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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
29/93

メインクエスト:小目標『再びコサの町へ』2

 

 ◇


「というわけで加藤。ここで待っててくれ。ある程度状況を把握したらすぐ戻って来るから」


 そう言って走りだそうとした時「待った!」と呼び止められる。三人の盗賊の内の細身の男だ。おそらくリーダー格なのだろう。

 

「どうした?急いでるんだが」


「急いでいるんなら俺が案内する。コサの町まで最短最速で行ける一番下りやすい所を知ってるからな」


「そいつは助かる!えっと名前は」


「ヒーゴだ」


「よろしく頼むヒーゴ!」


 そして俺達は町を目指し走り出したのだった。


   △


 一方その頃コサの町は、冒険者通りの方からようやく薄っすらと明るくなり始めたばかりだった。


 光の元となる陽神の眼はまだ遠く東の地平に隠れている。


 そんな朝早くだというのに、冒険者通りの家々の戸を叩く者がいた。


「朝早くに失礼する!衛兵だ!聞きたいことがある!」


 王都からの早馬による伝達で、コサの衛兵は止むを得ず町の人々の安眠を妨害する事となったのだが……。


「うっせえぞ!こんな朝早くからなんだバカ野郎!!」


「ぶっ殺されてえか!!」


「俺の眠りは10マクスだぞ!払えんのか!!」


 当然のことながら衛兵たちは冒険者通りの人々から大顰蹙(ひんしゅく)を買うこととなった。

 

 さんざん罵倒を浴びせられ水をかけられたりもしながら、それでもヤギリの人相書きを手に聞き込みを続ける衛兵達。気の毒だが、要人捜索の命令を受けているのだから仕方ない。

 

 そうしているうちにアピリーの店『ケットシー』にも衛兵たちがやって来る。

 外の騒がしさに気づき早くに目を覚ましていたアピリーは、しばらく衛兵たちの様子を観察していた。


「さーて、一体何をお探しなのかな~」


 衛兵たちは既に開いていた扉から控えめな声で呼びかける。「はいーはーいこんな朝早くになんですか~」と明るく顔を出してくれた店主の姿に衛兵たちは安堵した顔を見せた。


「実はカマルナムの城に招かれていた客人が行方不明でな。この辺りにいるらしいという情報があったので探しているのだが、見てないか?」


 アピリーは人相書きの顔を見てひとまず眉根を寄せてみる。


「ん~~。この人の名前はわかんないの?」


「ヤギリという方だ」


()()()ね~」


 アピリーの脳は瞬時に計算を始めた。


 名前を偽っている。素性を知られたくない。町にいたのに衛兵に見つかっていない。見つかりたくない。教えるか。教えないか。どちらに恩を売るか。どちらを敵に回すか。依頼の途中。商人としての信用。金払いがいいのは……。


「ちょ~っとわかんないかな~。店で買い物してくれたお客さんなら忘れないんだけどな~」


「そうか……。朝早くにすまなかった!協力感謝する!」


 衛兵達はすぐに隣の建物へと移動していった。


「こういう時に謝礼の一つも寄こしてればまた変わってくると思うんだけどね~衛兵さん」


 さーて二度寝二度寝と言いながらアピリーは二階へと消えて行った。


   ◇


 山の麓にまで来たところでヒーゴとは別れた。

 あの男のおかげでかなり楽に、しかも早く下山することができた。まだ体力にも余裕がある。

 まだ遠い町を目指して走りだす。急に平地になったからか、走る足も軽い。


 少し陽が顔を出し始めたな。どこまで衛兵達が調べているか……。


()()()()なら、いいんだが」


 町に着くのには意外と早かった。太陽は既に顔を出しているが、外に出ている人は少なく疎らだ。

 クロトから授かった布で顔を覆いつつ隠密状態を維持しながら小さな路地を行く。なるべく静かに速く、小目標になっているボレックの仮宿を目指す。


 途中何度か衛兵達の近くを通らなければならなかったが、全く気付かれることはなかった。

 そして町の中心部、ボレック宅の近くの路地までやって来た時に見つけた。


 路地に面している割に大きく立派な屋敷のような建物から出てくる三人の人間。あの装束は忘れない。


 奴ら……!あの時俺を捕まえようとした連中だ!まずいぞ、この辺を調べてるってことはボレックの家も調べられる可能性は高い。部屋の籠の中にしまってる俺の服が見つかったらヤバい!!どうにかして引き離さないと……。


 何のことは無い。奴らの前に姿を見せて逃げればいい。だがしかし、それでは露骨すぎないか?見つけられたくない何かから遠ざけようとしていると勘繰られる可能性も高い。

 じゃあ、攻撃を仕掛けてみるか?城の一件の仕返しとして一矢報いようとして、上手くいかずに逃げる?そういう流れで行くか?もうやるしかないぞ!


 小さな路地へ入ろうとする密偵3人の後ろ数メートルまで近づく。まだ気づかれない。


 一番後ろにいる男まであと数歩。


 悟った様子は無い。


 手が届く位置。


 俺の手にはダガーが握られている。


 首は無防備か?


 もうすぐ路地から出てしまう。


「?」


 目の前の男の顔が微かに横に動いた。


 脳裏に地下牢での出来事がフラッシュバックする。


 その光景を、なぞるように、左手で口を押え、右手のダガーが、男の喉を……。


 掻き切ることはなかった。


「クソっ!」


 何か硬いものでガードしている!

 咄嗟に右の肩のあたりを切りつけて後ろに飛びのいた。


「貴様何者だ!!」


「そいつだ!城から逃げた男だ!」


 その言葉が聞こえると同時に背を向けて走り出した。


「追え!そいつさえ捕えれば全て片付く!」


「なんだって……?」


 追跡者の言葉にちらと振り返ると追って来ているのは二人。残った一人は怪我の手当てをしているのだろうか。

 

 いや違う。怪我をした奴は今後ろにいる!指示を出した男はリーダーか?衛兵達に連絡を取っているのかもしれない。それより今のセリフは……。いや、まずは逃げきってからだ!


 今の所追いつかれる様子はない。しかし、振り切ることもできていない。どこかでやり過ごせるか?


 広い路地から小さな路地へ曲がった所で、ちょうどいい所に樽や木箱が置かれているのを見つけた。


 これもクロト様のご加護かな。


  △


「消えた!?」


「すぐそこの路地に曲がったのではないか?俺はそっちへ行く。お前はこの先へ!」


「おう!」


 王の密偵『烏泥衆』の二人は見当違いの方向へと走って行き、やがて目標を見失う。


 ヤギリはただ、積み重なった木箱の陰に腰を下ろして休んでいただけだ。

 日陰であった事とクロトの加護によって、追跡者たちは全くその存在に気づけなかった。


 呼吸を整えたヤギリは更新された小目標を確認し、コサの南側へと移動を開始する。


 パストールへの街道を臨む町の入り口にはこれから出発するであろう馬車が幾つかあり、その家の一つの大きな荷馬車が今まさに走り出そうとしていた。


 ヤギリは迷わずにその馬車の荷台に飛び乗った。


 馬車の主は最初から最後まで、荷台に盗賊が紛れ込んでいることに気づかないのであった。



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