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ゲーム脳盗賊、闇を狩る。  作者: 土の味舐め五郎
第一章 ~カマルナム王国脱出~
23/93

メインクエスト:小目標『コサで盗賊の噂を聞く』


   △


 時は少し戻り、街道と山への分かれ道で停止するボレックの荷馬車の場面。 

 やや小高くなった丘から町の方を注視するヤギリをボレックが眺めている。


「おーい。そんなところから見たって町の様子なんかわからんだろ?」


 しかしヤギリには町の入り口付近で通行人に紙のようなものを見せて何かを話している兵士の姿が見えている。さすがに遠くてぼやけ気味だが、かろうじて状況は理解できた。


「ボレックさん。俺はここで降りるよ」


 ヤギリは荷馬車へと駆け寄ってボレックに告げた。


「どうした急に?見つかっちゃまずい奴でもいるのか?」


 ボレックの問いに、ヤギリは口を濁す。


「詳しくは話せないんだけど、この国の兵士には見つかりたくないんだ……」


「ほう……。そういうことなら俺の荷台で布でもかぶってやり過ごせよ。お前さんの事を探してるなら、見当はずれの事を言ってかく乱してやる」


「バレたらまずいでしょう!」


「ま、そんときはお前さんだけ逃げな。俺の方は脅されたとか言っておけばいい。それに、近くで衛兵がどういう様子でお前さんを探してるのか分かった方が得だろう?」


「まあ、そうですが……」


「なら決まりだ。安心しろ、衛兵に突き出すような事はしないからよ!」


 はっはっはと笑うボレック。

 こうしてヤギリは不安を感じながらも荷物と一緒に布の下に隠れてやり過ごしたのだった。


   ◇


「どうやら衛兵さん達は重要な客人が行方不明だということしか知らないみたいだな」


「そのようですね」


 ボレックに短く答えて思考をめぐらす。


 全員が全員、王とダルコン神官長の思惑に加担しているわけではないという事か。かえってやりづらいな。皆まとめて『敵』だと認識できれば、どれだけ気が楽だろう。


「もう少ししたら目的地だ」


 ボレックが「だからも少し辛抱しろ」という意味で呟く。

 しばらくすると荷台の揺れが治まった。さっきと比べて随分と暗くなったし涼しい。日陰に入ったのだろう。

 荷台の布が取り払われ、周囲の様子が明らかになる。

 わずかに青みがかった石灰のような色の石。それを丁寧に切り出して積み上げたような建物が多く並んでいる。道はやや狭く、敷き詰められた石畳はくすんだ緑色と黒い斑点があり表面は粗い。広くはないが、建物の高さや並び、道幅などが綺麗に整っており、窮屈な感じはしなかった。


 俺がコサの町の景観に見とれている間に、ボレックはすぐ隣の建物の扉を開けていた。荷物も下ろさず、馬も繋いだままだ。


「ま、とりあえずここで一休みしてな。お前さんが訳ありなのはよくわかった。悪いやつじゃあないみたいだからな。いろいろ協力してやるよ」


 建物の中へ入るよう促すボレック。だが俺は扉の前で立ち止まる。


「どうした?」


「町の外でも言いましたが、きっと危険なことに巻き込まれます。これ以上は世話になれません」


 踵を返そうと一歩下がる。が、すぐボレックに制止された。


「待てよカゲミチ。……そんなに危険なことがあるのか?これから?」


 危険なことがあるのかと聞かれ、ダルコンの魔の手にかかったミツルギの姿が脳裏を過る。


「それは……、少なくとも俺は危険な目に遭います。その過程で、もしも恩のあるボレックさんに何かあったら後悔します」


 なるほどなという顔をしてボレックは腕を組み、入り口脇の壁にもたれかかる。


「心配してくれるのはありがたい。けどな、危険があっても協力したいっていうのは俺が自分で判断したことだ。それで死ぬような目にあってもそれは俺の責任だからな。第一、危険な目なら今まで生きてきて何度もあった。そういうのを乗り越えて俺ぁ商売続けてんだよ。それにな、お前さんとつるむのは危険かもしれんが、その分大きな儲けがありそうな気がするんだよ」


「……商人のカンですか」


「おうよ」


 鼻息をフーンと鳴らしたボレックのドヤ顔がやけに頼もしい。


「わかりました。一応忠告はしたんですから、恨みっこなしですよ」


 目に力がこもり、語気も強くなる。恩人だからこそ半端に首を突っ込まれたくない。


「はっはっは!随分おどかしてくれるじゃねぇか。安心しな。恨むとしたらカマルナム王の顔でも思い浮かべてやるからよ」


「……そうしてくれると助かります。それで、これからの事なんですが」


「お前さんがこれからどうしたいのか話はまず後だ。俺はこれから馬を預けにいくついでにちょっとした商談をしに行かなきゃならねえ。この部屋で休んでてもいいし、疲れてねえなら町ン中でもブラブラして時間を潰しててくれ。それとその恰好はまずいからさっさと着替えな。奥の部屋に服があるから……」


 そこまで言って「俺の服じゃ少し大きいか?まあ無いよりマシだろ」と独り言のように呟いた。


「とにかく、お前さんは少し気を休めろ。でないと続かねえぞ?俺もなるべく早く戻る」


 ボレックはそう言うと荷馬車を再び動かして町のさらに中心部へと向かって行った。


 俺は自分の服装を改めて確認し「確かに着替えないとな」と痛感した。

 ボレックの別宅の奥の部屋へ行くと、丈夫な木の皮で編んだ籠のような入れ物が幾つか置いてあり、その中でも最も大きい籠に衣服が丁寧にたたまれてしまってあった。 ボレックが言っていたとおり、どれもサイズが少し大きい。しかたなくではあるが、籠の一番下にあったものが一番地味目でサイズ感も良かったからそれにした。

 

 かろうじてちぐはぐではない感じ程度の服装だとは思う。鏡が無いから全体のバランスがわからないが……。


「まぁこんなもんだろう」 


 そう自分に言い聞かせて部屋を出ると、消えていたはずの小目標が更新された。


『コサで盗賊の噂を聞く』


 着替えたことがトリガーになったのだろうか。こういう目標が出てきたからには町を歩いて住民の会話に聞き耳を立てるしかないよな。

 

 俺は入り口近くにあったツバの広い帽子を咄嗟にかぶり建物の外へ出た。

 

 まずは人がたくさんいそうな所へ。


   △


 視界に表示されるマーカーを頼りにヤギリは未知の町へと歩き出す。


 はたして、ヤギリが探ろうとしている噂の盗賊とは一体どんな連中なのであろうか?



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