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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
30/93

メインクエスト:『国境を越えアシバ皇国へ』1


   ▽


『加藤美奈』の姿をしたアルミナが山の高い所にある見晴らしの良い場所に佇んでいる。

 コサの町を眺めているのだ。正確に言うと、そこにいるヤギリをだが。


 爬虫類のように変貌した瞳は怪しげに光り、はるか遠くにいる目標をはっきりと捉えている。


「戻ると言っていたのに。ヤギリが馬車に乗ったぞ」


 やや不満げなアルミナ。


〈どうせアシバへ逃げるんだろう?こっちに戻って来なかったのは、お前の居場所が知られたくなかったとかそんなところじゃないか〉


「ワタシを避けているわけではないのか」


<あいつはお前に好意を抱いてる。と言っても『加藤美奈』の方だがな?>


「うるさい」


〈ハハハ!嫌ならさっさと正体を明かせばいいさ!それよりも、アシバに渡っても安心はできないぜ?衛兵は追って来れなくなるが、そうなるとユークロイフの密偵共が手段を選ばずに襲うだろう。殺すことを優先するかもしれないぜ?〉


「なら、その密偵はワタシが(ころ)す」


<奴が襲われそうな直前に助けてやれば好感度が上がるぜ?そん時に全部教えてやればいい。ああそれと、竜気の回復は明日の朝頃だから忘れるなよ?>


「わかっている」


 アルミナが一度瞼を閉じると次の瞬間に目は元に戻っていた。


 どうせ力が戻ればすぐに国境など越えれるのだから急ぐ必要はない。

 

 アルミナはゆっくりとした足取りで朝飯の用意をしている盗賊三人の所へ帰るのだった。


   ◇


「加藤には悪いけど、せっかく存在がバレてなさそうなのに追っ手を連れて行く方が危険だからな」


 あの三人と一緒にあそこに隠れていれば、しばらくは大丈夫だろうし。


「それよりも」


 慌てて飛び乗った馬車の幌で覆われた荷台の中には積まれている物資が少ない。おまけに人も乗っていない。そのかわりに、獣臭い。布の被さっている箱のような物からは時々鳴き声のようなものも聞こえる。


 間違いない、全部動物だ。これは動物商の馬車だったか。


「動物、か……」


 気になった俺はどんな動物がいるのか確認してみた。檻のような箱の中にいたのは、基本的に小から中くらいの大きさの種類で、既視感はあるのだが未知の獣ばかり。おそらくは森や山に生息するような四足獣だろう。

 その中で一つ。特別頑丈でほとんど隙間のない檻籠(ケージ)を見つける。取っ手部分に紐で繋がれている銅のプレートには『コクロウイタチ』と書かれていた。


 黒くて小さい塊が隅っこでじっとしている。

 

 生きているのかこれ?この中で一番高価な商品っぽいけど……。


「こっそり無賃乗車されていてしかも高価な商品を盗まれるなんてさすがに気の毒だな」


 小さく独り言を呟く。同時に「そんなこと言ってたら盗賊なってやってられないけどな」とも思う。


 パストールまではまだ時間があるだろうし、しばらく休むか。念のためその辺にある布でも被っておこう。


 気づけば、俺は眠ってしまっていた。

 南へ続く街道はフドの村からの道よりもはるかに整備され路面が綺麗で、かなり揺れは少ない。それに身体の疲れもあったからだろう。

 目が覚めた時には結構な時間が経過していた。幸い、荷台に潜んでいる事はまだバレていないようだ。

 外を見ると昼を過ぎた頃に見える。

 

 その時、馬車が急にスピードを緩め始めた。手綱を握る荷主が馬に停止の合図を送る声も聞こえる。


 まずいな。一度降りるか。


 咄嗟にコクロウイタチのケージを引っ掴んで馬車の後ろから地面へ飛ぶ。


 運よく近くにあった茂みに身を隠し、馬車の様子を見る。

 商人は馬に水を飲ませるようだ。ちょうどすぐそばに池がある。ついでに自分も昼食をとるのだろう。

 馬と共に十分な休息を得た商人は御者台に乗り、荷の積んである幌の中へと顔を突っ込む。

 そして、商人の悲鳴が聞こえた。「無い!無いぃぃ!!!!」という悲壮な声が響く。


 割と散らかしたし、見たらすぐ異変に気付くよな。

 

「ん?」


 錯乱した商人は瞬く間に馬車を反転させ、恐ろしい速度で街道を戻り始めた。


「まさか……引き返すとは思わなかった」


 あとは歩いていくしかない……よな。


 途端に、盗んだケージが重く感じる。別に持って歩くのが苦になるわけじゃないが、少し邪魔くさいな。せっかくだし逃がしてやるか。プレートと同じように鍵も括り付けられているわけだし。


 ケージを開けて中の様子をみる。蹲った黒い獣は動く気配が無い。勇気を出して触れてみると微かに呼吸をしていいるのがわかった。


「かなり弱ってるな。怪我でもしてるのか」


 コクロウイタチは全く抵抗することなく、簡単に持ち上げることができた。そして手にはぬるっとした生暖かい感触。

 腹の辺りから出血している。傷口を必死に抑えて耐えていたのだろうが、もう限界が近いのだろう。


 傷を治す術は俺にはない……。かわいそうだが仕方ない。


「いや、そういえば確か」


 ステータス画面から持ち物の一覧を確認する。


 あった。回復薬が二つ。ただ、これが動物に有効かはわからない。自分で飲むのもちょっと怖かったし、動物実験みたいな感じにはなるけど、一か八かってやつだ。


 小瓶の蓋を開け、弱ったイタチの口へ少しずつ緑の液体を流し込む。

 何度か弱々しく抵抗するが、構わず飲ませる。すると、傷口の辺りから微かに緑色の光の粒子が漏れ出し、裂けた肉を修復していく。苦しそうにしていたイタチの眼が薄っすらと開く。


「よし」


 俺は続けてもう一つの回復薬を飲ませた。今度はイタチが嫌がる様子もなくごくごくと液体を腹に流しこんでいる。

 

 腹の傷はすっかり治り、弱々しかった鼓動は今はっきりと俺の手に衝撃を伝えている。もう安心だろう。


 すると、十分体力の回復したイタチは俺の腕から飛びのく。逃げるかと思ったが、こちらを振り返ってじっと見つめている。

 

 おっと。動物と目を合わせるのは良くないんだったな。喧嘩を売ってるとは思われたくない。まあでも、どの道イタチが人に懐くようなことは絶対ないからな。


 イタチに背を向けてパストールへと歩き出す。


「じゃあな。もう捕まるなよ」


 あーあ。もったいない事したな。


 そう思いつつも満足な気分であった。

 

   △


「……やばい。喉が渇いてきた」


 ヤギリはかなり長い距離を歩いていた。途中すれ違う人や馬車をやり過ごしながら、時々休憩をとっていたからそこまで疲れてはいない。しかし、旅の準備もろくにしないでいた為に水分補給がままならない状況だった。

 

 すぐそこに林がある。木の実か何かあれば、ちょっとは喉を潤せるだろう。


 しかしヤギリは何も見つけられなかった。

 まだ体力的には余裕があるものの、そろそろ焦り始めている。


「回復薬……一個残しておけばよかったな……」


 林を出ようとしたところで何かに足を引っ張られるヤギリ。


「な、なんだ?!」


 足元を見るとなにやら黒い物体がズボンの裾に噛みついている。


「お前もしかしてさっきの?」


 黒い物体の正体はヤギリが助けたコクロウイタチだった。

 イタチは裾を離すと林の奥の方へ数歩走って振り返る。ヤギリが動かないのを見ると再び足を引っ張りに戻って来る。


「もしかしてこっちに来いって言ってるのか?」

 

 ヤギリが歩き出すと、イタチは都度振り返りながら林の奥の方へと進んでいく。

 林の中の黒い物体は見えづらく、何度かイタチを見失いそうになりながら注意深く目を凝らすヤギリ。

 人の気配を察知して直ぐに隠密状態になる。イタチの姿はどこかへ消えた。

 気配のする方に耳を傾けると、嬌声と荒い鼻息が聞こえてくる。


(あ~……。なるほど、こんなところでですか。やれやれ)


 この場面を見せるためにあのイタチは俺をここにつれてきたのか?と疑問に思いながら声のする方へ近づくヤギリ。すると情事が目に入るよりも前に、男女の荷物と思われるものを発見する。

 そこにはヤギリが今一番欲しいものがあった。


(水筒!あの特徴的な革の袋は水筒だよな!?)


 即座に水筒を拾い中身を確かめる。水であることと十分な量があることが分かりホッとするヤギリ。

 ついでに食料が入ってる袋も失敬し、もう一つあった水筒には手を付けないでおく。


 用が済んだヤギリは一目散に林の外へと逃げた。


「ふう~!生き返った!」


 十分に喉を潤し、意気揚々と街道を歩く。


「あのイタチ、恩返しのつもりだったのかな。おかげで助かった」


 これで貸し借りの無くなったイタチは今度こそ野山へと帰っただろうとヤギリは思っていた。


 しかしその後方からはしっかりと、黒く小さな影がついてきているのであった。



黒蝋鼬こくろういたち』:コクロイタチ、単にクロイタチとも呼ぶ。極めて希少な動物で、実は魔獣に類する。黒い蝋のような色をした毛皮が特徴。通常のイタチより若干大きく、柔軟で頑丈な身体だが、比較的柔らかい腹部が弱点。毒に強い。(その他の特徴は別記)

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