メインクエスト:小目標『再びコサの町へ』
◇
加藤の事は考えないようにしていた。
ガメスは何も教えてくれなかったが、俺が城の中へ戻るように言った後に上手く逃げられたとも思えなかった。
だが、今目の前にいるのは間違いなく加藤だ。
「無事、なんだよな?ひどい目にはあって、ない、よな……?」
加藤の全身をさっと確認するが、それなりに小綺麗な格好をしている。暗視状態の為わかりづらいが健康状態も悪くなさそうだ。
気になるのは右手に持っている動物の足のようなものだ。時々小さく咀嚼するかのように口が動いているし。食べているのはわかるが、ちゃんと火を通してあるのだろうか?
「大丈夫。助けてもらったから」
そうか。そうだよな。俺を助けてくれた何者かがいるんだ。加藤の事も助けてくれたという可能性はある。
「よかった……!それで、誰が助けてくれたんだ?」
「……盗賊」
「な……」
驚きはした。しかし、ここは盗賊の野営地。そんな場所にいるという事は盗賊と何かしら関係があるのかとは思った。まさか助けてもらっていたとは。それに、加藤の様子を見るに乱暴はされていないようだ。
「そ、そうか。暴力を振るわれていたりはしない……みたいだな?それでその盗賊さんは?」
「今、仕事に行ってる」
「ああ……まあそうだよな。コサの町で噂になってる泥棒が、加藤を助けてくれた盗賊ってわけだ……」
ちょっと考えればすぐわかる事だよな。
感謝、すべきだろう。俺だって同じ盗賊なんだ。盗みを咎めるようなことなんてできない。
それにしても、あの状況から加藤を救出できる盗賊って事はすごい盗賊なんだよな?町で聞いた話じゃ、腕はいいが小物っていう話だったけど。まあ所詮は噂っていう事か。
「あの後城から逃げられたのは、その盗賊のおかげなんだよな?よっぽどすごい盗賊なのか?」
「それは……」
ちょうどその時少し離れた場所からガサガサという音が聞こえた。
「誰か来る」
咄嗟に加藤の手を掴んで洞窟の中に隠れようとした。が、できなかった。
加藤が微動だにしないのだ。
「か、加藤?」
「彼らが戻って来ただけ。随分早いけど」
彼らというのは盗賊の事なのだろう。それならいいのだが、なんと説明すればいいか。
近づいてくる音を気にしながらアレコレと言葉を考える。しかしまとまらない。
そうこうしているうちに獣道を通って三人の男が野営地に姿を現した。
全員まだ若い。俺と歳が近いかもしれない。
「戻りました姐さん」
「あれ?いない?」
三人は大きい方の天幕を覗き込んでいる。こちらには気づいていない。
「……姐さん?って呼ばれてるのか?」
「よくわからないけど。そう」
どういう経緯か知らないが、その呼び名から察するに山賊達からは多少敬われているらしい。
「こっち」
加藤が呼びかけると三人がこっちに近づいてくる。
「そんなところにいたんですか」「どうしたんです?」「ん?その男は誰ですか!」
さすがに気づかれた。険悪そうな雰囲気ではないが大丈夫なのだろうか。
「この人が私の探していた人」
「えっ。そいつが?」
「よかったですね姐さん」
なぜだろう。まるで加藤がこの三人のボスみたいな感じだ。詳しいことは後で聞くとしてひとまずは礼を言わないと。
「とりあえず最初に礼を言わせてほしい。加藤を助けてくれてありがとう」
「?」「助ける?」「カトウ?」
ん?三人とも一瞬不思議そうな顔をしている。なぜだ?
直後、三人が一瞬恐ろしいものを見たような顔をしてすぐに慌てて笑顔になる。
「ああ!そうそうあの時の事だな!?」「いやー!あの時は危なかった!」「姐さん!カトウって呼ばれてるならそう言っといてくださいよ~!」
なるほど、加藤は下の名前しか言ってなかったから誰の事かわからなくて混乱したのか。
「よかったらこれを受け取ってくれ。助けてもらった他にもいろいろ世話になったみたいだし」
俺は気前よく金貨を一枚、一番前にいた細身の男に手渡した。暗い為、ジグス金貨だとはわからないだろう。あとでびっくりするはずだ。
「いいってことよ!」「姐さんの為ならな」「あんたいい奴だな」
やりとりが一段落したところで、三人はなぜか少し暗い顔になる。申し訳なさそうに加藤の方を見ると「すんません姐さん」と細身の男が口を開く。
「どうかした?戻りが早い事と関係があるの?」
「実は、町の方が騒がしくなってきて」
俺は直感的に何が起こっているか悟った。
「もしかして衛兵が誰かを探し回っているのか?」
三人の盗賊が「どうしてわかったんだ」という顔でこちらを見る。
「まずいな……!」
どうやら町に俺がいるのがわかったらしい。となると、ボレックに害が及ぶかもしれない。娼館にずっと居てくれればいいのだが。
「急いで町に戻らなきゃ」
「どうして?」
加藤が不思議そうな顔をする。
「奴らが探してるのは俺だ」
俺の言葉に三人の盗賊の方が驚く。
「兵士に追われてるって?あんた一体何者なんだ?」
その問いになぜか俺は笑ってしまった。そして少し困ったような表情で答えた。
「俺はヤギリ。『盗賊』だよ」




