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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
27/93

メインクエスト:小目標『盗賊の野営地を探す』2


   ◇


 向かうべき場所がはっきり示されているおかげで迷うことは無い。


 だが夜の暗闇は恐ろしく、首の後ろに嫌な寒さを感じる。

 星明かりが大地を照らしているものの、山ともなればそのわずかな光も木々が遮ってしまう。

 自分が触れたり踏みつけたりする草木の音にいちいち緊張する。

 あるはずの無い気配。鳥や獣の声。わずかな風の音にすら神経を尖らせる。

 

 何度経験しても、夜の闇は怖い。 


 ガメスの恩恵かそれとも盗賊の能力としてなのかはわからないが、暗闇でもよく視える事が救いだ。スキルや現在発動している効果について確認してみてもいいが、今は立ち止まったりステータス画面を開くような余裕はない。魔物だって出るかもしれないのだ。隠密状態が絶対に有効だとも限らない。


 俺は二日ぶりに握りしめたダガーの感触にわずかな勇気をもらいながら道なき道を登って行った。


 マーカーの高さと同じ位置くらいまで登り、山を左の方向へと歩いていく。幸いにも勾配は緩やかでそれほど体力的にもきつく無かった。目標地点はそれほど遠くではなさそうだ。


 30分程移動を続けるとわずかに開けた平地を見つけた。テントが二張りあり、片方は大きめで造りもしっかりしているようだ。盗賊の気配はない。町に()()へ出かけているのだろう。


 テントの向こう側には洞窟のようなものもあるようで、視認がトリガーになったのか小目標が更新された。


 小目標:『洞窟内に入る』


 俺は洞窟内にも人の気配が無い事を確認しつつ隠密状態で中へと入って行った。    

 洞窟はそれほど奥深くまでは続いておらず、行き止まりとなっている少し広めの空間に出る。


「ここは祠か?」


 空間の奥には石像が置いてあり。その前にある台座には石で出来た器のようなものもある。

 よく見てみようと石像に近づいたところで再び目標が更新された。


 小目標:『クロト像に礼拝する』


「『クロト』。初めて聞く名前だ。ガメスとかと同じ神様だよな?」


 石像の目の前まで近づくとわずかに水が流れる音がした。よく見ると、器の中心にある穴から水が湧き出ているらしい。一体どういう仕組みなのか、それとも水が湧き出る所にこういうオブジェクトを作ったのか、どちらにせよ場所が場所なだけに神秘的な物を感じる。

 石像自体は、全身をピチピチのローブで纏ったような長髪の女性の姿で、どこか怪しげな色気を醸し出している。


 礼拝をしろと言われても、俺が知っているのはアレしかない。それでいいのか?


 俺は水の出る器の中にジグス金貨を一枚捧げ、僅かに高い位置にある小さな石像に向かって一揖二礼二拍手一礼一揖の作法で礼拝する。その刹那に「盗賊として上手くやっていきたい」とだけ念じた。


 特に何も起こる様子は無い。一度洞窟の外に出ようか。


〈人の子よ〉


 背後からの不思議な声。この感覚、ガメスの時と似てる。


 振り返ると石像がわずかに青白い光を放ち始め、やがて洞窟内が星明りに満ちた夜空のように変わった。

 

〈我がなんであるか知っているか?〉


 妖艶な雰囲気の漂う女性の声で問いを発する石像。生きたような質感を持った石像の瞳がこちらを見下ろしている。


「いいえ。存じません」

 

〈そうか。ならば教えよう〉


 クロトは自分が夜を司る神である事、盗賊の守り神でもあり幸運をもたらす存在であることを簡潔に説明してくれた。次に俺の名前を訪ねて来たので、ここでは正直に『ヤギリ』と答えた。


〈そなたはこの私に何を誓う?〉


 急な話だ。いきなり何かを誓うような事になるなんて考えていなかったから悩む。


〈よく考えて答えよ。誓いを守れば恩恵が、破れば罰がある〉


 罰という言葉に思わず小さく唸る。深く考えた結果「人から盗むときは殺さない。殺した人からは奪わない」という割とあっさりした誓いに思い至った。

 この近いが気に入ったのかどうかわからないが〈ほう……〉と感心したようにクロトが笑みを見せた。ような気がした。


〈では、この石像の陰にある布を使って私の身体を磨くがよい。水には浸けずにな〉


 言われた通り石像の陰にあった汚いボロキレでクロトの石像を拭く。なるべく丁寧に時間をかけて。

 

 無心になって掃除を続けているとやがて満足そうな声が聞こえた。

 

〈……ふむ、まあいいだろう。その布を器の水に漬けよ〉


 指示に従い水に漬ける。


 驚いたことに、水に漬けたボロキレは一瞬で深い緑の衣に変化した。布の面積もあきらかに変わっており、少し幅の広い帯のようなものになっている。

 

〈その布をくれてやろう〉


「あ、ありがとうございます!大事にします」


〈まだ終わりではないぞ。器の水を手で掬って呑め〉


 器の水はボロキレの汚れだけとは思えないほど怪しげな濁りを見せていた。間違いなく腹を下すような汚水。その前に吐き出してしまう可能性の方が高いだろう。


〈どうした?飲まないのか?〉


 やや不機嫌そうな声。


 この神様に嫌われるのは絶対にマズイ!飲めばいいんだろ飲めば!!


 ヤギリはヤケクソになって水を何度も飲んだ。そうして必死になって飲んでいるうちにあることに気づく。


 特別変な味はしない。それどころか、ただの水のようにしか思えない。汚れた布を浸けたという事と水の濁った色のせいで汚いと思い込んでいただけか?


 気が付くと器の水はすっかり無くなっていた。


「あれ?水は……?」

 

〈ヤギリ。そなたに夜の加護を与える。精進するのだぞ。そして、誓いも忘れるなよ〉


 クロトは用が済むとあっさりと消えた。洞窟もいつのまにか夜の暗闇に沈んでいる。

 いまさらな事だが、とても非現実的で不思議な時間だった。妙な清々しさがあるというか。


「ガメスの時と違って、本当になんか……()()()()()()()っていう感じがしたな」


 小目標が『洞窟の外に出る』に変わり、G()N()P()()()()()()()


「えっ……」


 …………。


 何かを悟る。俺は心の中で「ディスったわけじゃないんです。すんませんでした」と謝罪する。


 GNPが1加算された。


「うん。何もなかった。何もなかったんだ。気を取り直して行こう」


 俺は洞窟の外へと出た。


 そして、思いがけない人物と再開する。


「ヤギリ……さん?」


「加藤……なのか?」


 城に置き去りにしてしまったはずの加藤美奈が目の前に、いた。




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