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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
プロローグ:『守護英雄の召喚』
3/93

呼び寄せられた『守護英雄』達


   ▲


 カマルナム王国の儀式の間。


 その部屋の中央にある召喚陣の刻まれた場所に、11人の男女が集めらていた。

 異世界から召喚された彼らは、年齢も服装も表情もバラバラだが、不安を感じていることだけは共通していた。


 その空気を破るように、椅子に座っていた男性が口を開く。


 「ようこそ異界からの客人達よ。私はこの国の王を務めているユークロイフだ。まずは、突然呼び寄せてしまったことを詫びよう。驚いている者、不安を感じている者、あるいは心躍らせている者、さまざまいるだろう。だがまずは私の言葉を、静かに聞いていてほしい」


 カマルナム国王ユークロイフは堂々とした王族の態度でありながらも、真摯な言葉で説明を始めた。

 来客扱いを受けた異世界の男女は皆、目の前の人物が王であることを予想していたため、それほど驚く様子はなかった。そのかわり、王が一般的に想像するような居丈高な態度でない事と、丁寧な対応をしてくれることに関しては意外に思っていた。


「最初に、なぜ君達が呼ばれたかについて簡単に言おう。それは、この国を守ってもらうためだ。何から守ってほしいか?それは、北方のデオラゴーネ魔帝国だ。我らは君達に「守護英雄」となってもらい、魔帝の軍勢と戦ってほしいのだ」


 11人の男女にざわめきが起こる。


 急に異世界に呼び寄せられただけでもとんでもない事なのに、そのうえよくわからない危険そうな役目を押し付けられそうになったら、当然困惑するだろう。だが中には、夢だと思い愉快そうにしている者、現実として受け止め思案をめぐらす者、中には小声で何かをブツブツと呟いている者など、さまざまであった。


「動揺するのも無理はない。これは私の、我が国の勝手な都合だ。どこかの世界から、ほとんど争いとは無縁な者たちを呼び寄せて、一方的な要求をしているという自覚はある。しかしながら、だ」


 王が一端言葉を切る。意図的に作られた短い沈黙に、異界の来客達は注意深く耳を傾ける。 


「君達には、英雄としての偉業を成し遂げられるだけの大いなる力がある。これもまた事実だ。そもそも、そうでなければ多大な労力と費用を要する超越召喚をする理由がない。重ねて言おう。君達を呼び寄せて国を守るために戦わせるのにはそれなりの理由があり、なおかつ、十分に達成可能であるということ。無論、我々は国を挙げて君達の支援をする。…さて、ここまで話したが、何か聞きたいことがあれば遠慮せずに発言してくれ」


 若い男がすぐに挙手をして質問する。


「大いなる力っていうのは、具体的にはどんなものですか?」


「うむ。確かにそれについては気になるところだろう。『大いなる力』とは、遊戯の神ガメスの恩恵による特殊な力のことだ。もともと君達異界人は召喚された時点で得意な能力を会得するみたいなのだが、どうもそれをうまく使いこなせい事があってな。ガメスの御業によって英雄としての能力を成長させるのに必要な仕組みを取り入れたのだ。無論それはこの世界の理とは違うものだが、本日異界から召喚された君達ならばすぐに扱えるようになるだろう。ようするに、君達は一般の人々には備わっていない力で自己を成長させることが出来るのだと理解してほしい。口で説明するよりも、実際にどんなものか見たほうが早いだろう」


 神官長が11人の前にやってきて、一番近くにいた男を指し示す。 


「そこのあなた、こちらへきていただけますか?」


 明るい茶髪の青年が「おれ?」と自分を指差して確認する。


「はいそうです。あなたです」 


 青年は素直に神官長の前まで歩く。急に額に手を翳されて少しのけ反る。


 神官長は青年の様子など気にせずに、すぐになにか呪文のようなものを唱えだした。手から白い光があふれ出し一瞬強く発光したかと思うと、光の筋が青年の頭へ流れ込んでいく。


「うおお!?」


 比較的落ち着いていた青年もさすがに驚いて一歩後ずさる。が、光はすぐに何事もなかったかのように治まった。


「驚かせてすみません。ですが、今の刺激で視界になにか浮かび上がっておりませんか?」


 青年は目を大きく見開き、興奮したように声を発した。


「これって……ゲームのステータス画面じゃん!?」


   ◇


 国王が名乗り、召喚について説明している最中も、俺はひたすらステータス画面の確認していた。王が話している重要な話もログで確認できるため問題はない。

 どうやらこの画面はパソコンのブラウザのようにいくつも開くことが出来るらしく、非常に便利だが、一度に様々な情報を確認するのは脳を酷使するのでしんどい。

 ログを目で追いながら、自分の能力値やスキルの確認や、ここに来るまでに入手した経験値とスキルポイントの割り振りなど、チュートリアルに従い必要なことを一気にこなした。


 なぜかわからないが、この場に来てから急に慌しく「あれをしろ。これをしろ。」とチュートリアルのナビゲーションが指図し始めた。あんまり急かすからついつい独り言を口にしてしまったくらいだ。

 レベルアップの能力値ボーナスを指示通りに『筋力』に割り振る。最初の時点でMAXになっているはずだが、成長した分は加算され、チュートリアル後に反映されるらしい。

 問題はスキルだ。これまでの道中でほとんど触れられてなかったが、こちらもパラメータと同様にポイントが最大になっている。

 好みのスキルを開放しようと考えたのも束の間、どこか焦っているかのように忙しなく指示を始めたチュートリアルの声に従って、仕方なく『偽装』の能力に分類される『魔力偽装(神)』を開放することに。


 いろいろと疑問や不安が頭を渦巻いているが、チュートリアルなんだから仕方がないと思い、ログの確認も忘れて『魔力偽装の使い方』に目を通していると、ぱっと辺りに光が走る。同時に誰かが驚く声も聞こえる。


「ゲームのステータス画面じゃん!?」


 その言葉に思わず反応してしまった。


 ん? どういうことだ? みんな最初からあったわけではないのか?


「それって…」


 口を開きかけたところで耳を劈くようなアラームが鳴る。ステータス画面が赤く明滅し警告文が浮かび上がる。


《現在、不用意な発言は控えてください!》


《ゲームの進行に致命的な影響を与える可能性があります!》


 急な出来事に思わず身体がびくっとなる。周りの人に変に思われたか?


 不安そうに辺りを見回すと、他の10人もどよめいている。どうやら前にいる青年の言葉に注意を引かれているようだ。警告音も自分にだけしか聞こえていないらしい。


(目立たなくてよかった。)


 若者の言葉を聞いて、王が説明を再開する。

「我々は『ゲーム』という物についてはよく知らない。だが、遊戯の神であるガメスはあらゆる遊びを知り尽くしている。無論、異世界の物も全てだ。今『ステータス画面』と言ったか?ではその呼び方で統一するとしよう。これから他の者にも同じようにするから並んでくれ。ちなみに、この『ステータス画面』というのは君達自身の知識…頭のなかにある情報を利用している部分が大きい。だから、それぞれの目に映し出されるものは必ずしも同じでは無い」


「えっと、これはどうやって使えばいいっすかね」青年が尋ねる。


「ふむ。念じただけで操作ができるように神官長が手を施したはずだが、最初は慣れないかもしれないな。いろいろ試してコツを掴んでみてくれ」


 青年が空中で指を動かす。すぐに「おぉ」と感嘆の声を漏らした。うまくいったようだ。それを見た何人かの異界人達も列を作って神官長の前に並び始める。しかし、すでにステータス画面が出てきている俺はどうしたらいいだろうか?


 迷っていると、チュートリアルが列に並ぶよう指示するので仕方なく並ぶ。待っている間、途中だった魔力偽装に手をつける。


〈それではステータスの偽装を行います〉


 え?


 スキルの詳細についてヘルプを見ようとしたところで、チュートリアルによって強制的にステータスの改変が実行された。


 画面が全く別の物になる。画質もスーパーファミコンくらいの物に変わり、表示されている能力値も平凡で項目の数も少ない。他には特殊ステータスに『大器晩成』『魔弾の射手』と表示があるだけ。盗賊とはほとんど関連のないものに修正されている。


(いったい何なんだこれ!?偽装だから本当にステータスがこうなったわけじゃないだろうけど、さっきから急にチュートリアルが強引じゃないか?)


 頭の中で「おい!さっきからなんかおかしいぞ!いったい何なんだ!?」と抗議してみる。あまり意味はないかと思ったところで、チュートリアルの声が反応する。


〈必要な措置なので、従ってください〉


 必要って…何のために必要なんだよ。他の人間にステータスが見られると困るのか?というか、これって他の人には見えてないんだよな?


 今更な疑問ではあるが、少し心配なので後ろから覗かれていないか確かめる。いるのは列に並ぼうとしない二人の男女だけだ。


 それにしてもこの人たちはどうしたんだろう。


 気になったので話しかけてみる。


「あの、並ばないんですか?」


「は、はい。すみません。どうぞお先に」


 俺よりも年上と思われる男性が答える。


 どうやらこの二人はこの状況に納得していない様子だ。どっちかというとこういう反応のほうが自然かもしれない。この状況をすんなり…とまでは言わないが、なんだかんだで受け入れている俺達はどうかしてるのかも。

 だけど、今のところ他にどうしようもないし、ひとまずは流れに身を任せるしか無い。様子のおかしいチュートリアルのナビゲーションに関しても、とりあえずは目をつぶるとしよう。


 そうして、俺を含めて9人までが神官長の魔術付与を終える。とくに何か言われることもなかったし、怪しむ様子もなかったから、大丈夫だろう。


「そちらのお二方はどうされました?」


 神官長が残っている二人に話しかける。苛立つわけでもなく、穏やかな口調だ。


「あの、これってどうしてもやらなきゃいけないんでしょうか」


 若い女性の方が申し訳なさそうに尋ねる。


「この措置はあなた方が能力の操作を円滑に行うために必要なものなんですが、既に十分な操作が行えるというのでしたら無理にすることはありません。ただ、今皆さんにかけた魔術には能力をある程度把握する意図もありましたので」


「えっとそういう意味じゃなくて。『守護英雄』?っていうのを、絶対にやらなくちゃいけないのかっていうこと、です……」


 ああやっぱりそうか。なんとなくそう言う人もいるんじゃないかって予想はしてた。


「なるほど、そういうことでしたか。無理もありませんね。急に別の世界に呼び寄せられて、しかも英雄として戦ってくれなどと要求されるなんて、簡単には受け入れ難いでしょう。きっと我々が同じ状況に置かれても同じだと思います。今回の様に11人も召喚すれば、幾人か拒否なさる方がいても不思議ではありません」


 それを聞いた二人は不安そうな表情をいくらか和らげたようだ。召喚した人間が自分たちの心情を理解してくれたからだろうな。


「お二人がこの世界での活動を受け入れられないというのであれば、元の世界に戻る儀式の手配をしましょう。ただ、そうですね……何もせずにそのまま帰ってもらうというのも悪いですし。儀式の準備にも時間がかかります。せっかくですから、体験という形で今日一日は『守護英雄』として、基本的な訓練や勉強をしてもらいましょう。お二人は見学なさるだけでも構いません」


「時間がかかるなら…仕方ないですね。わかりました」


「ご心配なく、夜には儀式を行えるでしょうから。それまで僅かではありますが、貴重な異世界の時間を満喫していただければ幸いです」


 二人は無事に元の世界へ帰れるという確信を得たからか、打って変わって楽しそうな様子をみせる。時間が限られるとはいえ、危険に巻き込まれることなく異世界での出来事を体験できるというのであれば、これ以上ない取り計らいと言えるだろう。


「それでは皆さん。まずはじめに地下訓練場に参りましょう」



『魔弾の射手』:魔力を消費して7発の魔弾を得る。最初の6発は意のままに狙ったところに命中する矢(もしくは弾、石礫なども可能)7発目は必中効果は無いが、強力な破壊魔力の篭った矢を放てる


『大器晩成』:初期のレベルアップによるステータス上昇値が半分になる。レベルが50を越えるとステータス上昇が通常の5倍になり、スキルポイントも多くもらえる。


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