メインクエスト:小目標『盗賊の野営地を探す』
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アピリーの店からボレックの仮宿に戻ったヤギリ。家の主はまだ戻ってきていないようで少し待つことになり、着替えの置いてあったのとは別の部屋にある姿見を発見し、自分の服装を満足そうに眺めていた。
(こういう綺麗な鏡って、昔はそんなに無くって貴重な物だったよな?それがあるって事は、ボレックはそこそこ裕福な商人なわけだ?たぶんだけど)
しばらくしてボレックが帰宅。
さっそく服の事を聞かれたヤギリは、アピリーの店での出来事を話して聞かせた。無理やり服を着せ替えられた事と、金貨の事。盗賊の話については当然伏せた。
ジグス金貨の話にボレックは顔色を変えた。少し考えた後、ヤギリに持っている金貨を全て出すように言うと部屋の奥にある棚へと向かう。
ヤギリは言われた通り机の上にジグス金貨19枚を置いた。
ボレックは鑑定のための道具のような物一式を用意して金貨一枚一枚を調べていった。重さ、手触り、硬さ、表面の細部、入念に確認した後にため息をついて「本物だな。アピリーにくれてやったのだけ偽物って事もないだろう」と呟いた。そして「カゲミチ、この金貨を一体どこで……」と言いかけてやめた。ヤギリが聞かれたくなさそうな顔をしていたからだ。
ヤギリへの質問はやめて、ジグス金貨が非常に価値が高い事と理由を説明。その後にマクス金貨に換金することを提案する。とりあえずはジグス金貨10枚とマクス金貨100枚を交換するという内容だ。
実際の所、マクス金貨100枚では足りない。ボレックがすぐに用意できる限界だったからだ。そのかわり、足りない分は必要に応じてヤギリを支援をするという話だ。
もちろんヤギリは快諾した。
ボレックはさっそくどこからか金貨100枚が入った袋を持ってきてヤギリへ渡す。
「中身は確認しなくていいのか?」
「信用を失うようなことをするはずないでしょう。それに偽物かどうかなんて俺にはわからないし」
ボレックは「それもそうだな」と肩をすくめた。
ただ、この時のヤギリは看破系のスキルを使うことが一応できたのだが、本人は全くボレックを疑っていたなかったし、スキルの事も頭になかった。無論、金貨が偽物であるという事は全くない。
その後は明日の予定を確認し、コサの町の酒場へ繰り出して夕食をすることにした二人。当初ヤギリは人目を気にして渋っていたが、ボレックお薦めの隠れ家的な店で衛兵がほとんど見回らない場所だと説得され了承。
ボレックお気に入りの酒場『石切りモグラ』はその名の通り地面の下へと続く階段の先にある。中の壁や床は綺麗に削られた石で出来ており、地下とは思えないほど広々としている。客も結構多い。
二人はちょうど空いていたカウンターの端の席に座り果実酒で乾杯したあと、それぞれ自由に注文して食事を堪能した。
ヤギリはお品書きの文字を翻訳された状態で見れるので読むことは出来たが、『竜神焼き』が大きなトカゲの丸焼きだとわからずに一度だけ失敗した。味は問題なかった。
腹を満たし程よく酔いも回ったところで『石切りモグラ』を出た二人は、そのまま仮宿へは向かわなかった。ボレックがお薦めの娼館へと連れて行ってやると言い出し、ヤギリは気分よく「よし行こう!」と乗り気になったからだ。
『冒険者通り』と町の中心街を繋ぐ通りの境目にある横道。その南側の通路を少し歩いた所に小さな色街がある。
色街まで来るとボレックは自分が入れ込んでいる女のいる店にさっさと入って行こうとし、ヤギリはそれを止めた。どこの娼館に入ったらいいかわからないからだ。
「一番大きい店に入って俺の客だって言えば最高の夜になるはずだ!代金の心配はいらねえ、お前さんは十分に軍資金を持ってるからな!お~っと、遅くても明日の昼までは町の南側に来ておけよ!じゃあな!」
大きな声で笑いながらボレックは店の中へ消えて行った。
ヤギリは大仰に手を振りその背を見送る。そして大きく深呼吸した。
「……時間があれば本当に最高の夜になったんだろうなぁ」
酔いの心地よさとは裏腹に冷風が胸の奥をすり抜けていくのを感じるヤギリ。気配を消し、ふらつくのを誤魔化しながら町の外を目指して歩き出す。
真っ暗な山の中にポツンと見えるマーカーが、ヤギリの酔いを急激に醒ましていくのだった。
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〈ほう、こいつが城から逃げたという男か。……さて、ダルコンに教えてやるべきか?もしガメスが注意していたのなら迂闊に鏡には近づくまい。つまり、構わないという事か〉
ジュミラの目には鏡に映ったヤギリの姿が見えていた。具体的にボレックの仮宿の場所まではわからないが、コサの町にある鏡だということまでは判別できている。
こうして再び、ヤギリへとカマルナムの魔手が迫ろうとしていた。




