メインクエスト:小目標『コサで盗賊の噂を聞く』3
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クエストの小目標を達成するため訪れた店『ケットシー』で、俺は猫顔の女店主アピリーに身ぐるみを剥がされていた。
そして気づいたときには彼女が瞬時に選んだ衣服を着せられている。
「地味すぎず目立ちすぎず、清潔感のある中流って感じを出しつつ、山仕事をしても問題ない丈夫さと柔らかさを重視。汚れてもいい味になる感じだと思うわ!バッチリね!」
なぜか山仕事をしていると思われている。……店主が満足そうなので黙っておこう。
「はあー!スッキリしたわ!お客さんがの服装があまりにアレなもんで禁断症状で倒れちゃう所だったよ!」
そう言って自分が瞬時に見繕ったコーディネートにウットリするように俺の全身を眺めた。
「あ……ハイ……。そんなに、アレでしたか……」
「そりゃそうよ~!だって見てみなさいよあなた!ほら!……あれ?」
「どうかしました?」
店主はさっき脱がせた服を持って俺の身体に合わせながら何度も見比べ、不思議そうな顔をしている。
「おかしいなぁ……。さっきはとんでもないダサい格好に見えたのにこうしてみると特別おかしいことないわ。むしろ似合ってはいる方ね……」
店主は「仕事の疲れとかが溜まってんのかなー」と言いながら店内端の長テーブルへと戻っていく。
俺も何かの間違いであってほしいと心のどこかで願っていたから、その反応に少し安堵した。
……って違う!俺は服を買うために来たんじゃない!アピリーさん?の勢いに圧されて肝心なことを忘れる所だった。
「あのー、ちょっとお聞きしたいんですが。アピリーさん?」
「んー?ああ、ハイハイ。ちょっとまってね商品を閉まったらすぐに戻るから」
さっき見た毛皮のような物を持って奥の部屋へと消えたアピリーは宣言通りすぐに戻ってきた。
「で、お客さん用事は何?無理やり服着せておきながら言うのもなんだけど、服を買いに来たって感じじゃなさそうだね?」
「まあ最初は買う気はなかったんですが、ついさっき買う気になりました。だけど肝心な用事はそれじゃなくて、噂になってる盗賊の事を聞きこうと思って」
アピリーの耳がピクッと動く。
「ふーん盗賊の事ね。……なんでウチに聞くんだい?この店からはまだなんにも盗まれてないよ」
この時、俺の視界にうっすらと会話の選択肢が浮かび上がった。なるべく上手く情報を引き出せそうなセリフを口にしてみる。
「まだ盗まれてないっていうのは、それだけ泥棒に気を付けてるってことですよね」
「ウチは見てのとおり獣人で猫系なもんだから鼻がいいし音にも敏感で夜目も効くからね。夜は眠りも浅いから泥棒が来たらすぐわかるのさ」
「……鼻も耳も良くて夜目が効く。もしかしたら仕事を終えた泥棒の後をつけて行ったりなんて、してません?」
選択肢に無い言葉を投げかける。これは思い付きというか願望だった。
泥棒の気配に気づいて対策できる獣人なら気づかれずに追跡もできるんじゃないか?それにこのアピリーという女性は気が強く腕力もある。
「ンナハハ!変な事言うねお客さん。なんでわざわざそんなことする必要あるのさ?」
「盗賊たちからこっそり品物を奪って、それを誰にも知られなかったら……儲けもんですよね?アピリーさんのさっきの腕力と俊敏さがあれば問題ないでしょう?」
アピリーは少し嫌そうな顔をして、諦めたように手を挙げる。
「あんまり店の中でそういうことは言わないでほしいな~。それ以上は~。」
あーあーせっかく美味しい思いが出来そうだったのにーとだらしなく不満を漏らしている。
(説得成功、話術+2 説得スキル+1)
「別にやめろとは言ってませんよ」
「えっそうなの?」
「俺はただ盗賊達が何処にいるのか知りたいだけなので」
「知ったらお客さんも奪いに行くんじゃないの?」
「いえ、そんな危険な事はしたくないです。」
そう自分で言った後で「じゃあ何が目的だよ」と自分にツッコみ、咄嗟に閃く。
さっき俺の事を山仕事してる人って思ってたみたいだからちょうどいい。
「山に入って仕事するのに盗賊がいたんじゃ安心できないから、どの辺にいるのかだけ知っておきたいんだ」
「ああ、それもそうだね」
ここでなぜかGNPが+2された。
「この町の南東にある山の方だよ。街道から山道に続く分かれ道があるだろう?たぶんあの道の先の山ん中に拠点か何かあるんじゃない?ウチがついて行ったときは山の西側の方から道のない所を登って行ったけどね。言っておくけど山の麓まで行ったところで怖くなって引き返したからね。さすがに何人いるかもわからないのに準備もなしには行けないから」
「そうか……!情報ありがとう!他の人には言わないから安心してくれ」
小目標が『噂の盗賊の野営地を探す』に変わったのを見て礼を言った。
情報も聞き出せたし、あとはこの服と諸々の装身具の代金を払わなきゃな。
「それでアピリーさん。代金なんだけど、この金貨で大丈夫かな」
「マクス金貨ならまだもう一着服が買える、けれど……」
再びアピリーは顔を驚愕に歪める。今度は震えずに停止している。
「今度はなんだ?使えない貨幣だったか?」
アピリーがハッとして正気に戻る。
「そういやお客さん……、ここらの国の人じゃないよね。どうやって手に入れたかは知らないけど旅の人じゃあ仕方ないか」
「あ、ああ。東のまた東の海の向こうの島国から来た」
「この金貨はジグス金貨って言ってね、一般的に使われてるマクス金貨よりも価値が高いの。単純な価格じゃなくて希少な芸術品みたいな扱いっていう感じ」
「そうなのか。ボレックさんに聞いておけばよかったな」
「ボレックさんと知り合い?」
「旅の途中助けてもらってね、今いろいろと世話になってる」
「そっか……。じゃ、これは一旦返すよ。ボレックさんと一度相談して換金するなりしたら?それまでツケといてやるから」
「……いや、これ一枚はアピリーさんにやるよ。使えない事はないんだろ?」
「まあウチなら伝手があるからね。でもどうして?」
「これからもこの町に寄ったらいろいろお世話になると思うし、あとは……。このお店って頼んだら俺に合わせて服を仕立てたりしてくれる?」
「自分に合わせた特注品が欲しいってわけね。もちろんできるわ。『ジグスに頼まれたら誰でも踊る』って言われるくらいだからね、どんなのがお望み?」
「あまり目立たない。丈夫で動きやすい。すぐに顔を隠せる。……今はとりあえずそんなところかな」
「思ってたより普通だね。魔術を通しにくいーとか、火に強いーとかあってもいいのに」
「それ、できるの?」
「まかせてよ。この店には腕のいい職人がいるからさ。」
姿は見当たらないが壁の向こうの方に親指をくいっくいっと向けている。信頼できる仕事仲間がいるのだろう。羨ましいな。
「ありがとう。よろしくお願いします」
深くお辞儀をする。
「仰々しいのはやめてよ。ウチの事はアピリーって呼び捨てでいいからさ、あんたの名前は?」
「カゲミチ」
「『カゲミチ』ね。覚えたよ」
変わった名前だけどなんだかカッコいい響きだねとにっこり笑うアピリー。
「品物が出来たらボレックさんの所に持って行くよ。丹精込めて作るから時間は掛かるからね!最低でも20日は待ってて!」
「わかった、気長に待つよ。それじゃ」
軽く手を振って店を後にする。
ボレックさんによろしく言っといてよね~と無邪気なアピリーの声が追いかけて来たので、振り返らずにもう一度手を振った。




