要ないじゃん?お互いバッタリ出会っちゃったんだし、しょうがない!」


「それもそうか」


 この子めっちゃ明るいな。全然盗賊っぽくないぞ。


「あたしは『ニビ』!お兄さんは?」


「『ヤギリ』だ。こっちは相棒……見習いの『サヨ』」


「へえ~。イタチが人に懐くなんて珍しいね。あとでよく見せてよ」


「ああ構わないぞ。何とかしてアシバに辿り着いたらな」


「やっぱりヤギリも向こうに行きたいんだ。いつもなら難なく渡れるよ。というかこんなに見張りいないし警戒はもっともっと薄い。無理やり押し通ることもできなくはないけど、なーんか今日はやめといたほうがいい気がするんだよね」


「やっぱりか」と小さく呟く。


「やっぱりって?」


「たぶん、見張りが多いのは俺のせいだ。」


「へぇ~!お兄さんそんだけ大きいことをやらかしたんだ?何を盗んだの?」


「なんにも盗んじゃ……、いや、しいて言うなら『情報』を盗んだってところかな」


 よく考えたら金貨とかも盗んでいるな。それはノーカンで。


「ふーん。どんな?」


 しゃべりすぎたかな。この娘が無邪気に聞いてくるんもんだからつい口が滑る。

 

「……名前しか分からない奴にこれ以上は喋れないな。それなりの対価があれば教えてもいいけど」


「えー。ケチだなー」


「ケチとかそういう問題じゃないだろ」


「あたしは『白ムジナ盗賊団』の頭領ですって言ったら信じる?」

 

 聞き覚えのない盗賊団の名前だ。しかも頭領だって?


「聞いた事ないな」


「え゛。噓でしょ」


「……俺はこの辺の出身じゃないんだよ。それに本当に名のある盗賊の頭だったら、会ったばかりの他人にそう簡単に素性を明かすのはおかしいだろ」


「え~おかしいかな~」


「そうだよ」


 とは言ったものの。なんとなく本当なんじゃないかとも思う。馬鹿正直に口に出しちゃうような危ない無邪気さはさっきからビシバシ感じているから。


「で、どんな情報を盗んだの?」


「いやだから……。全くもう、なんでそんなに知りたいんだよ?」


「面白そうだから!」


「ああ、そう……」

 

 目をキラキラさせて言い切る少女。こういうタイプ嫌いじゃないが少し苦手だ。めんどくさいな。


「じゃあ、この橋を無事に渡れたら、教えてやってもいいよ」


「お、言ったね?約束だからねヤギリ」


「はいはいわかった」


 テキトーに切り上げてこっそり少女から離れようと思っていた。


「こっちに抜け道あるから、ついて来て!」


「はいはい、……はい?」


 そんなものがあるなら最初から言っておいてほしかった。


   ◇


 大昔にできたとされる、カマルナムとアシバの国境をつなぐ地下通路。


 はるか古代の文明で作られた水路を、盗賊だか傭兵だかが仕事に利用するために作ったのだと言われているらしい。そこまで大きい水路だったわけではないのだろう、地下通路として使えるようにかなり手を加えたのはわかるが、ひどく狭い。背筋をのばして歩こうとすれば天井に頭をぶつけてしまうほどに。

 

 身長の高くないニビはこの狭い通路もすたすたと歩いてい行けるようで、羨ましいかぎりだ。

 

 俺はニビから渡された松明をいろんなところにぶつけない様に気を付けながら背後を歩いた。

 

 この通路の入り口は白ムジナ盗賊団の大元となる盗賊集団の頭が、信頼の置ける限られた仲間達が利用できるように土地を確保し、さらにそこへ地下墓地を作って隠したのだという。

 

 地下墓地は基本的に夜は開いていないが、ニビは墓地の鍵を持っているために難なく入れた。

 そして、地下の部屋の奥の方にある目立たない区画にある大きな棺を開け、地下へ続く梯子を下りていく。ちなみに蓋は見た目に反して軽く作られていて、内側にある取っ手を掴んで簡単に占めることができる。


「昔は子供の遺体に似せて作った人形を置いて誤魔化したり、かなり重い蓋を使ってたりして大変だったってさ。滅多に使わないからそれでもよかったんだけど。急いでるときにそんなことしてたら駄目じゃん?」

 

 その口ぶりからすると棺を改良したのはニビとその仲間なのだろう。実際に緊急逃走経路としても使用する予定なら、正しい判断だと思う。


「ああ、そうだな。それにしても、この上を川が流れているというのはちょっと怖いな。水が通路に流れ込んできたり、何かの拍子で崩れてきたりはしないのか?」


「心配しないでよ!地下墓地からさらに梯子で下りたから結構地面の深い所なんだよここ。それに、大昔の技術ってすごいらしくて、水漏れを防ぐ不思議なトリョウ?とかすんごい頑丈な石材とか、めっちゃいい感じの柱の組み方とかのおかげで大丈夫なんだってさ!!」


 じっちゃんがそう言ってた!と夜空のような深い群青の瞳を再びキラキラさせながら自慢気に話す。


「大昔にもそういう技術があったんだな」


 でも今の時代にしっかり継承されてるわけではないんだな。


 しばらくニビのじっちゃん自慢話を聞きながら狭い通路を歩いて行くと、やがて行き止まりにぶち当たった。

 と思ったら蓋のように丸い部分が壁にあり、押すと簡単に外へ出れた。


「ここは……水路?」


「そ。もう使われてないけどね」


 ニビは外した蓋を元に戻す。こちら側からみると周りの壁とは多少違う円形の模様に見える。それをカモフラージュするためなのか、一定の間隔で同じ模様が水路の壁にある。


「よく考えているな」 


「場所が場所だから、こんなとこに来る奴なんてあたしらくらいしかいないけどね!」


 そう言いながらニビが歩いていく。

 歩いてほんの少しのところに、円形に光が差し込んでいる場所が見えた。


「あそこだよ」


 明るくなっていた場所は井戸の底だった。壁に備え付けられたハシゴを登り、外へ出る。

 

 目の前には、墓地。


 背後には、森。


 なるほど、これは。人が寄り付かないだろうな。


 振り返るとニビが井戸を木の板で塞いでいる。


「いつもは閉まっているのか?なんで今は板が外してあったんだ」


「へっへ~ん。あたしは用心深いから、いざという時の為にあっちに行くときはここを開けておくのだ!」


「……へえすごいな」


 棒読みでの感想に「あ、今全然すごいって思ってなかったでしょ!」と突っ込まれる。

 

「まあまあ、そんなことよりも。これからどうするんだ?」

 

 そんなこととはなんだと不満げに頬を膨らますニビ。文句を言いながら右手をこちらに差し出し、「なんかくれ」とでも言いたげに軽く振っている。


「で、ヤギリ。約束通り教えてくれるんだよね?」


 一瞬戸惑う。例の情報の事、だよな。


 少し考え、あまり普段しない意地悪そうな表情を作って言う。


「いいや。ダメだな」


「えーー!なんでだよ!」


 嘘つきー!嘘つきは泥棒の始まりなんだぞー!この泥棒!!などと文句を言っている。実際泥棒だ。


「俺は無事に()()()()()()って言ったんだ。抜け道を通ったんだから約束は無効だろ?」


「屁理屈だよそんなの!」


「いいや。こういう約束とか契約は正確じゃなきゃダメだね。きっとクロトが見てたら俺の方が正しいって言うと思うね」


 実際はどうだか知らない。


「うっ……それを言われると……」


 クロトの名前を出したのが効いたのか、ニビは諦めたようだ。


「でもさ!助けてあげたんだから同業者にお礼くらいはするべきだよね?さっきの話はもう聞かないからさ!」


 確かに、助けて貰った恩は返したいと思う。それこそ、クロトが見ていたら義理は通せと言うだろう。たぶん……。


「まあ、俺に出来る範囲でならな」


「やった!じゃあついて来て!逃げないでよヤギリ!」 


 まだ月明かりがあるとはいえ、まだ暗く恐ろし気な墓地の中を鼻歌交じりに歩き出すニビ。


 唐突に何かを思い出したように「あ、そうだ」と言ってこちらへ振り返ると、赤毛の女盗賊はにっこり笑って口を開いた。


「ようこそアシバ皇国へ!」


 俺は思わず笑ってしまった。


「墓地のど真ん中で歓迎の言葉を貰うなんてな」


 案外、俺にピッタリかもしれないな。




   第一章 ~カマルナム王国脱出~ 完



第二章 ~白ムジナ盗賊団~ 近日公開!

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